vol.5
[今回の野菜] 小松菜(東京都 江戸川区)
近ごろ温野菜サラダやジュースに採り入れられたりと、いろいろな料理で大活躍の緑黄色野菜といえば「小松菜」。少し意外かも知れませんが、小松菜の生産量が全国でもトップクラスに多いのは東京都の江戸川区。実は小松菜の発祥の地でもあります。今回はそんな大都市にある野菜のふるさとへ行ってきました。
海の恵みがミネラルに!小松菜が生まれた江戸川の畑を訪ねて
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海の恵みがミネラルに!小松菜が生まれた江戸川の畑を訪ねて
江戸時代から続く理由は、自然が生んだ土にあります
小松菜発祥の地、東京都江戸川区。大都市でありながら、数100年に渡って受け継がれた畑の多い街です。賑やかな駅前から車で10分ほどの場所に小松菜の畑はあります。畑のある一帯は、昔、海だったといいます。そのため、土にはたくさんのミネラルが含まれていて、ここで育つ小松菜には海の恵みによるミネラルがたっぷり。塩分が小松菜本来の甘味を引き立てるので、食べた人は口を揃えて、ほのかな塩気を感じて甘いと言います。その江戸川区で農家を営む10代目、30年以上小松菜作りに携わってきた真利子 伊知郎(まりこ いちろう)さんにお話を伺いました。
農業を変えたい想いが、すべての出発点でした
真利子さんが農業を継がれたのはバブル絶頂期。都心の土地価格が天井知らずに上がる中、広い土地を畑に使うのはもったいない。そんな声が大きかったといいます。時代への反発もあってか、「農業のイメージを、価値を変えたかった」と真利子さんは言います。おいしい野菜を育てて届ける。農家は日本全体だけでなく、江戸川区でも年々少なくなっているといいます。ですが、毎日の食事を支える農業は、いつの時代にも無くてはならない仕事。「変えられることはいくらでもある」当時から農業にはたくさんの可能性があることを真利子さんは見いだしていました。
働き方と考え方から、農業は変えられる
農業の職業イメージを変える。小松菜を屋外からビニールハウスでの栽培に移行したのは、そのような想いから。天候に左右されないで、安定した収穫量、収入を維持するのも、職業イメージを変える戦略のひとつ。ビニールハウスは虫除けにもなり、農薬を少なくできる利点もあるといいます。ビニールハウスに足を踏み入れて驚いたのはフワフワとした土です。真利子さんが農業を始めて以来、大切にされてきたことが手に取った土からも伝わってきました。「作るだけでなく、届けることも農業の仕事」と、真利子さん。農園では直売も行われています。そこには、多くの人に江戸川の小松菜を知って欲しい想いや食べる人とのコミュニケーションを育みたい考えがあったそうです。野菜を育てる、届ける環境を見直していく。この取り組みを行ったのは、10数年も前のこと。真利子さんは、今の時代にあう農業の在り方を常に探し続けています。
江戸川で生まれた野菜を、地元の自慢に
東京都農業経営者クラブの会長も務め、講演会を精力的に行う真利子さんのところへは、時折、若い人が小松菜作りの教えを受けに訪ねてくるといいます。真利子さんが、農業のイメージを変えたい一心で続けてきたことは、次を担う人たちへ確かに届いているようです。その一方で、江戸川区に住む多くの人にとって、地元の農業はまだまだ遠い存在。「江戸川では、この土地ならではの小松菜が作れる。地元の農業が自分たちの生活の一部であることを感じて欲しい」と真利子さんは言います。今、江戸川区では小松菜を使ったメニューや商品を扱うお店が増えてきています。私たち食べる側が地元の野菜に目を向けることで、農業のみならず地元全体が活気づいてきそうです。
- 葉の先と茎のみずみずしさが、
鮮度のチェックポイント -
今回、お話をお聞きした真利子さんによる、おいしい小松菜の見分け方をご紹介。
葉の先が丸くならず、真っすぐにピンとしていることが、鮮度が良くシャキシャキッとした歯ごたえの目印。また茎のみずみずしさも鮮度を測るポイントです。水分をしっかり含んでいる、鮮度の良い小松菜はサラダにおすすめです。選ぶ時は、ぜひ参考にしてみてください。
生産者
真利子 伊知郎さん(東京都江戸川区)
小松菜は1年中作られていますが、種植えから収穫までの期間が短いため、比較的、自由に時間をつくることができる。その自由さを生かして、旅行が大好きな真利子さんは、国内外を問わずにいろいろな場所へ行く。ただ、どこを訪れた時も、ついついその土地の畑に目がいってしまうそう。