泣くことには、眠るのと同じリラックス作用がある。
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泣くことには、眠るのと同じリラックス作用がある。
涙とリラックス。人が涙を流す時、この一見関わりのない両者の間で、何が起きているのでしょうか。ここでは、そのメカニズムについて、詳しく解説しましょう。
眠る時と泣いている時に副交感神経が優位に。
ストレスと涙のメカニズムには、意思とは関係なく働く“自律神経”という神経が深く関わっています。
「人間の身体は、“交感神経”と“副交感神経”という自律神経の働きに支えられています。まず、昼間の活動中や、特に緊張している時などに優位になるのが、交感神経。その時、脈拍や血圧が高くなり、集中力もアップします。反対に眠っている時、リラックスしている時などには、副交感神経が優位になります」
ところが人がストレスを感じると、交感神経が極端な緊張状態になり、脈拍や血圧が急上昇。今、多くの人が、忙しさによる睡眠不足などによって、交感神経の優位な状態が長くなっています。
「この交感神経の緊張をゆるめて、ストレスを解消するには、余計なことは考えずに眠ってしまうことです。眠ると自然に副交感神経にスイッチが切り替わり、気分がリラックスします」と有田先生。そして興味深いのが、眠ること以外に副交感神経へとスイッチを切り替えるただひとつの方法が、“情動の涙”を流すことなのだそうです。
泣くのをがまんするとストレスが溜まる結果に。
「人は涙を流す時、交感神経の緊張は高まっています。そして前頭前野が激しく興奮した直後に涙が流れ、副交感神経へとスイッチされて、心身がゆったりリラックスした状態になるのです。それは、眠っている時と同じように心身がホッと休まる状態。泣いた後、ぐっすり眠った時のように、スッキリするんです」
このことは、有田先生が脳の活性度を調べる際に使用する“POMS心理テスト”の結果からも分かります。POMS心理テストとは、“緊張・不安”、“抑うつ”、“怒り”、“活力”、“疲労”、“混乱”の6つの尺度で、その時の気分の状態を測るもの。「映画を見て涙を流した人の、泣く前・泣いた後の状態を調べたところ、どの尺度でも半数以上の被験者に改善が見られました。その結果からも、泣くと気分がリラックスすることがわかります」
涙をこらえた人や泣くことができなかった人は、このような改善がほとんど見られないのだそうです。
「泣くのをがまんすると、ストレスが解消しないばかりか、また新たなストレスにつながってしまいます。その状態が続くと、高血圧や胃潰瘍などになる危険性も高まります。涙の量や泣いた時間の長短に関係なく、涙を流すことで副交感神経へとスイッチされるので、健康のためにも涙をがまんしないことです。涙は、ストレス解消のためにとても便利な機能。溜まってきたなと感じたら、ランニングやカラオケと同じように、リフレッシュ方法のひとつとして、ぜひ積極的に利用してほしいですね」
笑うよりも泣く方が心がスッキリする。
笑うことも、免疫力が高まり健康につながると言われていますが、ストレスを解消するという意味では、泣くことのほうが効果的。POMS心理テストで笑った人の状態を調べたところ、泣くことのストレス解消の度合いが、笑うことよりも遥かに大きいことがわかったそうです。また、効果の持続も泣くことのほうが長いのだそう。
ただ、人はいつどんな時も涙を流せる訳ではありません。先述のアンケートでも「普段泣くのをこらえている」人が、半数近くいることがわかりました。そこで次ページでは、上手な涙の流し方をご紹介します。
涙にまつわるプチ知識
涙もろくなるのは老化!?
老化ではありません。すべての“情動の涙”のベースには、他者への共感がありますから、経験や苦労を重ねるほど、誰かに共感する気持ちが強くなり、涙もろくなるのです。ちなみに、幼い子どもは、まだ経験が少ないため、共感の涙は流せないのですよ。
泣いた後に眠くなるのはなぜ?
副交感神経が優位になり、心身が非常にリラックスした状態になっているからです。余裕がある時であれば、そのまま眠ってしまえば、スッキリ爽やかに目覚めることができるはずです。また、泣いた後にお腹が空くという方もいるんですよ。涙は実に不思議です。
演技の涙でもスッキリする!?
泣いている状態は、自律神経による作用なので、通常は自分の意思によりコントロールできるものではありません。ですから意識して涙を流すというのは、とても特殊な状態なのです。脳にも負担がかかりますから、スッキリとした気分にはなれません。