Vol.8
本質の美を求めて。
内面から輝く秘訣をうかがいます。
染の花作家・中村睦子さん
読了時間:5分
染の花作家・中村睦子さん
自信を持つことで女性はより美しく輝く。
さまざまな素材の布を裁ち、手で染めたものを、丁寧に重ねて作り上げる染の花。装いのアクセントやインテリアとしても活用できるアート作品です。そんな染の花を、独自の感性で作り続けてきた中村睦子さん。彼女の作品は独特の色彩を放ち、現実の花とは違った不思議な生命力を宿しています。
「10代の頃、叔母が布で作ったカトレアを見て衝撃を受けたのが、花作りの原点です。20代で創作を始めてからは、いつも作品のことを考えていましたね。咲いている花を見ても、行き交う人のファッションを見ても、『こういう花を作ったら楽しいんじゃないかな、あの服にはこんな花が似合うんじゃないかな』と想像していました。そうして、部屋の中にひとつずつ花が増えていくのが楽しかったんですよ」
夢中で作り続けた結果、家には数えきれないほどの花があふれました。周囲の人の勧めもあり、個展を開催すると、さらに多くの人が作品に魅了され、いつしか"花職人"と呼ばれるように。「女性をきれいに見せたい」という思いが強く、ブライダルデザイナーの桂由美さんなど、著名なデザイナーとのコラボレーションも実現。多くの花嫁たちを美しく彩ってきました。
「女性がより美しく輝くのは、自信に満ちているとき。オリジナルの装いはもちろん、好きなものを身に着けることが、自信につながるんです」
手間暇かけることで美と豊かさが育まれる。
今年の夏、68歳の誕生日を迎えたという中村さん。これまでの創作活動を振り返り、年を重ねたからこそわかることもたくさんあると話します。
「60歳を迎えるまでは、年齢とともに感性が鈍るんじゃないかとか、若い人たちの流行に疎くなるんじゃないかと悩んだこともありました。けれど私は、若い人たちの何倍も時間を生きてきて、いいものもたくさん見てきている。積み重ねた経験が、私自身の糧だと気づいたんです。感性は鈍るのではなく、年齢とともに豊かになっていく。そう感じてからは、流行は意識せず、自分自身のオリジナリティを追求するようになりました。そうすると、創作も人生もずいぶん楽しくなりましたよ」
"年を重ねる"ということを、とてもポジティブにとらえている中村さん。柔らかく微笑む姿は、その手で作り出す花と同様に、圧倒的な存在感を放っています。
「最近では、染の花に限らず、緻密な手作業は少なくなっていますね。けれど私の作品は、手間暇かけているからこそ長い時間が経っても色あせることなく、さらに色が深みを帯びて趣が増すんです。手間と時間を惜しまなければ、それだけ美しくて豊かなものができ上がる。実はとても簡単なことなんです」
人もまた、時間をかけてさまざまな経験を積むことで、自信と豊かな心を育んでいく……。だからこそ、時とともに趣を増す染の花と同じく、中村さん自身も、さらに魅力的に輝き続けるのでしょう。
私の輝きの源 ~パワーが得られる場所~
壮大な滝がしぶきを上げる「ジャングルゾーン」
中村さんの輝きの秘訣は、自然の中を歩くこと。道端の草花からもたくさんのアイデアが得られるそうです。そんな中村さんのお気に入りの散策スポットは、出身地・高知にある『高知県立牧野植物園』。「豊かな自然に囲まれて、心底ホッとできます。ゆったりとリラックスしながら、パワーが得られる場所なんですよ」。
『高知県立牧野植物園』
高知県高知市五台山4200‐6 ☎088-882-2601
http://www.makino.or.jp/
中村 睦子さん
なかむら むつこ
1945年・高知県生まれ。1970年に作家活動を開始し、1980年に全国で個展を開催。1990年代から名だたるデザイナーのコレクションに参加
(右)一枚ずつ手で染めた濃淡の違う花びらを重ねることで、
独特のニュアンスを表現
(左)40年以上にわたる創作活動を通じて、
多くの女性を美しく装ってきた中村さん