それを覚えることは本当に必要?脳は100年経っても衰えません。
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それを覚えることは本当に必要?脳は100年経っても衰えません。
昔に比べてもの覚えが悪くなったと感じたり、圧倒的な才能を持つ人をうらやましく感じたり。自分の能力にコンプレックスを抱いてしまう人は多いと思います。加齢による能力の低下や、生まれ持った能力は、もう仕方のないこと? 変えることはできないのでしょうか?
なぜ、年をとると覚えられないと感じるか。
テレビなどで見かける、タレントや俳優。顔はわかるのに、名前がなかなか出てこないということはよくありますね。以前は、アイドルグループの全員の名前を言えたのに、加齢のせいで……と感じてしまうようですが、実は脳は100年経っても衰えることはありません。115歳で亡くなったオランダの女性の脳を調べたところ、いずれの機能も若いときと差がなかったことがわかり、脳そのものの寿命は120年あると考えられています。
記憶力を競い合う世界大会での優勝者は、ほとんどが30~40歳代。円周率記憶で知られる原口 證さんは、58歳で5万4千桁、60歳で10万桁の暗唱に成功しています。何歳になっても記憶力を向上させることはできるのです。
ではなぜ「年をとるともの覚えが悪くなる」と感じるのでしょうか?それは【覚えられない】のではなく、【覚える必要がない】と脳が判断しているからです。年齢を重ね、経験が増えると、情報の取捨選択が上手になります。本当は、芸能人の名前を覚える必要がなかったのではないですか?
好きなこと、興味があること、わくわくするという感情を伴うものなら、いくつになっても記憶ができるのです。「若い人はいいわね、すぐに覚えられて」なんて言うと、脳が悲しみますよ。
さまざまな経験をして知恵を増やしていく。
記憶力を伸ばすことはもちろん、知恵を増やしていくこともできます。勉強や仕事で、突出した才能を持つ人をうらやましく感じることはあると思いますが、その人たちに比べて、自分が平凡だと落ち込むことはありません。
スポーツの競技には、ベテランのほうが有利なものがありますね。例えばマラソン。選手が自己ベストを出すのは10〜20代ではなく、一般的に30代だと言われています。これも知恵のなせる業です。42.195キロを、ただただ速く走ろうとするのではなく、計画的にペース配分を考えてゴールを目指せるようになる。脳を上手く使えるようになることで、身体も上手く使えるようになるのです。脳は経験を通じて、足りない部分を補う術を学んでいくのです。
いわゆる天才は、生まれながらにして決まっています。その才能を伸ばし、活躍している人たちは本当にすばらしい。でも、私は普通であることの恵みもあると考えています。一流のスポーツ選手も芸術家も、天才と呼ばれる人たちは、優れた才能を持ったがゆえに孤立することが多い。ひとつのことを極めるために、数多くの幸せを手放しているとも言えます。
天才は、いわば切り立った山。高い部分もあり、裾野も広げられるのが普通であることの恵みだと思います。さまざまな経験を通じて、知恵を増やしていくことが裾野を広げることにつながります。
“アイドルの名前を言えなくなったら年をとった証拠”などと言われるようですが、それは世界が広がり、アイドルのほかにも夢中になれるものが増えたということなのでしょう。私たちを悩ませていたのは、“脳は加齢とともに衰える”、“平凡であることは退屈”という思い込みだったのかもしれません。