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知っトク!?健康スキル

『弱いロボット』の開発者、岡田先生に聞く、“弱さ”が教えてくれること(3/3)

掲載号 vol.59

不完全な自分を受け入れよう。“弱さ” は、 生きやすさに!

人間は不完全なもの。そんな自分を受け入れる。

理想は、ゆるやかな依存関係。本当にそうだな、とは思いながらも、筆者は自分が誰かに手助けを求めるのはやはり苦手だ、と感じています。それをどう解消すべきか、先生にお聞きしました。

「あくまでも、僕の場合はという話ですが……。年齢を重ねて、いろいろと吹っ切れた感じがあったんです。東北出身の僕は、自分の言葉の訛りが気になっていて、人前で話すのが苦手でした。書籍を出版するときも、こんなことを書いたら誰かに怒られるかなとドキドキしたり。40代までは、それを乗り越えなくてはと考えていましたが、50歳を過ぎて、まぁいいか、自分はこんなもんだと思えるようになって。つまり、弱い部分を受け入れられるようになったのです。人間は不完全なもの。そう思えたときに、変われるのかもしれません」

それを聞いて、ハッとした筆者。先生と同じく50歳を超えて身体の変化を感じ、自分はこんなもんだと思うようになっていました。変化として特に大きいのが老眼! 手元が見えにくくなったことによる失敗は多々あります。それを友人や知人に打ち明けていたら、彼らが私の代わりに小さな文字を読むなど、手助けしてくれるようになったのです。そんなことを思い出し、ひとりで何でもできているつもりになっていたことを恥じ入るとともに、自分の弱さを周りに示すことは、悪いことではないんだなと思いました。

自分の弱さを受け入れると、他者の弱さにも寛容になれると思います。僕はそう感じています」

実はとても脆い!?ひとりで生きる“強さ”。

誰に頼らずともひとりでできる! そんな思いは“強さ”のようで、実は脆いものでもあると、先生は考えているのだそうです。

「ビジネスや教育、防災などの分野でよく使われる“レジリエンス”という言葉があります。これは、〈困難な状況から回復する力〉という意味があり、生きる上で必要なスキルだと言われています。個人が強い心を持つことだという文脈で語られることが多いのですが、私はそれに少し脆さを感じています。例えば、最近の住宅に多いオール電化。省エネで環境にやさしいというよさがありますが、停電すると照明もエアコンも使えませんし、調理もできません。ガスがあれば、照明やエアコンは使えなくてもお湯を沸かすことはできる。ひとつに依存すると、それを失ったときに何もできなくなってしまいます。人間も同じことが言えて、自分だけで完結させてしまうと困難な状況を乗り越えにくくなります。ひとりで何とかしようとするのではなく、支え合える関係を築いておくほうが、レジリエンスが高いと言えます」

レジリエンスは、周囲との豊かな関係性の中に宿るもの。そう聞いて、筆者は幸福度が高い国として知られるブータン王国の話を思い出しました。JICA(国際協力機構)の職員がブータンの男性に、病気や失業など本当に困ったことが起きたとき、助けてくれる人は何人いるかとたずねたら「50人」と答えたそうです。自分を助けてくれる人が50人もいれば、きっと安心して生きられる、豊かな人生になるだろうと思います。私たちはもう、自分のことは自分で責任を持つという呪縛から、解放されるべきなのかもしれません。

“自立する”とは
周りを味方につけること。
ひとりではくのはむづかしい

子どもにとって、靴下をはくのは難しいもの。周囲のものを味方につけることで、ひとりで上手にはけるようになっていきます

自立は、誰の力も借りずに物事を行うことだとされています。しかし、周囲を味方につけることも自立になると岡田先生は考えているそうです。例えば、子どもが靴下をはくとき、椅子の背もたれや部屋の壁、親の背中などにもたれかかることがあります。そうして身体を安定させ、靴下をはけるように工夫をしているわけです。椅子の背もたれ、部屋の壁、親の背中に依存をしているのですが、結果上手に靴下をはけるようになる。それも自立だと思いませんか? 自立とは、依存先を複数持つことだという考え方もできるのではないでしょうか。

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この先生に聞きました!

岡田 美智男 先生

岡田 美智男 先生

おかだ みちお

豊橋技術科学大学
情報・知能工学系教授

東北大学大学院 工学研究科博士 後期課程修了 NTT基礎研究所情報科学研究部、国際電気通信基礎技術研究所などを経て、2006年より現職。専門は、コミュニケーションの認知科学、社会的ロボティクス、ヒューマン・ロボットインタラクションなど。著書に『〈弱いロボット〉の思考 わたし・身体・コミュニケーション』(講談社現代新書)などがある

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