始まりを感じる春。新しい生活に向けて心躍るような気持ちになりますが、もしかしたら、知らないうちに疲労をどんどん溜め込んでいるかもしれません。「私はいつでも元気」と自信がある人ほど、危険!?「私がやらないと!」と責任感が強い人も同じです。それは、疲労を回復する方法が違っていることが原因だと言えます。知っているようで知らなかった“疲労の正体”をお伝えします。
本当は疲れているのに気づかないことも!
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本当は疲れているのに気づかないことも!
日に日に暖かくなり、重いコートを脱いで、身も心も軽やかになる春。新しいことが始まるような華やかな気持ちになりますが、一方で、何かとあわただしくなる季節でもあります。引っ越しのような大仕事はなかったとしても、衣類の入れ替えや、子どもの進級に伴うあれこれ……といった名前をつけようがない細かい作業も多くあります。きっと誰にとっても、公私ともに大変なとき。「私はいつも元気だから大丈夫!」と思っていると、気づかないうちに疲労が大きくなっているかもしれません。もちろん「私しかやれる人がいない」と、責任感からどんどん仕事をこなしてしまう人も同様です。疲労に気づかないなんてありえない、と思われるかもしれませんが、私たちはごく身近にある疲労やその回復法を、正しく理解していないのかもしれません。
今回お話をうかがったのは、東京慈恵会医科大学の近藤一博先生。世界に先んじて、疲労を研究する先生です。
「疲労について誤解が多いのは、仕方のないことだと言えます。なぜなら、これまで世界的に疲労の研究が進められてこなかったからです。医学の世界は、多くの場合、欧米の学者によってリードされてきましたが、欧米では疲労が大きな問題ではなかったため、研究の対象にならなかったのです。日本では1999年から国家プロジェクトとして疲労研究がスタートし、疲労のメカニズムがわかったのは、ごく最近のことなのです」
疲れたと言いにくい。それもひとつの原因に。
日本が世界に先駆けて疲労研究を進めてきたのは、疲労が国民病とも言える状況にあるからです。
「日本では、多くの人が疲労を軽視しながら生活しています。目一杯仕事をしていても、別の仕事を頼まれると引き受けてしまう。睡眠不足を感じていても、食事のお誘いがあると参加してしまう。そんなことはありませんか。身体のどこかに痛みがあると、怖い病気が隠れているかもしれない、と何かしらの対処を考えると思いますが、疲れは放置してしまう人が多い。日本の生活習慣や考え方が、そうさせているということもあります。欧米では、風邪をひけば仕事を休むのが当たり前です。『人にうつしたらみんなが困る。それに具合が悪いのに仕事をするのは効率が悪い』と考えて、仲間と自分のために仕事を休みます。日本も、次第にその考え方に変わってきましたが、少し前まで、風邪では仕事を休めないと考える人が多かった。風邪でさえそうなのですから、疲れくらいで休めないわけです。それを隠してがんばってしまうのですね。その結果、うつ病などにつながってしまうことも多くあります」
“疲労で倒れる”のは誰でも起こりえること。
日本は、過労死という大きな社会問題を抱えています。欧米には働き過ぎで命を落とすという概念がなく、その言葉自体が存在しないため、そのままKAROSHIとして使われています。
「疲労は深刻な問題です。最も怖いのは、身体に蓄積された疲労に気づかないことです。自分の疲れに気づけること。それが大切なのです」
突然倒れるのは、徹夜を続けるなど、よほど特殊な仕事の仕方をしている人だと思っているかもしれませんが、実は誰にとっても他人事ではないのです。