自分のことは自分でする。安易に人を頼らない。本誌読者の中には、そう教わってきた人もいるかもしれませんね。誰かを頼るのは弱いからだという、よくないイメージがあるようにも思います。でも、実はそんな“弱さ”が“強さ”を生み出すことだってあります。私たちには、弱さがあってもいい。それは、長く続いていく人生を豊かなものにし、さらに豊かな社会を築くことにつながる可能性があるのです。
ずっと、豊かに生きる ために。 “弱さ”が 教えてくれること
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ずっと、豊かに生きる ために。 “弱さ”が 教えてくれること
弱さにも、ポジティブな意味がある。
「さすが、お姉ちゃん。しっかりしてる」。長女である筆者は、幼い頃からそう言われることが多くありました。そんな経験から、50歳を超えた今でも「自分で何でもやれるのはよいこと」だと考えています。ただ、他者に対してもそうあるべきだとは思わず、高齢の母やご近所さんが「人様に迷惑をかけてはいけない」とがんばっている姿を見ると、私にも何か手伝えることがあるはずだ、と感じます。
助け合うのはとても大切なこと。頼り頼られる関係を築ければ、ウェルビーイング(よい状態の意味)につながるのではないかと本誌編集部は考えました。そして、ロボットを通じて、人とモノ、人と人との関係を研究する豊橋技術科学大学の岡田美智男先生を訪ねました。ロボットには“完璧なもの”というイメージがありますが、岡田先生が作るのは、不完全な“弱い”ロボットです。
「あるきっかけから、コミュニケーションの本質を、人間とロボットの関係から探れるのではないかと考えました。研究のために、まずはロボット制作から開始。しかし、私はロボット制作に関してはまったくの素人です。資金も十分ではなく、雑貨店などで買い集めた部品を使って手作りし、なんとかでき上がったのは、完璧とは程遠いロボットでした」
先生が最初に完成させたのは、ゴミ箱のカタチをしたロボット。ヨタヨタと頼りなげに動き、安いモーターゆえギィギィと音がするものだったそうです。
「ある施設でそのゴミ箱ロボットをお披露目したところ、次第に子どもたちが集まり、ロボットを気遣いながら一緒に歩いたり、障害物をどけたりする子どもが現れました。そして、ひとりがゴミをロボットの中に入れたのをきっかけに、ほかの子どもたちも次々にゴミを中に入れ始めたのです。自分でゴミを拾えない弱いロボットを、子どもたちが世話する。その様子を見て、“弱さ”にはポジティブな意味があるのではないか、と考え始めました」
頼る人も、頼られる人も実はよい状態に。
先生はその後も、モジモジしながらティッシュペーパーを配ろうとするロボットや、昔話を語り聞かせようとしながら、途中でお話の先を忘れてしまうロボットなどを生み出しています。
「ロボットに近づいて、ティッシュを受け取ってくれたり、お話の続きを語りかけてくれたり。ロボットを手助けする子どもたちは、目を輝かせてとてもいい表情を見せます。弱いロボットによって、子どもたちは自らの能力が十分に引き出されイキイキとしているのでしょう」
頼ると迷惑に思われるかもしれない。そう考えてしまいがちですが、実は頼られたほうも達成感や有能感を得られることがあるのです。それは、お互いによい状態であると言えそうです。