Vol.12
本質の美を求めて。
内面から輝く秘訣をうかがいます。
精進料理研究家 麻生 怜菜さん
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精進料理研究家 麻生 怜菜さん
慌ただしさの中で見失っていた食の大切さ。
肉や魚を使わず、野菜や果物、木の実など植物性の食材だけを使って作る精進料理。肉食を禁じられた仏教僧が、厳しい修行にも耐えられる身体を作るために工夫されたものです。麻生怜菜さんはその精進料理を、短時間で完成し、一般の家庭でもとり入れやすい形にアレンジした“ ゆる精進料理” の教室を開催しています。
「もともと洋食中心の食生活を送っていたのですが、夫の実家がお寺だったことで、精進料理を知りました。初めて食べたとき、だしの風味や野菜本来の甘味など、その味わい深さに感激。身体が喜んでいる気がしたんです」
全国各地の精進料理を食べ歩き、日本の伝統食材を使ったその奥深さに魅了された麻生さん。その魅力をより多くの人に伝えたいと、現在の活動を始めました。自宅で開催している料理教室は、幅広い年代の女性に人気です。
「私が提案している“ ゆる精進料理” は、野菜中心でヘルシーなのはもちろん、調理時間を短くして、手軽に毎日の食事にとり入れてもらえるように工夫しています。また、満足感を得られるよう、味付けを現代風にアレンジしています。教室に来てくれる方々は、『野菜不足の食生活を改善したい』という若い方や、『食事を見直したい』という年配の方など、思いはそれぞれ。そういった方々が、『おいしかった。家でも作ってみます』と言ってくれるのが嬉しいですね」
そんな麻生さん自身も、以前は営業職に就き、終電の時間まで仕事をこなす毎日を過ごしていたそう。その頃は食にも無頓着だったと話します。
「当時は、いつもお腹が張っていて、肌のトラブルも多かった。それが三食きちんと、野菜を中心に食べるようになると、身体の調子はよくなり、冷え性や低体温も改善されました。便秘や胃もたれなどの悩みもなくなり、心にもゆとりが出てきました。だから、忙しい女性たちにこそ、食の大切さを知ってほしいと思うんです」
素材を慈しみ、感謝して味わうことが心も変える。
慌ただしい毎日の中でこそ、食を楽しんでほしいと話す麻生さん。
「気持ちに余裕がないときは、手軽なものを食べて空腹をまぎらわせてしまいがち。けれど、身体が喜ぶものを味わうためのほんのひと手間が、身体も心も変えていくんです。例えば野菜の下ごしらえやだしにひと手間かけるようにすると、食べ物を粗末にしたり、暴飲暴食することも少なくなる。そうすると心が落ち着き、外見だけでなく、内面も輝き出すのだということを私自身の経験から実感しています」
精進料理に出合い、食生活を見直したことで毎日が輝き出したという麻生さん。その内側から満ちあふれる輝きの根底にあるのは、素材を慈しみながら調理し、ゆっくりと味わうことで生まれる、心のゆとりです。
「何かに行き詰まったときや、自分を変えたいと思ったとき、精進料理がひとつにきっかけになれば……」。麻生さんのレシピには、そんな思いが込められています。
私の輝きの源 ~仏壇に手を合わせるひととき~
結婚したときに家に仏壇が届きました。それからは、毎日線香をあげて、ご先祖様に感謝するのが日課になりました。そうして仏壇に手を合わせる時間は、心の安らぎを感じるひととき。仏壇にお供えする線香は、季節に合わせて選べるよう、いくつかの香りを常備しています。中でも、心が穏やかになる白檀の香りが私のお気に入り。教室の準備などでバタバタと忙しいときにも、この香りを炊くと、ひと呼吸おいてリラックスできるんです。
心を穏やかにしてくれる白檀の香り
麻生怜菜さん
あそう れいな●伝統的な精進料理を、一般の家庭でも取り入れやすい形にアレンジしたレシピを発信。主宰する料理教室は、キャンセル待ちが出るほどの人気
(左)いずれも短時間で完成する「蓮根のカレーマリネ」と「お豆カレー」
(右)和文化の魅力を伝えたいから、自宅で開催する料理教室はいつも着物姿で
近著は、精進料理の基本を守りながら、短時間で完成するヘルシーレシピ集『寺嫁ごはん〜心と体がホッとする"ゆる精進料理"〜』(幻冬舎)