甘味、塩味、酸味、苦味、うま味。私たちが感じる味には、その5つがありますが、近年、その基本五味に続く、第六の味覚”として、脂肪味があるとわかってきました。その名の通り、脂質を含む食品を食べたときに感じるもの。脂質を多く摂り続けてしまうと、それが鈍感になることもわかっています。脂肪味が鈍感になると、肥満だけでなく、食を楽しめないことにもつながるのだとか。健康を維持するために、この第六の味覚の存在に注目しておきましょう。
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摂り続けると、鈍感に!第六の味覚、脂肪味。
味覚には、摂り過ぎを防ぐ役割も!
50歳を過ぎても、お肉が大好き。焼肉もステーキも大好物です。ほかにもバターをたっぷりのせたトーストや、チーズがとろけるピザも……。筆者の食事は恐らく脂質量が多めなのだと思います。そんな筆者にとって、近年わかってきた【脂肪味】は、気になるもの。脂質の多いものを食べると、おいしいと感じるだけでなく、やみつきになるような感覚があるからです。脂肪味を感じやすいか、感じにくいか、それが健康にも関係してくるとも言われています。私たちは、この脂肪味と、どうつきあえばいいのでしょうか? 脂肪味をはじめ、味覚を研究する東京歯科大学短期大学の安松啓子先生にお話をお聞きしました。
「舌の表面には、味蕾という味物質をキャッチするセンサーがあります。甘味、塩味、酸味、苦味、うま味という基本の5つの味を、この味蕾で感じているわけです。 近年それに加え“第六の味覚”として脂肪味がある とわかってきました。以前は、脂肪は味ではなく、香りや食感でその存在を認識しているのではないかと考えられていましたが、研究が進み、味蕾が脂肪の味もキャッチしていることがわかったのです」
味覚は、命を守るためにあるのだそうです。 酸味や苦味は、腐敗や毒を避けるため。甘味や塩味、うま味は、糖やミネラル、たんぱく質を合成するアミノ酸といった、身体に必要な栄養素を得るために備わっています。脂肪も大切な栄養ですから、脂肪味をキャッチできるようになったと考えられています。
「 脂肪には、人の体内で作ることができず、食物からの摂取が必要なものがあります。 それもあって脂質を含むものをおいしく食べられる仕組みを持っているのです。さらに、摂り過ぎを防ぐ仕組みもあります。肉でも魚でも、食べている途中でもう食べたくないな思うことはありませんか?それも、脂肪味の働き。 脂質を十分に摂れると、それ以上摂らないように、脂肪をおいしくないと感じさせている のです」
もっと食べたい、は脂肪味が鈍感な証拠!?
脂っこいものを食べると胃がもたれる、というのも、食べ過ぎを防ぐための仕組み。 味覚センサーと、胃をはじめとする消化管が連動して働いているのだそうです。
確かに筆者も、もう食べられないなと思うことはありますが、とんかつやから揚げを、もう少し食べられるなと感じるときもありますし、さらに添えられているキャベツの千切りにマヨネーズをかけたくなるときもあります。
「それは、脂肪味に鈍感になっている可能性があります。脂肪味の感じ方には個人差がありますが、 脂肪を摂り過ぎる食生活を継続すると、脂肪味の感度が鈍る ことがあります。連日摂ることでやみつきのような状態になって、もっと求めるようになりますし、脂肪味があまり感じられないため、マヨネーズを追加するなど、脂肪をさらに追加するような状態にもなります。そしてそれは、 やはり肥満につながっていきます 」
お肉など脂質の多いものをたくさん食べられるのは、単に好物だからだと筆者は思っていましたが、実は、脂肪味のセンサーが関係しているのかもしれません。肥満予防には、味覚を整えることも考えたほうがよさそうです。
味覚は、フレイルにも関係!“おいしく食べる”が、健康のカギ。
甘味や塩味も摂り続けると鈍感に。
脂質の摂り過ぎになっていないか?下にあるセルフチェック表で確認してみましょう。
この3日間、何を食べましたか?|
あなたの脂肪味をチェック!
① ~ ⑦ の回数を合計しましょう( ⑦ のみ、回数を5倍にして算出)。
①
揚げ物中心のメニューを食べた回数
②
脂ののった肉を食べた回数
③
脂の入ったラーメンを食べた回数
④
洋菓子を食べた回数
⑤
バター、チーズを食べた回数
⑥
カレーや中華料理を食べた回数
⑦
満腹を感じにくく、食べ過ぎてしまった回数
×5
合計が1~3点は、脂肪味が敏感。4~5点は、やや危険な状態。
6点以上は、脂肪味が鈍感の可能性大!
「直近3日間で、それぞれ食べた回数を合計してください。 ⑦ の[満腹を感じにくく、食べ過ぎた回数]だけは、その回数に5をかけて算出します。 合計が4〜5点は要注意。6点以上は脂肪味が鈍感である可能性が高い です」
なぜ ⑦ だけ、5倍にするのかというと、 それだけで脂肪味が鈍感になっている可能性が高い からだそうです。
「脂肪味が敏感であれば、摂り過ぎを防ぐ味覚の仕組みがきちんと働きます。食べたはずなのにもの足りない感じがする、それで食べ過ぎてしまうなら、すでに鈍感になっているかもしれません」
脂質を多く摂り続けると、脂肪味が鈍感になるのと同様に、 ほかの味覚も鈍る ことがわかってきたのだそうです。
「もともと、味覚のセンサーが働きにくいという人もいますが、正常に働いている人でも、継続して食べることで鈍感になるというデータが複数報告されています。しょっぱいものを多く摂り続けている人は、やはり塩味に鈍感。塩分の摂取量が多くなっています。甘味についてもそうです。特に子どもには影響があるようで、甘いお菓子を食べ過ぎて太ってしまったという例はよくあります。さらに苦味もあります。赤ワインやチョコレートなど苦味のあるものを摂り続けていた人は、苦味が鈍感になっていた例もありました」
おいしくないと嚥下が起こらない!
食べ方に偏りがあると、味覚が鈍り、そこから健康への悪影響につながっていく とのこと。
「脂肪味をはじめ、味覚は本当に大切です。正常に働かないと食べ過ぎにもなりますし、逆に食べられないということにもなります。味覚が感じられないと、嚥下が起こりにくくなるからです。 おいしいと感じるから、飲み込むことができる。味がしない、砂を噛むような食事では飲み込めません。 特に高齢者は、食事を十分に摂れなくなると、フレイル(加齢に伴って筋力や心身の活動が低下し、要介護になる危険性が高くなった状態)につながる心配があります。 おいしく食べることは、肥満予防にも、フレイル予防にも大切 なのです」
脂肪味にしても、甘味や塩味にしても、 強い味を求めてしまうのは、実はおいしく食べられていないのかもしれません。 筆者がやってしまう千切りキャベツ+マヨネーズは、キャベツではなくマヨネーズをおいしいと感じているのかも? と、ハッとしました。
「 味覚が敏感だと、食材そのもののおいしさがわかる ようになります。お肉も、少し塩をかけただけでおいしく感じられるほうがいいですよね。フランス料理や日本料理など高級な料理を食べに行くのに、味覚が鈍感だともったいない。味覚が研ぎ澄まされると、食べる喜びがより感じられ、生活の質が上がると言えます」
本当のおいしさに出合える!鈍った味覚をリセットする方法。
栄養不足でも味覚が鈍感に!
摂り続けることで、その味覚に鈍感になる。特に、脂肪味はほかに比べると、やみつきのような状態になりやすいのだそうです。ただ、鈍感になってしまったとしても、脂肪味のセンサーは、リセットすることができるそうです。
「やはり、摂り過ぎないことです。 脂質の摂取目標は1日60gが目安。1食20gを目標にするととり組みやすい と思います」
下にある表は、よく食卓に上る料理の脂質量。 とんかつは、なんとそれだけで1日分の上限に近くなります。
意外に脂質は多いんです!|
定番の料理に含まれる脂質量
(一人前の脂質量)
- ご飯(180g)…0.5g
- 味噌汁(豆腐とわかめ)…2.2g
- バタートースト(5枚切り食パン)…7.1g
- 目玉焼き…17.6g
- ゆで玉子…10.4g
- コーンスープ…3.9g
- とんかつ…53.9g
- から揚げ(6個)…27.2g
- 鮭の塩焼き…8.9g
- 鯖の塩焼き…15.3g
- ぶりの照り焼き…16.1g
- まぐろの刺身・赤身4切れ…1.8g
- まぐろの刺身・トロ4切れ…6g
- 鶏の照り焼き(皮あり)…30.4g
- 鶏の照り焼き(皮なし)…12g
- 野菜炒め…4g
- 肉じゃが…17.6g
- ポテトサラダ…22.6g
- ハンバーグ…18.3g
- カレーライス…23.1g
- 親子丼…13.6g
- 海鮮丼…8.9g
- 餃子…17.6g
- 酢豚…8.3g
- 紅白なます…0.4g
- 大根とかいわれのポン酢サラダ…0.2g
- ご飯と味噌汁に鮭の塩焼き、紅白なますで、脂質は 12g
- ご飯にハンバーグ、大根とかいわれのポン酢サラダで、脂質は 19g
- ご飯と味噌汁に鶏の照り焼き(皮なし)、千切りキャベツ(+ノンオイルドレッシング)で 14.9g 皮つきの場合は半分にすれば、 18.1g に
「脂肪味の感度を上げる工夫(下にある表を参照)も、参考にしてください。この方法でできるだけ 脂質を減らす食生活を、まずは10日間続けましょう。早ければ3日くらいで、脂肪味に対する感覚が変わったと実感できる ようになります」
脂質を摂り過ぎないようにするあまり、欠食してしまうのはよくありません。感度を上げる効果が得られないことがある そうです。
「脂質を摂り過ぎることだけでなく、控え過ぎることでも感度が鈍る可能性が指摘されています。以前行った調査で、脂質を抑える食生活を10日間続けた人の中で、数名が改善しなかったということがありました。さまざまな理由が考えられますが、そのひとつに欠食が挙げられます。メカニズムは明らかになっていませんが、飢餓状態になると、どんなものからでも栄養を摂ろうとするために、味覚の感度を下げるのかもしれません。これは脂肪味に限らず、基本五味も同じことが言えます」
朝食を抜いたり、夕食を控え過ぎたりせず、栄養不足にならない ようにしましょう。
食事中の脂質を1日60gに抑える!|
脂肪味の感度を上げる工夫。
- 揚げもの(菓子類を含む)を控え、調理法を 焼く・蒸す にする
- 脂肪の多い肉を控え、 赤身肉、鶏むね肉、魚 を選ぶようにする。まぐろのトロは脂肪が多いので要注意
- 麺類はとんこつラーメンを控え、 うどんや蕎麦、あっさりしたラーメン を選ぶ
- お菓子は洋菓子より、 和菓子 を選ぶ
- サラダにはマヨネーズではなく、 ノンオイルドレッシング を使う
- 牛乳などの乳製品は、 低脂肪のもの を選ぶ
- カレーライスや中華料理を 控える
- 串焼きは、 鶏皮、豚バラ、ホルモン以外 を選ぶ
- コンビニやスーパーの弁当や惣菜は、 栄養成分表示を確認 する
お口のケア、よく噛む。それも、味覚の維持に。
「オーラルケアも大切です。 舌に汚れがあると味覚センサーである味蕾の働きが悪くなります。 舌クリーナーを使って、 舌苔 をとり除きましょう。ただ、 舌のこすり過ぎもよくありませんから、1日1度で。舌クリーナーを10回動かす程度 でいいかと思います」
さらに、 唾液の分泌を促すために、食事をよく噛むこと を心がけましょう。
「唾液は、食べものの味のもとになる物質を味蕾に届ける役割があります。ですから唾液の分泌が悪くなると味を感じにくくなります。これも脂肪味に限らず、どの味覚もそうです。 唾液にはほかに、噛み砕いた食べものをまとめ、嚥下をしやすくする働きもありますから、おいしく食べるために欠かせないもの です。よく噛むことに加えて、うま味を感じることも唾液分泌を促します。だしをはじめ、うま味のある食品が役立ちます(下にある表を参照)」
筆者も早速実践しようと決意しました。食事をおいしく食べられるのは、幸せのひとつ。そしてそれは、健康にもつながっていきます。おいしいものを楽しめる未来のために、味覚センサーを大切にしていきましょう。
唾液分泌を促す!|
うま味物質を含む食品。
定番の料理に含まれる脂質量
昆布、チーズ、白菜、トマト、アスパラガス、ブロッコリー、玉ねぎ、醤油、味噌など
イノシン酸
鶏肉、牛肉、かつお、かつお節、豚肉など
グアニル酸
干し椎茸、えのき、海苔、ドライトマトなど
















