ダイナミックで神秘的な現象が今、この瞬間も私たちの体内で起こっています。かつては〝細胞が出すゴミ〟と考えられた小さな粒子に重要な役割があることが分かってきました。
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フィトエクソソームとは?美容と健康で注目される理由
私たちが、植物に惹かれるのはなぜ?
森林浴をすると心身ともに活力がみなぎる。旬のフルーツを使ったスムージーは美容と健康によい。私たちは経験的に、植物たちが私たちを元気にしてくれることを知っています。
これまでその理由は、森林の芳香成分や、ビタミンなどの栄養素によるものだと考えられてきました。
しかし、最新の研究で、植物の細胞たちがこれまでの栄養素とは異なる〝情報〟を私たちに伝えているということがわかってきました。
これが、世界が注目するエクソソームという小さなメッセージカプセルです。
〝情報の伝達〟という新しい価値。
エクソソームとは、植物や微生物の細胞などから分泌されるきわめて小さなカプセル状の粒子で、細胞同士の〝情報のやり取り〟を担う存在です。いわば体内を巡るメッセージカプセルのようなもので、特定の細胞に向けて必要な指令や情報を届ける役割を持っています。
これまでの健康法や美容法の多くは、ビタミンやポリフェノールのように〝足りないものを補う〟という栄養補給の考え方が主流でした。
対してエクソソームがもたらすのは、細胞そのものに働きかけ、どう機能すべきかを伝える〝情報伝達〟という新しい価値です。実は私たちはその恩恵を古来の知恵として受け取ってきました。それが旬の食材や、伝統医療で用いられてきた薬草・ハーブを日常にとり込む工夫です。
国内のエクソソーム研究の第一人者である東京医科大学教授・落谷孝広先生は、次のように語ります。
「エクソソームは顕微鏡でも見えないほど微小なカプセルですが、細胞に対して必要な指令を届ける役割を担っています。細胞の状態を良好に導くシグナルを含むもの(善玉)もあれば、逆にストレス状態を反映するもの(悪玉)もあります」
これは〝肌や身体の細胞に、スイッチを押させる〟という、まったく新しいアプローチであり、非常に大きなパラダイムシフトを起こす可能性を秘めています。
美容・ヘルスケアに広がる応用領域。
美容医療の現場はもちろん、日常的に使用するスキンケア製品にいたるまで、その応用領域は着実に広がりつつあります。
外から補うのではなく、内部の働きを引き出す。
エクソソームは、これまでの美容・ヘルスケアの考え方に革新をもたらし始めているのです。
エクソソームが細胞に情報を届ける仕組み
体内を駆け巡るメッセージカプセルが起こす奇跡。
では、生命活動を支えるエクソソームとはいったいどのようなものなのでしょうか。さらに詳しく紐解いていきます。
エクソソームは、私たちの身体を構成するあらゆる細胞から放出されるきわめて小さい粒子です。
「放出されたエクソソームは体液とともに身体の中を絶え間なく巡っています。血液の流れに乗って全身を駆け巡るだけでなく、涙液や唾液、精液などにも含まれており、さらには新しい命を育む妊娠中の母親の羊水や、母乳の中にも豊富に含まれていることがわかっています」(落谷先生)
細胞は、エクソソームをただ闇雲に放出しているわけではありません。エクソソームに細胞への指令を書いたメッセージを入れて送り出しているのです。
さらに驚くべきことに、このエクソソームには、メッセージを届けるべき細胞の宛先が明確に指定されています。
血液や体液に乗って運ばれたエクソソームは、表面にあるたんぱく質が標的となる細胞を正確に見分けることで指定された細胞にたどり着き、受け取った細胞はそのメッセージの封を開けて指令を読み取ります。
そして、免疫システムの絶妙な調整、傷ついた組織の修復と再生、皮膚バリアの再構築、老化細胞への対策など、生命維持にかかわるきわめて重要な行動を細胞に起こさせるのです。
ゴミから始まるSCIENCE
1983年
カナダとアメリカの研究チームがエクソソームを発見。87年に名前がつけられる
2007年
エクソソームの中にマイクロRNA、メッセンジャーRNAが含まれていることを発見
2013年
細胞内の小胞輸送メカニズムの発見に対してノーベル生理学・医学賞
2018年頃
美容業界で革新的な成分としてエクソソームが注目され始める
生命の根幹を左右するマイクロRNAの神秘。
ここで、エクソソームを少し専門的な視点で掘り下げてみましょう。
細胞同士がやり取りする情報の主役を担っているのが、マイクロRNA(下図を参照)というきわめて小さな分子です。
最大の特徴は、人間の遺伝子発現をひとつの経路だけでなく、多標的・多経路で同時に制御できる点にあります。
「マイクロRNAは、時に多くの遺伝子発現を同時に調整し、細胞の働きに大きな影響を与えることがあります。生命の起源はRNAにあるという研究者がいるほど、この小さな分子が生命システムに及ぼす影響は無視できないものがあります」(落谷先生)
さらに、私たちが植物からのメッセージを損なわずにとり入れられるのは、脂質二重膜(下の図を参照)の役割が大きいです。
細胞間伝達の仕組み
エクソソームは、マイクロRNAなどの情報を包み込んだカプセルとして細胞から放出され、体液中を移動します。標的となる細胞にとり込まれて内部の情報を直接届けることで、遠く離れた細胞同士のコミュニケーションを可能にします。
壊れやすい情報を内側に包み込む脂質二重膜。
その真価は、同質性が生むきわめて高い輸送効率にあります。
脂質二重膜という共通の構造を持つため、人間の細胞膜に自然と融合しやすく、中に含まれる分子が細胞内へ届きやすいと考えられています。狙った場所へ確実に情報を届けるための、最も効率的な仕組みを支えているのです。
さらに、この膜は強固なシェルターとしても機能します。
壊れやすい情報を内側に包み込むことで、体内の分解酵素から保護し、目的の細胞に届けられるまで比較的安定した状態を保つことを可能にしています。
旬の野菜や植物に宿るフィトエクソソームの可能性
植物からのメッセージフィトエクソソームとは。
近年では情報伝達の仕組みが人間以外の生物にも存在することがわかってきました。ロート製薬では、植物や微生物などの動物以外の生物から得られるカプセルをフィトエクソソームと呼び、美容・ヘルスケアへの応用に向けた研究を進めています。「人間と植物、微生物が持つエクソソームの構造は違うと思われていましたが、実は共通した特徴も多いことがわかってきました。植物はすでに我々が長い年月、安心して口に入れてきたものであり、安全性に優れていると考えられます」(落谷先生)
これまで食品の価値は、栄養素の含有量で語られることが一般的でした。しかし、私たちは単に栄養を摂取しているのではなく、天然物が持つ生体制御のメッセージを直接とり込んでいるという事実にたどり着きました。「従来の栄養学では説明しきれなかった自然の真の力を科学的に証明することは、これからの時代を生き抜くためのきわめて強力な武器になります。食糧危機など人類の課題に対しても、決定的な役割を果たすと確信しています」(落谷先生)
動けない植物が秘めた驚異のサバイバル戦略。
「旬のものを食べると身体によいと言われるのは、単に栄養素が豊富なだけではありません。季節の変化に適応し、生き抜くために植物が編み出した〝生存戦略〟にかかわる分子情報を、フィトエクソソームという形で私たちが受け取っていたためと考えられます」(落谷先生)
恩恵の背景には、栄養だけでなく、植物が環境に適応する中で生み出す多様な生体分子の影響があると考えられています。人間や動物は、環境が悪化すれば安全な場所へと移動できますが、大地に根を張る植物は、その場から一歩も動くことができません。環境の変化に対して、植物は自らの細胞内のプログラムを劇的に書き換えることで生き抜いてきたのです。特に砂漠や氷点下で命をつなぐ植物たちには、環境ストレスから身を守るための強力な自己防衛機能が秘められています。「植物が秘めた強大な力を解明することは、今後、私たちの健康に絶大な恩恵をもたらす新たな〝スーパープラント〟の発見につながるかもしれません」(落谷先生)
ショウガやグレープフルーツなど、私たちになじみ深い食材にも抗炎症や美容に効果があるフィトエクソソームが発見されています。また、「株式会社アズフレイヤの研究成果に示されたように、ドラゴンフルーツのように南国で強い太陽光を浴びて育った植物は、抗酸化力が高い」と落谷先生は指摘します。紫外線をはじめとするストレスは一般に避けるべきものと考えられがちですが、生命にとっては能力を覚醒させるトリガーでもあります。過酷な環境に置かれた植物が、生き抜くために遺伝子レベルで蓄えた生存戦略という名の情報。こうした植物の力を私たちがとり入れることは、日々の健康を維持し、より健やかな身体を作る大きな助けとなるかもしれません。「長年、人の知恵が見いだしてきたものは単なる伝承ではありません」と落谷先生。これまでは目に見えなかった価値をフィトエクソソームという現代科学により再解釈することで、植物の力をより効果的に利用する道が開かれているのです。
季節を生き抜いた植物の知恵を身体にとり込む。
植物は移動できないため、環境の変化に対して細胞内のプログラムを劇的に書き換えることで生存しています。「旬のものを食べると身体によい」という経験則は、単なる栄養補給だけではなく、最大になった植物の分子情報を、フィトエクソソームを介して体内にとり込む行為でもあると考えられています。
例えば、ほうれん草、大根などの冬の野菜は、細胞が凍結しないように糖分や特定のたんぱく質を蓄えます。この時、植物の細胞内ではマイクロRNA(情報)が大量に生成され、それを内包したフィトエクソソームが体内にとり込まれるのです。
落谷先生の先行研究事例
ドラゴンフルーツ
高抗酸化、肌のトーンアップ。
日光やUV ライトを当てた際に青みがかった光を発します。この自家発光作用のあるフルーツは珍しく、肌の黄みと反対色の青色を放つことで、肌の色味が軽減される即効性を持ちます。
ショウガ
抗炎症作用と腸内環境の調節。
ショウガ由来ナノ粒子(GDNPs)の経口投与が炎症性サイトカインを減少させ、大腸炎および関連する大腸がんの発生を防ぐことが実証されました。
種を越えて働くフィトエクソソームと人間の細胞
個体や種の壁を越えたフィトエクソソームの作用。
私たちがフィトエクソソームを体内にとり入れたからといって、人間の身体が植物に変化することは当然ありません。
しかし、人間と植物というまったく異なる種であっても、人間の細胞はフィトエクソソームが運んできた有益な情報を共通の言語として正しくとり込むことができます。その情報を受け取った自身の細胞は、自ら健やかになろうとする反応を示し、実際に起こすアクションを変えていくことが明らかになっています。
その秘密は、エクソソームの構造にあります。カプセルの中には、人間も植物も細胞特有の酵素や受容体などのたんぱく質、メッセンジャーRNAやマイクロRNAといった核酸が内包されています。
個体や種を越えても、エクソソームの作られる工程は類似しているため、カプセルに内包されているたんぱく質やマイクロRNAなどの成分の構造も人間と共通している部分が多くあります。
だからこそ、植物の遺伝子情報が人間の細胞に作用するという、生命の神秘とも言える現象が成立するのです。「17年以上研究してきたものの、私自身、エクソソームの全体像をまだ捉えきれていません。しかしエクソソームは、単なる細胞間の伝達物質という枠組みを越え、異なる種間でも共有しているインターキングダムと呼ぶべき存在であり、広く生命現象の調節にかかわる根源的な存在であると言えそうです」(落谷先生)
われわれ人類がはるか昔から植物や他の生物を摂取して命をつないできたその歴史の背景には、常にこのエクソソームを介した情報のやり取りが深く関与していた可能性が示唆されています。
品質と安全性を追求し多様な製品へと広がる未来。
フィトエクソソームを含有する安全な製品を届けるには単に植物をすりつぶせばよいわけではありません。厳格な品質の担保が不可欠です。
「電子顕微鏡による緻密な形状の確認、マーカーによる同定、生物活性の測定といった多面的な評価が求められます。どの植物由来であるかを証明する植物特異的マーカーの確立や、産地、品種、栽培条件の徹底した標準化も必要です」(落谷先生)
フィトエクソソームに関する研究開発は今、かつてないスピードで進展中です。落谷先生によると、現在、世界中でこれらの規制の整備が進み、医薬品レベルに近い同等性や再現性が強く求められる時代に突入しています。
植物の潜在能力を最大限に引き出す研究を続けていきながら、日本の高い技術力を活かし、誰もが納得する確かなエビデンスを提示していくことが、メーカーにも求められているのです。
NEWS|
研究と実用化の両輪で進む微細藻類の新しい創造価値。
太古の微細藻類が導くフィトサイエンスと社会実装。
ロート製薬では、2025年4月に『フィトサイエンス構想』を発表しました。植物や微生物など自然素材の潜在力を科学で解き明かし、地域と共創しながら社会価値へ昇華することを目指す新たな挑戦です。
この構想の一環として、フィトエクソソームの研究を続けてきました。特に着目したのが、沖縄県の北部に生育する微細藻類・パブロバです。
オゾン層が形成される前、地球には強い紫外線が遮られることなく降り注いでいました。微細藻類はその過酷な環境を生き抜いたと言われ、きわめて強い生命力を持つと考えられます。このパブロバからフィトエクソソームを抽出し、ヒトの肌に与える影響を検証したところ、紫外線照射時の炎症抑制や、皮膚のバリア再建を促進する効果が認められました。
こうした研究と並行して、藻類の可能性を地域で実装する拠点として沖縄県の久米島に誕生したのが藻類農園FARMO(ファーモ)です。FARMOでは、藻類の研究・生産・加工・観光を一体的に展開し、次世代資源としての藻類の事業化が進んでいます。
将来的には日々の美容と健康を支える化粧品やサプリメント、機能性食品といった分野への展開を見据えています。
上/パブロバ栽培の様子 下/藻類農園FARMO
藻類フィトエクソソーム
ロートは現代の50倍近い紫外線の中で生きてきた微細藻類に着目し、彼らが分泌するフィトエクソソームを研究しました。
紫外線を浴びた時の炎症を抑制。
ヒトの表皮角化細胞に紫外線(UVB)を照射すると、細胞から炎症性物質(PGE2)が分泌されます。パブロバ由来の藻類フィトエクソソームを添加すると、分泌が抑制されました。
皮膚のバリア再建を促進。
タイトジャンクション(細胞の隙間をふさぐたんぱく質の帯)を再建し、表皮のバリアが改善されました。
フィトエクソソームを日常の美容・健康に取り入れるには
身体も心も整える新たなスタンダードへ。
フィトエクソソームは野菜や果物を食べることでも日常生活にとり入れられますが、化粧品やサプリメントを使うことで、より効率的にその恩恵を享受できる可能性もあります。一方で、「これがあればフィトエクソソームだ」と言い切れる指標がまだ少ないことは課題です。しかし、「フィトエクソソームは一過性のブームに終わらず、今後も発展が見込める」と落谷先生は話します。「内側から整えるインナービューティのための素材として、私は〝植物〟が最適解だと考えています。今後、各社で研究が進み、エビデンスに基づいた誠実な選択肢が増えることを願っています」(落谷先生)
人間が古くから受け取ってきた自然の恩恵を科学的に捉え直したフィトエクソソーム。その秘められた力が今、内側から健やかな美しさを引き出す新たなスタンダードとして輝き始めています。
Q.フィトエクソソームがなぜ人間に作用するの?
A.人間のエクソソームの膜と基本構造が共通しているからです。
植物も人間も、細胞の外側を包んでいるのは脂質二重膜です。性質と構造が共通しているからこそ、フィトエクソソームは人間の細胞にもとり込まれやすいことが研究で示されています。植物から放出される情報を受け取り、それを利用して体調を整えてきた人間の歴史的背景も影響していると考えられています。
Q.旬の野菜を食べるだけでもいいの?
A.十分ではありません。
旬の野菜を食べることは健康にとって大切ですが、フィトエクソソームがどの程度含まれているかは、収穫後の時間経過による鮮度の低下や、加熱などの調理プロセスによって影響を受ける可能性があります。ジュースやエキスも同様で、加工や加熱で構造が変化する場合があります。
Q.日常生活でのとり入れ方は?
A.化粧品やサプリメントがおすすめです。
化粧品の場合
化粧品に配合された成分は角質層(表皮の最外層)までしか浸透しないものもありますが、落谷先生らの研究で、フィトエクソソームを塗布すると真皮までとり込まれやすいことが示唆されています。そのため、効率的な浸透が期待されます。
サプリメントの場合
口から入った多くの有用成分は胃酸で分解され活性を失います。しかし、落谷先生らの研究チームによると、脂質二重膜に包まれたフィトエクソソームは胃酸環境でも安定的であり、本来の情報を保持したまま腸管まで到達する可能性があることからサプリメント素材への応用が期待されます。
Q.どんな種類のフィトエクソソームがいいの?
A.〝素材の強さ〟と〝発酵〟が重要です。
同じ植物であっても、生育した土壌や気候、さらに亜種などの系統によって効果は大きく異なります。強い紫外線や極寒といった過酷な環境で育った植物は、自らを守るために有用な情報を詰め込んだフィトエクソソームを産生することがあります。厳しい自然環境を生き抜くための生存能力が高い個体ほど、結果としてフィトエクソソームの特徴にも違いが生まれる場合があります。
また、味噌や醤油のように、微生物の力を借りる発酵のプロセスを経ることで、植物だけではなく微生物由来フィトエクソソームも加わり、内容物が変化することがあります。発酵過程での微生物による刺激は、植物細胞からのフィトエクソソーム放出を促すだけでなく、成分をより人間がとり込みやすい形にする可能性があるとして注目されています。
POINT|フィトエクソソーム商品の信頼性を見極める視点。
現在、市場には実態が伴わないものが数多く混在し、フィトエクソソーム原料の中には安定性などの品質を確認していない商品さえあります。この技術を一過性の流行で終わらせないためには、客観的な科学的裏づけが欠かせません。
しかし、目に見えないナノ粒子の真偽を、消費者が完璧に見極めるのは難しいのが現実です。最新科学でありながら、最終的には〝厳密に品質管理を行うメーカーを選ぶ〟という基本的でアナログな一点に集約されます。















