vol.6
これまで治せないと諦められていた病気を、細胞や生体組織を使って治せる時代が来る。世界的に注目されている、最先端の医療「再生医療」。医療用医薬品を作っていないロートが、なぜ挑戦するのか?代表取締役会長兼CEO・山田邦雄がお伝えします。
再生医療。新たな医療への挑戦。
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再生医療。新たな医療への挑戦。
細胞の多様な働きが、人の持つ治癒力を高める。
「人々を元気にしたい!」。そんな想いから、ロート製薬は目薬や胃薬をはじめ、スキンケア、食などさまざまな事業に取り組んできました。そして、今、同じ想いで再生医療という最先端の研究と実用化に取り組んでいます。再生医療とは、細胞や組織を使い病気を治療しようという新しい医療のこと。その分野では、ノーベル賞を受賞された、京都大学の山中先生のiPS細胞が有名です。
私たちが主に取り組んでいるのは、皮下脂肪組織にある幹細胞(*)の応用。いいイメージのない皮下脂肪ですが、実は身体のエネルギー代謝と密接に関わっていて、そこにある脂肪幹細胞は、身体の健康を保つ上で重要な働きをすることがわかってきたのです。体内からこの幹細胞を取り出し選別した上で培養して、点滴で投与したり、病気のある場所に投与したりして、元の健康な機能を取り戻そうという治療を目指しています。
これまでのお薬は、自然界にあるものを利用して作られる漢方薬やワクチンなどもありますが、大半は化学的に合成された化合物でした。身体にとって異物ではありますが、身体に起こるさまざまな反応の一部を阻害したり、増強させたりして病気を治します。言ってみれば、狙いの正確なライフル銃で敵をやっつけるみたいなもの。しかしそんな性能のいいライフル銃でも、狙った敵以外のものを巻き込んでしまうこともあります。つまりその薬が、副作用を起こすこともあるということです。
対して幹細胞は、敵を狙うだけでなく、多様な働きをしているのではないかと考えられています。幹細胞は生きているので、他の細胞と助け合っているからです。病気をやっつけるというより、身体がもともと持っている治癒力を引き出すという感じですね。私たちの身体は、毎日どこかが壊れ、それを常に何らかの方法で修復するということを繰り返しています。そのバランスが崩れてしまった状態が病気です。さらに、細胞が死んで再生されなくなると、もっと深刻な事態になってしまいます。幹細胞は、そんな深刻な状態になっても、元の身体の細胞と協力して、機能回復させる力があると期待されているのです。
*新たな細胞を再び生み出して補充する能力を持った、特別な細胞のこと
再生医療の実用化に向け、大阪大学とロート製薬との共同研究講座を設置しました。
左から大阪大学大学院医学系研究科長 澤芳樹先生、ロート製薬 山田邦雄
再生医療によっていつまでも自分の力で生きられる未来へ。
細胞の培養は非常にデリケートな作業で、これまでは研究者がコツコツ手作りでやってきたのですが、これでは多くの人が恩恵にあずかれません。そこでロートでは、高品質な細胞を安定して培養できる「自動培養装置」の開発にも取り組んでいます。目薬の製造で培った無菌製剤の技術と、最先端のロボット制御技術を組み合わせた、実用化レベルでは世界でも先端的な装置を、京都にあるロートの研究所に設置。産業化という意味でも再生医療への取り組みを一層進めていきたいと思っています。
再生医療の研究はまだ始まったばかりですが、今、世界中でこの領域の研究と実用化への取り組みが進んでいます。治らないと諦められていた病気や障害も、いずれは治せるようになってくるでしょう。今後、日本では病気や障害によって介護を必要とする高齢者がますます多くなると思います。しかし近い将来、再生医療によって自分の力で生活することができるようになる。それはどんなに素晴らしいことでしょうか! 私たちの研究はその一端を担っています。現在はまず、従来の医療では治癒が難しかった肝硬変という病気の治療を目指し、研究を重ねています。
細胞を使った医療と、従来の医療。どちらが優れているというより、まったく違う考え方や働き方を持つ双方の優れているところをうまく組み合わることで、単に病気を治すだけなく、より健康な身体を取り戻すことができると考えられます。もうひとつ大切なのは、どのような医療も、すべての人が同じ効果を得られないと知っておくことです。例えば同じ抗がん剤でも効く人と効かない人があります。症状が同じでも、そこに至る原因はさまざまだからです。これからは万人が標準化した医療を受けるのではなく、一人ひとりが体質や状況に合わせた治療方法を選択し、組み合わせて病気と向かい合っていくことができるようになるでしょう。
もちろん病気にならないことも大切です。自分の身体と向かい合いながら歳を積み重ねていく。これが長寿を楽しんで生きていくための秘訣だと思います。
- 私たちの身体にある脂肪幹細胞。これを使って、新しい治療の研究をしています。
- 細胞はとてもデリケート。無菌環境の中で、注意深く扱います。
- ロート製薬の再生医療研究から生まれた、『エピステーム』の化粧品「ステムサイエンス」シリーズ。幹細胞に着目し、湧き上がるハリを生み出します。