ちょっとだけのつもりが、やめられなかった。おしゃべりが楽しくて、つい食べ過ぎちゃった。そういう経験、きっと誰にでもあるはず。自分の意志の弱さを責めてしまいがちですが、それ、実は脳が騙(だま)されていることも多いんです!食欲の秋だからこそ、食べ過ぎを防ぎたい。それなら、脳を知ることが、きっと役に立ちます。
知れば、食べ過ぎをやめられる!?脳は騙されやすいもの
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知れば、食べ過ぎをやめられる!?脳は騙されやすいもの
食べ過ぎを防ぐヒントは脳科学と心理学にあり!
読書の秋、スポーツの秋、芸術の秋。うだるような暑さから解放されて、さまざまなことを楽しめる季節です。食べることもそう。食欲の秋、実りの秋。食を堪能できるときです。でも、ついつい目の前にあるものに手が出てしまい、いつも以上に食べてしまうのはちょっと心配。健康のために、やはり食べ過ぎは控えたいものです。実はそれに役立つのは“脳の働きを知ること”。強い意志よりも効果があるかもしれません。
「食べ過ぎを防ぐヒントは、私が研究している脳科学と応用心理学にあります。ヒトの脳はものを食べるとき、ちょっとしたことで簡単に騙されることがわかってきています」
お話をお聞きしたのは、東北大学の坂井信之先生。普段、気づかずに行っている行動を、脳科学、心理学の視点から研究している先生です。
視覚で味が変わるのは、生きるための本能
「食べものの味の感じかたは、見た目でも変化します。かき氷のシロップを使った実験のお話をしましょう。大学生50人に、赤色と緑色のシロップを少し飲んでもらい、その味を聞いてみました。赤色のシロップを飲むと大半の学生が『いちご味』と答え、緑色のシロップは『メロン味』だと回答。本当はどちらも同じ味、同じ香りのシロップ。色を変えただけなのです。目を閉じた状態では、『両方同じ味』だという答えになったことからも、視覚が大きく影響していることがわかります。ほかにも、まぐろの握り寿司、チョコレートを使った実験でも、視覚で味の感じかたが変わることがわかっています。食べるという行為に、視覚はとても重要なのです」
見た目が“味”を変える
実験1
まぐろのにぎり寿司
大学生30人に、赤、白、青の色がついたまぐろの握り寿司の画像を見ながら、まったく同じまぐろの握り寿司を食べてもらう実験。赤色の寿司は「おいしい」、白色は「あまり味がしない」、「さっぱりしている」という回答が多数。青色は6割以上が「あまりおいしくない」と評価しました。まぐろは赤いものという知識によっておいしく感じられるのに対し、青い寿司は食べたことのない不安感から低い評価になったと言えます。
実験2
チョコレート
大学生60人に、苦味の強いビターチョコレートと、甘味の強いハイミルクチョコレートのパッケージ画像を見ながらチョコレートを食べてもらう実験。〈ビターのパッケージを見ながら普通のミルクチョコレートを食べる〉〈ハイミルクのパッケージを見ながらビターを食べる〉などいくつか条件を変えて行った結果、どのチョコレートを食べても、見ているパッケージの味を感じることがわかりました。実際に食べているものでなく、見ているものによって味を判断していることがわかります。
視覚が重要な理由は、なんと、命を落とさないための本能なのだそうです。
「太古の昔、ヒトも動物も食べものを得るのは簡単ではありませんでした。そんな中でようやく得た食べものが、猛毒である可能性もあります。その危険を回避するために、ほかの動物が何を食べて命を落とし、何が無事だったかを学習し、見た目でも判断できる力を身につけたのです。その力の名残で、赤い色はいちご、緑色はメロンといったように、自身の経験や知識によって、見た目で味を判断してしまうのです」そのほか、印象や状況でも感じ方が変わるそうです。
「いい印象があるお店や、キャンプなど屋外で食べるとおいしく感じます。旅先で食べたものもそう。家で同じものを食べて『こんな味だったっけ』と思ったことはありませんか?旅先でおいしく感じたのは、旅のワクワク感を食べものによる満足感だと勘違いしたからです。おいしさは、実にあいまいなものなのです」