vol.2
[今回の野菜] 深谷ねぎ (埼玉県 深谷市)
冬の足音が近づき、身体がポカポカ温まる、お鍋の恋しい季節。鍋料理や温野菜に欠かせない食材といえば「ねぎ」です。そこで、今回は一年中収穫され、特に冬が旬という「深谷ねぎ」の産地、埼玉県の深谷市を訪れました。
深谷ねぎのおいしさの秘訣は、
作り手の熱い想いにもありました。
読了時間:4分
深谷ねぎのおいしさの秘訣は、
作り手の熱い想いにもありました。
知っていた!知らなかった?深谷ねぎのこと
深谷でねぎづくりがはじまったのは明治初期のこと。深谷でつくられたねぎを「深谷ねぎ」と呼び、いくつかの品種が育てられています。その中には、今や市場に出荷されない「農研」と呼ばれる品種があります。そのねぎは農家の方も舌鼓を打つほど、煮込めば溶けてしまう柔らかい風味だそうです。ねぎは身体を温める効果のある、寒い冬にピッタリの野菜。そんな、希少な農研と呼ばれる深谷ねぎづくりに励まれる黒澤さんに、お話をお聞きしました。
作り手の笑顔が、「おいしい」を育てている…
一時は地元を離れた黒澤さんが実家の農業を継いだのは10年ほど前。その理由は、子どもとの時間をつくり、自分の働く姿を見せたい想いがあったそうです。ただ、お父さんを早くに亡くされ、一緒に畑へ出たのは、わずか3・4年ほど。「その後は、失敗を繰り返しても、農研を残していきたいという想いで続けてきました」困難に思えることも、笑顔で話す黒澤さん。例えば、手作業でする雑草の除去では、スポーツのように目標を立てて達成感を味わったり、農機にお気に入りのステッカーを貼ったり。仕事を楽しむ姿勢も、おいしいねぎをつくる秘訣かもしれません。
自然と共に…。虫だって仕事仲間です
「安全と安心が第一」と黒澤さん。先代からの無農薬栽培を続ける背景には独自の考え方がありました。農薬を使う手間や時間を使えば、手作業で虫や雑草を駆除することもできると話されます。農研の種を採る畑ではミツバチによる受粉が不可欠だそうです。「ミツバチのおかげで助かっています。虫にも少しくらい食べてもいいよって思います」と、黒澤さん。無農薬栽培だから、実感できる自然との関係性があります。農薬を使わず、細やかに手作業で世話をして、育てていく。それは野菜本来のあるべき姿のように思えます。
「食べてもらいたい」と「食べたい」との、両想いの関係
「もう、他のねぎは食べられない」その言葉が、一番うれしいと話す黒澤さん。お互いに顔が見える関係を大切にされ、電話での注文は受けていないそうです。野菜を通して、両想いの関係が築かれています。農研をつくるグループは、黒澤さんを含む3人。「伝統とはいかないまでも、私たちのねぎづくりは残したい。先輩の技術はできるだけ覚えて、次の世代へ教えられるようにしておきたいですね」と、黒澤さん。子どもと外を歩く時は、食べ物のことをもっと知ってほしいから、畑を見て何の作物かを教えているそうです。冬の収穫はもうすぐそこ。「もう、他のねぎは食べられない」そんな、ありがとうが言えるのも、もうすぐですね。
- 「おいしい」の目印は、
キュッと締まった葉の付け根。 -
今回、お話をお聞きした黒澤さんによる、おいしいねぎの見分け方をご紹介。ねぎは葉の付け根、えりもとと呼ばれる部分がしっかり締まっているものがおいしいそうです。手でつまんで、葉の付け根がキュッと堅くなっているかで判断できるので、ねぎを選ぶ時は参考にしてみてください。
生産者 黒澤雅樹さん(埼玉県深谷市)
東京で会社員として務めたのち、代々続く無農薬畑を受け継いだ黒澤さん。「面白いことをする」というモットーのもと、常に前向きな姿勢で仕事に励まれています。いつも食べている野菜がどういう風にできるのか。それを多くの方に知って欲しいから、農業を通して子どもたちの食育にも積極的に関わっていきたいという想いも。