呼吸が乱れると、心も乱れる
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呼吸が乱れると、心も乱れる
感情と呼吸のリズムは同じ場所で生まれる。
呼吸が上手くできなくなる原因は、加齢による呼吸筋の衰えもひとつですが、実はそれだけではありません。呼吸に問題を抱えている人は、若い世代にも増えているのだそうです。
「喫煙やアレルギーなどの原因も考えられますが、特に影響していると思われるのが、不安や緊張などのストレスです。現代社会は多くの人が過剰なストレスにさらされ、気づかないうちに、浅くて早い呼吸になってしまっているのです」
それによっても機能的残気量が増え、身体の不調にもなります。
感情が高ぶると呼吸が早く、落ち着けばゆっくりになる。思い当たることはありませんか?
「それは、呼吸と感情がリンクしているからです。呼吸のリズムを生み出す中枢は脳にいくつかあり、扁桃体もそのひとつです(下の図を参照)。
呼吸のリズムを生む中枢は感情を生む扁桃体にも。
呼吸のリズムを生む中枢は
感情を生む扁桃体にも。
実は呼吸は3種類あり、それぞれリズムを生み出す中枢は、脳の別の場所にあります。感情に伴って変化する呼吸は「情動性呼吸」といい、中枢は扁桃体にあります。扁桃体は感情を生み出す場所。緊張や不安を感じたときに呼吸が早くなるのは、扁桃体が感情を生み出す場所でもあるからです。感情の変化によって呼吸も変化しますし、その逆もあるのです。
扁桃体は大脳辺縁系の中にあるアーモンドのような形をした神経細胞の集まりで、喜びや安心、幸福、そして悲しみ、不安や恐怖などの感情に関係しているところです。つまり扁桃体は、呼吸のリズムを生み出す場所であり、さまざまな感情を生み出す場所でもあります。ですから、呼吸のリズムには、さまざまな感情が反映されるのです」
先生の実験で、不安の度合いと呼吸数を調べたものがあります(下のグラフを参照)。
不安が大きいほど、呼吸が早くなる!
不安が大きいほど、呼吸が早くなる!
不安と呼吸の関係を調べた結果。被験者は、指に電流が流れる装置をとりつけられた10人。いつ電流が流れるかわからない状況に置かれた被験者の、不安度と呼吸数を計測。被験者が不安を感じている間、呼吸数が増加し、それに合わせて扁桃体が活動していることがわかった。呼吸数の増加は、不安度が高い人ほど見られ、不安度の低い人はあまり見られなかった。
※グラフの青い点は10人の被験者のそれぞれの数値。間を通る赤線は10人の平均値を示しています
参考文献:Respiration Physiology 2001
「その実験で、不安と呼吸数が相関していることがわかりました。不安度が高いほど呼吸数が多くなるのです。自分の呼吸が早くなっていることに気づいて、さらに不安を感じ、呼吸数が増えるという悪いスパイラルに入ってしまうこともあります」
緊張する場面などで深呼吸をするのは、気休めではなく理にかなったことなのです。
「呼吸のリズムはネガティブな感情だけを反映するわけではありません。不安定な感情は不安定な呼吸のリズムを生み、安定した感情は安定した呼吸のリズムを生むのです。逆に、呼吸で感情をコントロールすることもできます。深呼吸で気持ちが落ち着くのもそうですし、先ほどの、悪いスパイラルもそのために起こります。呼吸と感情がリンクしているとはそういう意味なのです」
心と身体を変えていく呼吸の大いなる力。
ため息はよくないもののようですが、実は過度の緊張状態を緩めるための防衛反応なのだそう。
「ため息自体は悪いものではありません。ゆっくり息を吐き出すことで、心をリラックスさせようとしているのです。ただ、これは心の危険を知らせるサインでもあります。うつ病の人はため息の回数が多いのです」
先生は東日本大震災後、岩手県の小学校を訪ね、被害にあった子どもたちに呼吸を指導する活動を続けています。そこで改めて呼吸の力を感じたのだそうです。
「子どもの多くはPTSD(心的外傷後ストレス障害)と思われる症状がありました。感情が不安定で、不眠や体調不良を訴える子どもが多かったのです。彼らの呼吸は、やはり浅く早かった。私が考案した呼吸体操を指導し、深くゆったりした呼吸ができるようになると、彼らの不調が格段に減り、感情も安定しました。心の底、身体の底から笑顔を取り戻していく子どもたちの様子を見て、呼吸には“人を回復させる大いなる力”があると、改めて感じました」