気づかないにおいが人と人とをつないでいる!?
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気づかないにおいが人と人とをつないでいる!?
においは周囲にあふれている!
今、あなたは本誌をどこで読んでいますか?ご自宅でくつろぎながら?あるいは、どこかへ向かう電車やバスの中で読んでいるのかもしれませんね。では、今、においを感じていますか?何のにおいもない、と思っているかもしれませんが、何もない、ということはないのだそうです。
「空気中にはさまざまなにおい物質が漂っていますが、私たちはそれをにおいとして認識しにくくなっています。鼻が慣れてしまっているからです。カレーや香水のように強いにおいははっきりわかりますが、実はそれ以外に普段から周りにあるにおいはわかりにくいのです」
意外にも自分自身の身体のにおいも、あまり感じていません。
「感じていなくても、人の身体からはやはりいろんなにおいが出ています。私たちは何気なく鼻をこすることがありますね。あれは指に自分のにおいを感じて、安心しているのです」
自分では気づきにくい身体のにおいでも、その人の感情が別の人に伝染することもあるのだそうです。
「極度の緊張状態にある人は、体臭が変化するという研究結果があります。例えば、スカイダイビングをする人のワキに挟んでおいたパッドを、別の人に嗅がせると、実験の経緯を知らないにもかかわらず、その人まで不安になるという結果が出ています。認識できるものでなくても、においによって無意識のうちに感情が変化することを示しています」
赤ちゃんは生まれる前から
においに触れている!
フランスで行われた実験で、妊娠中にアニス(フランスでよく使われるスパイス)をふんだんに使った料理を食べ続けた母親と、まったく食べなかった母親とを比べると、アニスを食べた母親から生まれた子どもはアニスを嫌がらず、アニスを食べなかった母親から生まれた子どもはアニスを嫌がるという結果に。においは生まれる前から認識、記憶して生後の食の好みにも影響することがわかっています。
においは、安心して暮らすためにある!?
同じ釜の飯を食う、という言葉があります。これは長い期間共同生活をし、苦楽をともにした親しい間柄であると表現するときに使うもの。長く生活をすると仲が深まるのにも、体臭が関係しているかもしれません。
「体臭は食べるものによって変わります。肉を多く食べる人と、野菜を多く食べる人では違うにおいがするわけですが、例えば、夫婦で同じ食事を摂る生活が長く続くと同じ体臭になります。それによって安心感が生まれます。自分と違う体臭の場合、無意識のうちに違う社会で暮らす人だと感じ、違和感を持ってしまいます。同じ体臭になるということは、その違和感、障壁のようなものがなくなるということです」
ある研究で排卵期にある女性のにおいによって、男性のテストステロン(生殖機能の向上などに関係するホルモン)が上昇するという報告もあるそうです。
「その報告についてはまだはっきりしない部分がありますが、私たちの研究でも、排卵期の女性のにおいは、ほかの期間と比べて男性が“心地よく感じる”とわかっています」
嗅覚の機能は退化しているものの、ヒトにはまだ、コミュニケーションとして使っている可能性があると先生は話します。
「赤ちゃんの頭のにおいを嗅いだお母さんの、オキシトシンという絆を深めるホルモンのレベルが上がることも、私たちの研究でわかっています。人と人との結びつきにはにおいがかかわっています。心地よさや愛着などを感じられるように体臭が気持ちを変化させ、結びつきを生むのではないかと私は考えています。動物が群れをなして生きていくように、私たちもヒトという生物として安心して生きていけるよう、体臭がコミュニケーションに役立っているのかもしれません」
人と人とを
結びつけるにおい
同じ体臭が、安心感を生む
同じ食事を摂り続けると、体臭が同じに。違和感や障壁がなくなり、安心感が生まれます。
異性間の関係に変化をもたらす?
排卵期の女性のにおいは、男性に心地よさをもたらします。種を繁栄させるためのコミュニケーションの可能性も。
子どもへの愛情が深まる
赤ちゃんのにおいを嗅ぐと、母親のオキシトシンレベルが上がります。においが養育行動に関係していると言えます。