ステイホーム期間中、私たちは今まで体験したことのない生活を送ることになりました。思うように外出できない日々。友人や仲間に会えないことへの寂しさや、不安を感じているのではないでしょうか。終息を願うばかりですが、完全に“コロナ以前”の生活に戻ることは難しいと言われています。そんなこれからを生きていくために、重要となるのは愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンかもしれません。ストレスを抑えられ、心と身体の健康につながり、愛情深く、人との絆を深められるオキシトシン。強く、優しくなることが、これからをすこやかに生きるカギになるはずです。
オキシトシンで、強く、優しく
読了時間:11分
オキシトシンで、強く、優しく
オキシトシンの分泌には、肌の触れ合いがとても大切
コロナ以降の“新しい生活様式”として、ソーシャルディスタンスが求められるようになった私たち。人との距離をとることは、日本だけでなく、世界的な感染予防のための手段となりました。ただ、挨拶として握手やハグ、キスをする文化がある国では、それによって心への影響が出ているとか。肌のぬくもりへの飢えを感じる、【スキンハンガー】という現象が起きているのだそうです。日本は日常的なスキンシップが少ない国ではありますが、家族や友人、恋人に抱きしめられたとき、気持ちが安らいだという経験はあるのではないでしょうか。
「人に会わない、人と触れ合う機会がないのは、オキシトシン分泌の面から考えてもよくないでしょうね。肌の触れ合いは人にとって、とても大切なものです」
そう教えてくれたのは、愛情ホルモンと呼ばれる、オキシトシンの研究を続ける高橋 徳先生。オキシトシンは、スキンシップなどで分泌されるホルモンです。
「もともとオキシトシンは、女性の妊娠・出産時に大量に分泌されるホルモンとして医学の世界では有名でした。そのことから“お母さんホルモン”と呼ばれていましたが、1990年代半ば頃からオキシトシンについての研究が進み、お母さんだけのものではないとわかってきました。出産経験のない女性も、男性も、子どもも分泌すること、そして、ストレス軽減に大きな効果を持つことがわかってきたのです」
オキシトシンとストレスに関する論文は、多数発表されています。その中のひとつに、こんな報告があります。オキシトシンを分泌できるマウスと、分泌できないマウスのそれぞれを、狭い部屋に入れて比較する実験。後者は暴れまわったり、下痢をしたりという異変が見られました。対して、前者には異変はなし。このような実験から、オキシトシンがストレスを抑える効果があると考えられるようになりました。ストレスは、心にも身体にも悪影響。オキシトシンを高めることは、これからをすこやかに生きるために重要だと言えるでしょう。
人への思いやりが、オキシトシンを高める。
オキシトシンは、ハグやキスなどスキンシップに加えて、相手を“思いやる”ことで分泌されることもわかっています。
「私たちが行った実験でもそれがわかりました。同じ巣箱に2匹のマウスを入れ、1匹を1日2時間巣箱から出し、ストレスを与えて戻すと、巣箱に残っていたマウスが、戻ってきたマウスの毛づくろいを始めたのです。毛づくろいは多くの動物に見られる社会的行動。相手をいたわる行動です。世話をしたマウスにはオキシトシンの分泌が増えていました。多数行われているヒトでの実験でも、相手を思いやることでオキシトシンが分泌されることがわかっています」
オキシトシンは、人への“思いやり”で高められるホルモン。自分の力で高めることができるのです。相手への愛情で、人間関係が良好になるとも言えます。
「人とのつながりは大切。信頼関係を築くことで、オキシトシンは安定的に分泌されます。 “コロナ以降の生活”は、今まではなかったようなストレスと向き合うことが多くなるかもしれません。これからを生きる私たちにとって、やはりオキシトシンはとても大切なものだと考えています」