身体を守るヒーロー アディポネクチン。
脂肪が生み出す、スゴい物質。
松澤先生の言う“脂肪が生み出しているさまざまな物質”とは、どういうものなのでしょう?
「太っていても病気にならない人と、少し太っただけでも病気になってしまう人がいるのはなぜか、という点に着目したところ、そこに皮下脂肪ではなく内臓脂肪が関係していることがわかりました。そこでそれらの脂肪の性質をより深く知るため、脂肪細胞の遺伝子に関する研究を進めました。すると、なんと女性ホルモンや成長ホルモンのように身体の機能をコントロールする物質を、脂肪が自ら生み出していたことがわかったのです」
この事実は、松澤先生の研究室において、世界に先駆け発表されたもの。またたく間に世界の研究者から注目を浴びました。
「これまで単なるエネルギーの貯蔵庫としか見られていなかった脂肪細胞が、実は重要な物質を生み出す役割を担っていたのです。これは実に衝撃的でした」
体内の“消防隊”「アディポネクチン」。
脂肪が生み出していたのは多彩なアディポサイトカイン(生理活性物質)。そして、そんなアディポサイトカインの中で、超善玉として今、最も注目されているのが「アディポネクチン」です。ギリシャ語でアディポ=脂肪、ネクチン=くっつく、という意味で名付けられたホルモンで、血流に乗って全身をパトロールし、血管壁に傷ついた部分や炎症を見つければ、素早くそこにくっついて修復してくれるので、体内の“消防隊”とも呼ばれているそうです。
「アディポネクチン」は血管を修復するほかにも、高血圧や動脈硬化を予防・改善したり、また、血糖を調整するインスリンの働きをよくして糖尿病を防いだり、さらには余分な脂肪の燃焼をサポートして脂質異常症から守ってくれたりと、主に生活習慣病対策のために大活躍する、とてもありがたい物質です。
「減らしたい」とばかり思っていた脂肪が、実は私たちを救ってくれるヒーローの生みの親だったのです。
まだまだ未解明の部分も多く、現在も研究が続けられているとのことですが、大切にしなくてはいけないことに間違いはありません。
「アディポネクチン」の分泌量は増やせるの?
脂肪組織から分泌される、私たちのヒーロー「アディポネクチン」。この先ずっと、健康的な生活を送り続けるためにも、常にたっぷりの量を分泌できる身体の状態をキープしておきたいものです。しかし、「アディネポクチン」の分泌量は、単に脂肪の量と比例するのではないらしいのです。次のページから、その理由を紐解いていきましょう。