「年齢を重ねたら耳が遠くなる」もの、自分は、まだ大丈夫、だと思っていませんか?聞こえが悪くなること、つまり、難聴は高齢者だけがなるものではありません。さまざまな誤解がある難聴。それを解くことはあなたのためにも、大切な人のためにも、なるはずです。
誤解1:日常の音は耳に負担はない。
⇒『生活音の中には負担になるものも』
読了時間:10分
誤解1:日常の音は耳に負担はない。
⇒『生活音の中には負担になるものも』
生活の音に慣れて気づかなくなっている!?
家のすぐそばで工事が行われている、ということでもなければ、普段の生活に、大きな音はないように感じているかもしれません。筆者も実はそう思っていたのですが……。2018年に公開された映画『クワイエット・プレイス』を見て、はっとさせられました。映画の舞台は、音を立てると、謎の生物に襲われるという世界。そこで生き延びた一家は、音を出さないように息をひそめて生活しています。車には乗れない。テレビや洗濯機などの家電も使えない。遊び盛りの子どもたちも音の出るゲームやおもちゃを使えない……。その様子を見て、暮らしの中は、いかに音にあふれているかに気づかされたのです。私たちは、もうそれが“大きい音”だと気にならなくなるくらい、身の周りにある音に慣れてしまっているのかもしれません。
楽しいとき、夢中になっているときにも、意外にその音が大きいとわからないこともあります。例えば、コンサートやスポーツ観戦などです。
「カラオケもそうです。店を出て、静かな場所にいるときに、シーン、ピーンといった音が聞こえる、耳鳴りのような症状が出ませんか? あれは、耳の中の神経がダメージを受けて起こるもの。しばらくすると治まるので、気にしていないかもしれませんが、大きな音を聞くことは、それだけ耳に負担がかかっているのです」
お話を伺ったのは、東京大学の山岨達也先生。耳科学、聴覚医学などの研究を長年続けている先生です。
負担になる音が積み重なって起こる。
下にある表は、WHOが発表したデータをもとに作った1日に許容される音の目安。サッカーの試合でよく使われる楽器、ブブゼラはたった9秒。最大音量の音楽プレーヤーは4分。ドライヤーは15分と長いですが、毎日使うものなので、大きい音だとは感じていないかもしれません。日常にある音には、耳に負担がかかるものが多くあるのです。
「難聴は、高齢者だけがなるものというイメージがあるかもしれませんが、そうではありません。高齢になれば難聴になりやすいのは確かですが、スーダン共和国のマバン族は、高齢になっても聴力が衰えなかったというデータがあります。彼らの暮らす環境が静かな場所だったということも、その理由のひとつだと考えられています。日々の暮らしの中で何気なく聞いている音も、積み重なると、気づかないうちに耳に負担をかけているのです」
私たちは、難聴のリスクになる音に鈍感になっているのかもしれません。「心配するにはまだ早い」と思わず、今のうちからケアをしておいたほうがいいのです。