噛み過ぎNG!噛み締めや歯ぎしりでも噛めなくなる
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噛み過ぎNG!噛み締めや歯ぎしりでも噛めなくなる
噛むことは、健康にとても重要なこと。でも、噛み締め過ぎることも歯を失ったり顎の機能にも影響を与える原因になるのです。
自分でも、家族でも気づきにくい噛み締め。
ここまで、姿勢の悪さや、骨量の変化、唾液の減少などが噛めなくなる理由だとお伝えしてきました。それらに加えて意外な理由は、ほかにもあります。“噛み締め過ぎる”こともまた、噛めなくなる理由のひとつなのです。
「かつて歯を失う原因は、虫歯と歯周病が大半でしたが、ここ10年くらいで、歯と歯ぐきに力が加わることもその原因になると考えられるようになりました。強い噛み締めや歯ぎしりなど、上下の歯を必要以上に接触させることを、歯科用語で【ブラキシズム】、それをする人を【ブラキサー】といいます。睡眠時だけでなく、起きているときにも無意識にしている人も多くいます」
長野県の上伊那歯科医師会の調査によると、歯が折れたり割れたりした結果、抜歯することになった人の数は、約10年で約2倍に増加。その背景にはブラキシズムがあるのではないかと報告しています。自分では気づきにくいブラキシズム。とりわけ就寝中の歯ぎしりは、方向によっては音がしないこともあり、同居する家族でも気づきにくいのだそうです。
「上下の歯には少し隙間があるのが正常な状態です。噛み締める力が強ければ70キロを超えることもあり、実に人ひとり分の体重以上の力がかかることもあります。歯はもちろん、顎を支える筋肉や顎の関節、歯ぐき、歯の根っこの周囲にある、クッションの役割を果たす歯根膜に大きな力がかかり、歯が割れるだけではなく歯周病にもなりやすく、結果歯が抜ける、抜かなければならない状態につながっていきます」
ブラキシズムの大きな原因はストレスだと言われています。(下のグラフを参照)
強いストレスで噛み締めが増加
強いストレスで噛み締めが増加
参考資料:Rugh,J.D. and Solberg,W.K. :Oral sciences reviews 7,3-30(1979)
被験者の日常生活の40日間で、睡眠中の噛み締め(ブラキシズム)を計測したグラフ。学校の試験や病気など、ストレスが多くあると思われる日の夜は、噛み締めが多く発生していることがわかる。
「歯を食いしばる」、「歯ぎしりをする」という言葉が、それぞれガマンをしている状態、いら立ちや悔しさを感じている状態として使われていることを考えても、精神的な負担によって噛み締めが起きていることは不思議ではないでしょう。事実、ブラキシズムは、ストレスを解消するために行う生理的な反応だと考えられているのだそうです。
「ブラキシズムによって、頭痛や肩こりが起こることもあります。ただブラキシズムは自分で気づきにくいものなので、解決策が見つけられず、ただただ長年悩まされることになっている人も多いようです」
硬いものを噛むだけが〝噛む〟ことではない!
きちんと噛むこと。そう聞くと、“硬いものを強く噛むこと”だと思ってしまうかもしれません。噛むとは、決してそういうことではありません。硬いものは、飲み込めるようになるまでゆっくり噛むこと。そして、柔らかいものを噛むのも大切なことです。
「昔は『牛乳を噛んで飲むように』と言われていました。液体なので本当は噛む必要はありませんが、それだけ噛むことが大事だと、経験的に知っていたのかもしれません。事実、噛むことで分泌される唾液の力はとても大きい。唾液の中には、免疫物質があり、身体を病気から守ることができます。柔らかいものも含め、“ひと口につき30回噛む”ことはやはりとても大切。噛むことで、唾液とともにパロチンという唾液腺ホルモンも分泌されます。これは若返りホルモンと呼ばれていて、骨や筋肉を丈夫にして、老化防止に役立つと言われているのです」
噛めなくなる理由はさまざまですが、それを見極め、きちんと導いてくれる存在は、やはり歯科医。歯科検診は、虫歯の有無を診るだけではないのです。