かつては悪化していくのを眺めるしかなかった近視。しかし現在は、その進行をゆるやかにする具体的な手法が確立されつつあります。子どもの未来の視界を守るため、大きな転換点を迎える最新の眼科医療を紹介します。
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増え続ける子どもの近視。そのリスクと治療の変化
世界的に近視が増加中!4〜5歳から始まることも。
遠くのものを見づらそうにしていたり、テレビに近づいたりと、ふとした仕草は視力低下のサインかも。現在、子どもの近視は、統計的にも増加傾向にあります。
文部科学省によると、裸眼視力1.0未満の割合は小・中・高生で30〜70%と、40年前と比べて大幅に増えています。さらに稲澤クリニック院長、稲澤かおり先生は、「4〜5歳からの発症など低年齢化も進んでいる」と指摘します。
近視人口は世界で爆発的に増加しており、中でもアジア諸国では国策として対応に乗り出している国も。では、なぜこれほど近視が問題視されるのでしょうか。
「近視が進むと、将来的に目の病気が増える可能性が高まるからです。一番の問題は緑内障です。近視が1D※(ディオプター)進むとリスクが20%高まると言われ、マイナス3D程度の弱い近視でも、近視でない人に比べて緑内障リスクは約3倍になります。緑内障は一度罹患すると完治は望めず、一生つきあう病気となります」
日本人の失明原因第1位、緑内障。その恐ろしさは、視野が欠けても脳が自動的に補完し、正常に見えていると錯覚させる点にあります。無自覚のまま進行し、異変に気づいた時には失明寸前——。その見えない罠こそ、緑内障が最も恐れられる理由です。
視覚は、人が情報を得るための極めて重要な役割を担っています。このように病気によって視機能が低下すると、文字の読み取りや人との交流が難しくなり、生活の質(QOL)が低下しかねません。外出や社会的な交流が減ることは、身体の活力を失うフレイルや、認知症の発症リスクを高める要因にもなり得ます。
※メガネやコンタクトレンズの度数を表す単位。近視ではマイナス(-)、遠視ではプラス(+)で表記され、数字が大きいほど度数が強くなる
裸眼視力1.0未満の子どもの割合
裸眼視力1.0未満の子どもは46年前と比べて約2倍に!
※文部科学省「学校保健統計調査」を加工して作成
Caution|放置により起こりうる悪影響
- 緑内障
- 網膜剝離
- フレイル
- 認知症
- QOL低下
近視の進行を抑制する治療が国内でも承認。
一方で、「近視の進行は止められないので諦めるしかない」というこれまでの常識が、今大きく変わろうとしています。2025年、国内初となる近視の進行抑制点眼薬が承認・発売されたことを機に関心が高まり、治療の選択肢が広がっているのです。
「『何とかできるなら』と熱心に治療にとり組む親御さんが増えています」
近視は静かに、確実に進んでいくもの。大人になった子どもが、自分の目で世界をすみずみまで見渡せるように。私たち大人がサポートできることが、実はたくさんあるのです。
近視はなぜ進む?原因と仕組み、そして治療の選択肢
“近く”へのピント調節が近視を進行させる。
近年、スマホやタブレットの普及による〝近見作業の増加”が、近視を進行させる大きな要因として注目されています。特に腕の短い子どもは意識しないと画面との距離が縮まり、常に近くにピントを合わせる状態になります。これが眼の奥行の長さ(眼軸)を伸ばす一因となるのです。
近視の多くは、この眼軸が伸び過ぎることで起こります(下の図を参照)。眼軸は成長期に伸びやすく、さらには成人後も伸び続けることがあると知られています。
一度伸びた眼軸を元に戻す手法はまだ確立されていないため、いかに進行を緩やかにするかが重要となります。
近視のメカニズム
見える仕組み(カメラに例えると)
近視
目に入った光は、角膜と水晶体で屈折し、網膜でピントが合って像を結びます。この情報が視神経を通して脳へ伝わり、私たちは映像として認識します。
近視の多くは、眼軸が伸び過ぎることで網膜の手前にピントが合い、像がぼやけてしまうのです。
昨年の承認ラッシュを経て近視抑制は実用期へ!
近視治療に関して覚えておきたいのは、現状を改善するのではなく、あくまで進行を抑制するという点です。これを踏まえ、現在選択できる主な治療法を4つ紹介します。まず、世界で最も広く行われ、日本でも昨年から徐々に普及しているのが【低濃度アトロピン点眼液】です。
「使用法は、1日1回、寝る前に点眼するだけ。幅広い年齢層で使いやすい基本の治療です」
次に、2025年度に国内ガイドラインが作成された【近視管理用メガネ】です。特殊な設計により、従来のメガネと比較して屈折度の進行を最大約60%抑制する効果が報告されています。
「メガネをかけるだけなのでリスク管理がしやすく、今後の普及が見込まれています」
コンタクトレンズの選択肢も増えています。日本で昨年8月に厚生労働省の承認を取得した【多焦点ソフトコンタクトレンズ】は、1日使い捨てタイプで衛生的に管理しやすいのが特徴。日中に装用するため、自分で着脱ができる年齢の子どもが対象となります。
一方、【オルソケラトロジー】は、大人の管理のもとで使用します。就寝中に特殊なハードレンズを装着することで、角膜の形状を整える治療法です。
「日中を裸眼で過ごせるので、特にスポーツをする子どもに人気です。装着時に痛みを伴うことがあるので、本人のモチベーションも必要です。また、角膜感染症などのリスクを避けるため、適切な管理が不可欠となります」
これらの治療法は、対象年齢や生活スタイルにより向き不向きがあります。自由診療のため費用は一律ではありませんが、月5千円〜1万円を超えることも珍しくありません。
「決して安い金額ではなく、長期的な継続も必要です。だからこそ、リスクも誠実に話してくれる主治医をじっくりと探してください。親子で納得できる先生との出会いが、大切なスタートラインになります」
代表的な治療法
低濃度アトロピン点眼液
- 特徴…就寝前に点眼し、眼軸の伸長を抑制する。
- メリット…手軽に始められ、ほかの治療法とも併用可能。世界で最も広く使われている。
- デメリット…まぶしく感じることがある。
※2026年6月から診察・検査費は保険適用対象
【進行抑制効果】開始1年間で30〜70%
近視管理用メガネ
- 特徴…特殊なレンズ設計により、網膜周辺部でのピントのズレを防ぐ。
- メリット…目に直接触れないので安全性が高い。低年齢から導入しやすい。
- デメリット…フレームのフィッティングがずれると効果が十分に発揮されない。 日本でまだ使える種類が少ない。
※2025年度ガイドライン掲載、今後順次追加見込み
【進行抑制効果】開始2年間で55〜60%
多焦点ソフトコンタクトレンズ
- 特徴…ピントを網膜の手前に合わせることで、眼軸の伸長を抑制する。
- メリット…昼間装用なので管理がしやすい。ワンデーの場合は衛生的。
- デメリット…自己管理できる年齢まで使用不可。
※2025年8月厚生労働省承認取得
【進行抑制効果】開始3年間で59%
オルソケラトロジー
- 特徴…寝る時に特殊なコンタクトレンズ(ハードレンズ)を着けて、角膜の形を矯正する。
- メリット…日中は裸眼で過ごせ、効果を実感しやすい。低年齢から導入しやすい。
- デメリット…ケアを怠ると感染リスクあり。装着時の違和感が多少ある。
【進行抑制効果】開始2年間で32〜63%
※「世界小児眼科斜視学会(WSPOS). 近視コンセンサス・ステートメント 2025.」参照。抑制率は代表的な報告値であり、効果は屈折度(度数)や眼軸長、使用条件、個人により異なります
日常でできる近視対策。受診のタイミング
外にいる時間を「見える化」しよう。
専門的な治療はもちろん大切ですが、日常生活でできる対策はたくさんあります。
昔と比べて、今の子どもたちは、読書、勉強、スマホ操作、動画視聴、ゲームなど、近見作業が極端に多い環境に置かれています。便利な道具を一律に禁止するのは難しいため、まずは下の図で〝近見作業”〝画面や本からの距離”〝屋外活動時間”といった日々の習慣をチェックしてみてください。
3つの中で稲澤先生が特に重視するのが、近視抑制に有効な屋外活動時間です。
「光刺激によって網膜で合成されるドーパミンが、眼軸の伸びを抑える一因と考えられています。目安は1日2時間、難しい場合は週14時間を基準に。登下校や習い事への移動も立派な屋外活動に含まれます。まずは、隙間時間を積み上げて目標を意識することから始めてください」
効果は日陰でも得られます。夏場は帽子や日焼け止めで紫外線・熱中症対策を万全に。ベランダや窓を開けての日光浴も有効です。
Check!|チェックしてみよう!
- 近見作業 約 □ 時間/日(そのうち、連続作業時間 □ 分)
- 画面や本からの距離 □ cm
- 屋外活動時間 約 □ 時間/週
合い言葉は「さ·が·そ」
さ|30分に1回は目を休めよう
が|画面や本から30㎝目を離そう
そ|外に出よう
近視の進行を抑えるためには、毎日の小さな心がけが不可欠です。この「さ・が・そ」の習慣が、将来の病気のリスクから子どもを守ります。ご家庭でも積極的に声をかけ合い、無理なく楽しく継続してくださいね。
食事や睡眠も目の健康に影響。
内側からのケアを並行することも重要です。ほうれん草などの緑黄色野菜に多く含まれ、網膜を酸化ストレスから守るルテインや、近視の進行を抑える働きが期待されるクロセチンといった成分は、成長期の瞳を守るための心強い栄養素。これに加えて、目の筋肉の緊張を解く十分な睡眠を確保することで、最新の治療も効果を発揮しやすくなります。
食と眠りを整えることは、最も身近な投資と言えるでしょう。
B判定が出たら、迷わず眼科を受診。
早期発見のために最もわかりやすいサインは、“遠くのものや字幕を見る時に目を細める”、そして、“学校健診でB判定以下”。この段階で、すでに近視が進行していることが多く、「迷わず眼科を受診してください」と稲澤先生。学校の視力検査は子どもの集中力や検査環境に左右されやすいものですが、眼科で測定する眼軸の長さは客観的な指標となるからです。伸びが最大化する8歳頃より前、早めの受診が理想的です。
「デジタルデバイスは授業でも使用時間が増えています。今の子どもが置かれている状況は私たちの世代とはまったく違うことを踏まえた上で、どう目を守るかを一緒に考えていきましょう」
最新医療という選択肢は、子どもの将来の視界を守るための、心強い味方になるはずです。
近視進行抑制に期待の成分。クロセチン。
クロセチンは、クチナシの果実やサフランに含まれる黄色の天然色素です。身近なところでは、クチナシの実は栗の甘露煮やたくあんの色付けに、サフランはパエリアやサフランライスの香り付け・色付けに使われています。
このクロセチンが、近視進行を抑える働きにかかわる【EGR1遺伝子】を非常に活性化させることが報告されています。ほかに、目の疲労回復促進や睡眠の質向上、美肌効果があることも知られています。クロセチンを含む食品やサプリメントを活用し、無理なくとり入れることをおすすめします。
ほかにもある!子どもの目に潜む危険。疲れ目・乾き目に注意。
子どもは大人と比べ、目の疲れを自覚しにくい傾向があります。長時間のデジタル機器使用などでまばたきが減ると、目が乾いて涙の状態が不安定になり、炎症が生じます。こうした影響で視界がかすむようになると、ピントを合わせる毛様体筋に過度な緊張がかかり、いわゆる疲れ目を招きます。成長期の目において、この毛様体筋の緊張が続くことは眼軸を押し伸ばす物理的刺激となり、近視進行の一因となる可能性があります。気づかぬうちに蓄積する目の負担には、十分に気をつけましょう。
Eyecare|目の健康からウェルビーイングを。
目の健康は、一生の宝物。ロート製薬は、子どもの近視予防とアイケアの重要性を広く伝える活動を通じて、生涯にわたって「みえるを守る」とり組みを続けています。















