これから迎える本格的な夏。今年も危険な暑さが予想されます。毎年、盛んに水分摂取が呼びかけられますが、あなたはどのように水分を摂っていますか?いつ、どんなものを、どれくらい摂ればいいのでしょうか。“正しい摂り方”、あやふやになっていませんか?実は、きちんと水分を摂らないといけないのは、夏だけではありません。熱中症対策を考えるこの時期に、一年を通して必要な、正しい水の摂り方を覚えておきましょう。
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水分補給はなぜ必要?
- 身体に必要な、酸素や栄養素を運び入れる。
- 老廃物など、身体から不要なもの運び出す。
- 体温をコントロールする。
身体にある水分(血液などの体液)には、生命活動を維持するための、3つの働きがあります。水分補給は、生命維持に必要不可欠。熱中症・脱水症も、水分不足によって起こります。
熱中症
暑さにより体内の水分が不足し高体温になる病気
脱水症
体内の水分が減少し、生命活動に支障が生じる病態。熱中症の症状のひとつ
熱中症での死傷者は、毎年1000人以上。水分補給は、命を守る大切なものです。
1日に、2リットルの水分が必要。
1日に必要な水分量は、
人によって違います。
その人の体格や生活環境などによって、必要な水分量は違います。【4-2-1ルール】(下図を参照)で、自分の最低限必要な水分量を計算してみましょう。誤解が多いのですが、1日に摂るべき水分は水など飲料だけではありません。実は、食事からの水分摂取が重要なのです。食品にも水分が多く含まれています。1日に必要な水分量の半分を食事から、残りの半分を水などの飲料で摂ると考えましょう。
1日に必要な水分量の求め方
必要水分量は、体格や生活環境などによって異なりますが、生命活動の維持のために最低限必要な水分量は、体重から算出することができます。下の計算式は【4-2-1ルール】と呼ばれるもので、医師が点滴の投与量を計算するときに使っています。自分の最低限必要な水分量を計算してみましょう。
2280ml(2.28ℓ)が1日に最低限必要な水分量になります。その半分を食事から、残りの半分を水などの飲料で摂ると考えましょう。
お酒は水分補給にならない。
アルコール摂取は、身体の水分を奪うので
水分補給になりません。
アルコール飲料は、脱水を引き起こす唯一の飲料です。アルコールには強い利尿作用があり、これはカフェインと違って耐性はつきません。ビールは特に利尿作用が強く、1リットル飲むと、1.1リットルの水分が失われます。また、アルコールが肝臓でアセトアルデヒドに分解される際、水が必要になるため体内の水分が多く消費されることもわかっています。アルコール度数が高いほど体内の水分が失われます。お酒を飲むときは、脱水を防ぐため、酒の肴を併せて食べる、水などの飲料を多く飲むなどしてください。
果物を食べるのも水分補給になる。
なります。
野菜や果物の90%以上が水分です。
さまざまな食品の中で、特に多く水分を含んでいるのが、夏野菜や果物。90%以上が水分です。果物は、ビタミンやミネラルが豊富。特にキウイはナトリウム以外の重要なミネラル・栄養素を含んでいます。水分補給をしながら、不足しがちな栄養素を補えますから、食間のおやつなどにおすすめです。
お風呂上がりは、水分補給に牛乳を飲む。
熱中症・脱水症の予防に適しています。
湯冷めしにくいというメリットも。
牛乳には、たんぱく質を作る材料であるアルブミンが含まれています。血液中にアルブミンやたんぱく質が増えると血液量が増加。それが熱中症・脱水症の予防につながるのです。また、牛乳に含まれるたんぱく質やアミノ酸の働きで体温が上昇することもわかっています。冷たい牛乳でも体温は上昇します。ですからお風呂上がりの牛乳は、湯冷めしにくくなるメリットもあるのです。ただし、熱中症になってから牛乳を摂るのはNG。熱中症はまず体温を下げることが大事。体温を上昇させる牛乳は避けなければなりません。
コーヒーは水分補給にならない。
コーヒーなど、カフェインを含む飲料も
水分補給になります。
コーヒーをはじめ、紅茶や緑茶などカフェインを含む飲料には利尿作用があります。排尿によって身体の水分が失われるため、水分補給にはならないという考えがありますが、実はそうとも言えません。カフェインは耐性がつきやすいので、日常的に摂取している人は利尿作用の感受性が低下しています。つまり、尿意をもよおしにくいのです。最近の研究では、健常者はカフェインを含む飲料も1日に必要な水分量に含めてよいと結論づけられています。ただし、カフェインは摂り過ぎに注意が必要です。
暑いときは、冷たい水やお茶で身体を冷ます。
持続的に体温を下げる効果は
期待できません。
冷たいものを摂ると、そのときは体温が下がりますが、またすぐにもとの体温に戻ります。それは人間の身体には、環境が変化しても身体の状態を一定に保とうとする働きがあるからです。温かいものを摂ったときも同じで、すぐにもとの体温に戻ります。体温を下げるという意味では、冷たい飲料はあまり役に立ちません。ただ、冷たいものは胃腸を刺激し、食欲を増進させるというメリットもあります。一方で、摂り過ぎると胃腸の働きが悪くなり、食欲低下、消化不良、下痢、便秘などを引き起こすこともあります。食事と併せて摂るなら問題ありませんが、空腹時に冷たい飲料を摂るのは避けたほうがいいでしょう。
喉の渇きを感じたら、すぐに水分補給する。
喉の渇きは、水分不足のサイン。
すぐに水分補給を。
喉の渇きや、唾液が減少したことによる口の乾きは、身体の中の水分が不足しているサイン。体内の水分が体重の2%ほど減っている(※一般成人の場合)状態です。2%とは脱水症の手前の状態(以下の表を参照)。喉の渇き、口の乾きを感じたらすぐに水分の補給を。理想は、渇きを感じないように水分補給しておくことです。ただ、高齢者は喉の渇きを感じにくくなっています。お薬を摂るのと同じように、決まった時間に水分を摂るとよいでしょう。
起床したら、まず水分をごくごく飲む。
睡眠中に水分が失われています。
起床時にはコップ1杯をごくごくと。
朝、水分や食事を摂ると元気になる感じがありませんか? 私たちの身体は、朝起きたときはほぼ脱水状態になっています。水分を摂ることで身体が回復、元気になったと感じているのです。起床時の水分補給はとても大切。コップ1杯の水をごくごく飲みましょう。コーヒーやお茶でもかまいません。
運動をするときは、
水よりスポーツドリンクがよい。
1時間に1リットル以上の水を飲むのは危険。
激しい運動の場合は、飲んだほうがよいでしょう。
強度の高い運動や炎天下での運動など、大量に汗をかく場合は、スポーツドリンクがよいでしょう。汗をかくことで失われる塩分(ナトリウム)を補給できるからです。1時間に1リットル以上水を飲むと、体液の塩分が薄まり、危険な状態になる【水中毒】を起こす可能性もあります。スポーツドリンクが苦手な場合は、塩を入れた水でもよいです。ウォーキングなど、汗をさほどかかない軽度な運動であれば水やお茶で十分です。
スポーツドリンクは上手に活用を。
スポーツドリンクは、基本的にスポーツ選手のために開発されたもの。激しい運動で失われた水分、塩分、糖分を補うための飲料です。軽度の運動、日常の水分補給は水やお茶で十分。

尿意で睡眠を妨げるのはよくない。
就寝前は水分を控える。
水分補給は、
就寝中の脱水症を防ぐため必要。
睡眠は健康維持にとても大切なものですが、就寝前の水分を控えると、脱水症という別の大きな健康リスクを負うことになります。睡眠中は水分補給をできない上、汗などで身体の水分が失われ続けます。やはり水分補給は大切。特に食事と就寝の間が3時間空く場合や、アルコールを摂った場合は重要になります。150mlの水分をできるだけゆっくり、5分位かけて摂る。その際は常温か、やや温かめの飲料にすると、睡眠中の尿意を感じにくくなります。

熱中症予防のため、
塩分を多めに摂っている。
塩分は食事から十分摂れています。
予防のために摂る必要はありません。
夏になると、熱中症予防のために飴やタブレットなどで塩分を摂るようにと呼びかけられますが、食事から十分塩分は摂れていますから、わざわざ摂る必要はありません。むしろ摂り過ぎになり、健康に悪影響だと言えます。さらに、脱水症につながる可能性もあります。塩には水を引っ張る特性があるため、大量の水を摂らない限り、塩と一緒に身体の水分が体外に出ていってしまうのです。塩分は熱中症予防にはならないと言えます。
熱中症予防のために、
少量の水分をこまめに摂る。
身体の中に水を留めておく、
よい摂り方です。
一度に水分をたくさん摂ってしまうと、身体の状態を一定に保つ働きによって、入ってきた水分を尿として出そうとします。熱中症を予防するためには、身体に水分を留めておくことが大切。身体に水分が入ってきたことを察知され、尿として体外に排出されないよう、少しずつこまめに摂ることを心がけてください。
熱中症予防のために、
毎日経口補水液を飲む。
経口補水液は熱中症・脱水症になったときに
飲むもの。日常的に飲むのは危険。
経口補水液は塩分が高いため、通常の食事を摂っている人が毎日飲むと、心不全や高ナトリウム血症などを引き起こす可能性があります。経口補水液は熱中症と、発熱や下痢、嘔吐など脱水症の症状があるときに摂るもの。予防には適しません。熱中症予防は、食事をしっかり摂りつつ、水やお茶、果物などで水分補給することが大事です。