魚料理を難しくしているのは、思い込みが原因!?“魚の伝道師”ウエカツさんが教えてくれる魚の特徴や調理の仕組みは、「まさか! そうだったの?」と驚かされることばかり。思い込みをひとつずつ解消していけば、魚料理がきっと、易しくなるはず!
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わさび醤油だけじゃない!まぐろの刺身は、もっと愉しめる。
冷凍技術の向上で旨いまぐろが身近に。
まぐろは、古くから食べられてきた魚。縄文時代の遺跡から骨が発掘されている。ただ、江戸時代には価値が低い魚という意味で“下魚”と言われ、明治・大正には、あじや鯖と同じ大衆魚とされていた。それは、海から市場まで運ぶのに時間がかかったことが理由。まぐろは傷みやすく、市場に届くまでに味が落ちてしまうからだ。
今は、交通網も冷凍保存技術も発達し、まぐろの価値は大きく変わった。高級な料理屋でなくたって、おいしいまぐろが生で食べられる。スーパーで売られている冷凍のものも十分旨い。魚が苦手でも、まぐろの刺身だけは好きという子どもも多いよね。チェーンの寿司店でも、常に人気の上位だ。
今回は、まぐろの刺身をもっと好きになってもらえるような料理をお伝えしよう。“刺身は醤油とわさびで食べる”のが当たり前になっているけど、本当はもっといろんな愉しみ方があるんだよ。
塩で締めれば、刺身が劇的に変化。
まずは、塩まぐろを作ってみよう。これは塩締めという技術で作るもので、ただ塩をまぶして少しの時間おいておくだけ。実に簡単なんだが、これだけで劇的にまぐろの刺身が旨くなるんだ(詳しい作り方は次のページに)。
塩締めの大きな魅力は、魚そのものの味が濃厚になること。塩の脱水効果で余分な水分が抜けるから、魚の味がはっきりする。醤油は必要ない。そのままでもいいし、白髪ねぎなど薬味をのせてもいい。身も引き締まるし、ねっとりとした食感になって、今まで食べてきたまぐろの刺身とは違うことがすぐわかるはずだよ。
塩をまぶして、5分ほどで表面にほんのりと塩味が入る。一晩おいておくと、中までしっかり塩味が入って、まるで生ハムみたいになる。これもまた旨いよ。
塩まぐろだけでも十分愉しんでもらえると思うけど、そこから、さらにアレンジもできる。酢締めにする和風、カルパッチョのような洋風、そして、ピリ辛の中華風。それぞれ、まったく違ったまぐろの魅力が感じられるよ。
塩まぐろと、和・洋・中のアレンジ
まぐろの刺身は「わさび醤油で食べるもの」だと思ってない? それはそれでおいしいけど、もっと多彩な愉しみ方があるんだ。まずは、塩締めの技術で作る、塩まぐろ。味が凝縮するから、そのままで十分旨い。塩まぐろから、簡単に和風、洋風、中華風の料理にアレンジできる。まぐろの新たな味わいに出合えるよ。
1
塩まぐろ
2
和風(酢締め)
3
洋風(カルパッチョ風)
4
中華風(ピリ辛)
塩まぐろの作り方
4種類のまぐろを食べ比べてみよう。
作り方はどれも簡単(下の作り方を参照)。和風は、塩まぐろを柵のまま30分ほど酢に漬けておくだけ。切りわけたら、わさびを少しのせて食べてみて。洋風と中華風は、切りわけた塩まぐろに、ねぎなどの野菜と調味料を合わせるだけ。ぜひ、4種類を食べ比べてみてほしいね。塩まぐろ→和風→洋風→中華風とシンプルな味つけのものから食べるのがいいだろう。酒の肴にぴったりだ。
ちなみに、僕がこの4種を家族や客人に出したとき、真っ先になくなるのは中華風。胡麻油の香りにそそられるんだろうね。中華風はご飯にもよく合うよ。
塩まぐろの作り方
塩をまぶして、余分な水分を出す“塩締め”。そのままでもおいしいけど、薬味を合わせてもいい
1| 洗う+拭く
まぐろの柵を流水でさっと洗い、水分を拭き取る
2| 塩を全体にまぶす
塩(ひと握りくらい)を全体にまぶす。すり込むと塩辛くなるので、要注意!
3| 水分が出てきたら、洗う+拭く
表面に水分が浮き、塩がしっとりしてきしたら(目安は5分)、流水で洗い、拭く
和風の行程へ
和風
(材料:酢)
1| 塩締めをした柵に、キッチンペーパーを貼りつけ、酢をかける。表面が白くなるまで漬ける(目安は30分)
2| 切りわけて、皿に盛りつけ、わさびを添える
洋風
(材料: 玉ねぎ、レモン、黒胡椒、オリーブ油)
1| 皿に、切りわけた塩まぐろと、スライスした玉ねぎを重ねて乗せ、レモン汁をかける
2| 黒胡椒をかけ、最後にオリーブ油をかける
中華風
(材料:白髪ねぎ、刻み生姜、豆板醤、醤油、胡麻油)
1| ボウルに、切りわけた塩まぐろを入れ、白髪ねぎ、刻み生姜、豆板醤を加える
2| 醤油少々で和え、最後に胡麻油をかけて、軽く混ぜる。胡麻油を途中で加えると味が入らないので、必ず最後に
漬けまぐろの作り方
ご飯に合う、ヅケ。江戸時代からの人気。
もう一品、ご飯によく合う漬けまぐろも紹介しておこう。いわゆる、ヅケだ。考案されたのは江戸後期だとされている。関東で盛んに醤油が作られるようになったことで、魚の短期保存法として考案されたようだ。塩分の高い醤油に漬け込めば、雑菌の繁殖を抑えられ、劣化を遅らせることができるからね。新鮮なまぐろを食べるのが難しかった江戸で、生のまぐろが食べられるようになったのは、この醤油漬けのおかげ。酢飯にも合うと気づいた寿司屋がヅケの握りを出したら、たちまち江戸っ子に人気になったそうだ。
さて、話を戻そう。まずは、漬けまぐろのためのたれ作りだ。みりんと酒を煮切って作る方法もあるけど、面倒だよね?酒は不要、醤油とみりんだけで作れる。醤油に少しずつみりんを足していき、塩味がマイルドに、ほんのり甘くなったらOK。前回の カレイの煮つけ でも紹介したように、自分の舌で好みのバランスを見つければいい。刻んだ生姜やしそなど香りがあるものや、辛味に唐辛子を入れてもいいよ。
たれができたら、下処理しておいたまぐろを入れる。まぐろの角がべっ甲色になったら、たれから引き上げるタイミングだ。まぐろの状態にもよるが、早いものなら3分で漬かる。ザルに引き揚げ、たれを切ったらでき上がり。合わせるのはわさびではなく、和辛子がおすすめ。豚の角煮は辛子で食べるでしょ? 漬けまぐろにも脂と甘味があるから、和辛子が合う。カイワレ大根をつけ合わせにして、一緒に食べてみて。本当に旨いから!
漬けまぐろの作り方
醤油とみりんのたれで作る、漬けまぐろ。辛子を添えてどうぞ。カイワレ大根も合う!
1| 洗う+拭く。切りわける
まぐろの柵を流水で洗って、拭く。適度な大きさに切りわける
2| 漬けだれを作る
ボウルに醤油を入れ、みりんを少しずつ足していき、塩味がマイルドに、ほんのり甘味を感じる程度に調整する
3| まぐろを入れる
漬けだれに、まぐろを入れる。まぐろの角がべっ甲色になったら引き上げる(目安は5分)
4| たれを切る
ザルに、重ならないように漬けまぐろを並べ、余分なたれを切る。皿に盛りつけ、和辛子を添える
今回はまぐろで作ったけど、塩締めは鯛やサーモンでもいいし、漬けはかつおやぶりでもいい。生の魚の愉しみ方を知っておけば、食卓に魚料理が上る回数が、今よりもっと増えると思うよ。
漬けまぐろは、そのままたれに漬けておけば、しばらく保存できる。塩味が強くなるから、刻んで混ぜご飯などに。焼いて弁当のおかずにしても

















