疲労が測れる時代に!?研究が進む疲労の数値化
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疲労が測れる時代に!?研究が進む疲労の数値化
口唇ヘルペスが検査方法のヒントに
検温する機会が増えた昨今。高熱があれば、身体に異変が起こっていると考えて、病院の受診などを考えるはずです。発熱も生体アラームのひとつ。身体を大事にしなくてはと思うでしょう。でも、疲労感という生体アラームが発せられても、身体を休めようとは思わないかもしれません。それは、体温のように客観的な数値で示せないことが理由だと言えそうです。疲労感は“ 自分の感覚”でしかないため、休む理由にはできないと感じてしまうのではないでしょうか。
「かつて、疲労を客観的な指標で数値化することは不可能だと考えられていました。そのため、疲労の評価は自覚症状をビジュアルアナログスケール(VAS)という、アンケートのように、主観的な数値を答えてもらう方法しかありませんでした。しかし、私たちの研究チームは、まったく新しい疲労測定法を開発。それは唾液中にあるヘルペスウイルスの数を計測するというものです」
忙しくなると、唇の周りに吹出物のようなものができませんか?
あるいは、周囲の人でそれができている人を見たことがあるかもしれません。口唇ヘルペスといって、痛みのある水ぶくれが複数個現れるもので、ヘルペスウイルスが原因の感染症です。
「ヘルペスウイルスは、普段ヒトの身体の中に静かに存在しています。ヘルペスウイルスの仲間は、口唇ヘルペスの例でもわかるように、潜伏しているヒトの身体が疲労してくると爆発的にその数を増やして、外へ出て行こうとします。今いる場所が危険だと感じて、ほかの人の身体へ移ろうとするわけです。私たちが開発した疲労測定方法は、この現象がヒントになりました。疲労因子との関係がわかっている、唾液中のある特定(*)のヘルペスウイルスの量を測ることで、疲労の度合いを客観的に調べることができるのです」
(*)検査では、口唇ヘルペスの原因となるウイルスではなく、ほぼ100%の成人の体内に潜伏感染しているといわれる別のヘルペスウイルスを調べます
近藤先生の研究チームが開発した疲労検査が、あるサッカーチームで実験的に導入されたことがあります。一定期間、毎日唾液のヘルペスウイルスの量を計測すると、3日ごとにその値が変化すること、疲労の度合いが大きい選手は、その日の試合で十分なパフォーマンスを発揮できていないことなどがわかったそうです。このことからも、疲労がある状態では“いい仕事ができない”ことがうかがえます。疲労検査はまだ実用化には至っていませんが、疲労の数値化が身近なものになれば、さまざまな人が、健康に活躍できる社会に変化するのかもしれません。
疲労測定がうつの早期発見に
残念ながらこの検査は、ごく一部の施設で行われているのみ。まだ実用化はされていませんが、現在、うつ病かどうかを見極めることに役立っているのだそうです。
「うつ状態にあるほとんどの人は『気分が落ち込む』とは言いません。『ひどく疲れている』『毎日だるい』と訴えるのです。そこでこの検査を受けてもらうのですが、ヘルペスウイルスの数値には問題がない。つまり疲労しているわけではないことがわかります。疲労ではないのに、脳が疲労を感じているというのはうつ状態、もしくはうつになる前段階にある場合が多いのです。この検査は、ひどい疲労の陰に、うつ病が隠れていないかどうかを速やかに診断することができます。うつ病の早期発見に役立っているのです」
疲労を数値化できるようになったことは、大きな一歩だと先生。
「この検査をはじめ、疲労のメカニズムを明らかにすることは、社会習慣を変えることにつながります。疲労は軽視してはいけないもの。疲労したまま仕事を続けることは効率的でないばかりか、心と身体に大きな負担になります。疲れているときに、疲れたと言える社会に変化していく一助となればと考えています」