噛む力があるのに、噛んでいない!?実は、おろそかになりやすい咀嚼
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噛む力があるのに、噛んでいない!?実は、おろそかになりやすい咀嚼
自覚と実際の能力にはギャップがある!?
噛む能力が低いと、男性はメタボになるリスクが高まること。さらに、“噛めていない”ことを自覚していない人ほど、メタボになりやすい食事を続けやすくなる、という点を考えていく必要があります。意外かもしれませんが、噛めていないことに気づいていない人は多いのだそうです。
「入れ歯の調子が悪くて噛みにくいと、大学病院へ来られる高齢の患者さんに、普段どんな食事をとっていますか?と尋ねると、『好きなものを、何でも食べている』とおっしゃるんです。食事には困っていませんと。さらに、柔らかい食品から硬さのある食品を20品目並べた表をお見せして、食べられないものを聞くと、こちらもすべて食べられるとの回答でした。しかし、検査用のグミゼリーで咀嚼能力を計ると、スコアは低い。実は噛めていなかったんです。噛みにくいとは感じているものの、噛めていないとは思っていなかったというわけです。このように、自覚と実際の咀嚼能力にギャップのある人が多くいます」
同じ30回でも
噛む力は違う!
『咀嚼能力スコア』
前ページで紹介した調査で使われている検査用グミゼリー。咀嚼能力を計る指標となっているのが、この10段階にわけたスコアです。グミゼリーを30回噛んだ状態を、このスコアに照らし合わせて、10段階で【まったく噛めていない】から【よく噛めている】までを評価します。私たち編集部メンバーが意外に感じたのは、同じ30回の咀嚼でも、これだけ噛み砕く力が違うこと。先生いわく、この噛み砕く力の差には、噛み合わせや筋肉の力、歯ぐきの健康状態などが影響しているそうです。これこそが咀嚼の“質”の差だと言えそうです。
※小野先生提供の資料をもとに作成
噛みごたえのあるものを食べる機会が減少!?
自覚と実際の咀嚼能力にギャップがある人は、実は、入れ歯を使用している高齢者に限ったことではありません、歯に問題がない人、若い人にも多いそう。
「歯や口の周りの筋肉など、噛むための機能に何の問題もない人でも、十分に噛んでいないことがあります。こういった人たちは、“噛めない”のではなく、“噛まない”のです。検査用グミゼリーで私どもの大学の学生の咀嚼能力を計ってみたところ、スコアは3~4と、かなり低い者もいました。歯もあり、口の機能にも問題がなくても、グミゼリーが噛み砕かれずほぼそのままのような状態で残っているのです。噛むことはなかなかに力が必要で面倒だと感じやすいもの。おろそかになりやすいものなのです」
噛めるのに噛まなくなってしまう理由には、噛みごたえのある食品や料理が減ってきていることが挙げられます。
「市販されている食品や飲食店のメニューには、口溶けがよく、味わいが長く続くものが多くあります。さらに調理方法の多様化もあって、家庭でもしっかり噛まなくても食べられる料理が増えています。噛みごたえのあるものを食べる機会は、減ってきているわけです。あごや口周りの筋肉は必要に応じて力を発揮するようにできています。噛みごたえのあるものを食べる習慣があればその力は維持されますが、柔らかいものばかり食べていると、次第に噛みごたえのあるものを選ばないようになってしまうのです」