飲み込みの時間はたった0.8秒!舌は、タイミングの合わせ役
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飲み込みの時間はたった0.8秒!舌は、タイミングの合わせ役
舌の力が弱まると、誤嚥や窒息のリスクが
きちんと咀嚼ができないと窒息のリスクが高くなることを「咀嚼編」でお伝えしました。しかし、適切に咀嚼ができても、舌の力が弱ければ、安全とは言えません。
「喉には、空気を送る気管と、食べものや飲みものを送る食道が平面交差をしています。これはなかなか危険な構造。安全な呼吸と嚥下のために、実に器用に開閉を切り替えています。呼吸をするときは、食道が閉じ、空気を気管へ送ります。そして嚥下のときは、食べものが入らないよう気管が閉じ、食道が開きます。実はこの食道が開いている時間はたった0.8秒。このわずかな時間で安全に飲み込まなくてはなりません」
だからこそ飲食物を喉へ送り込むタイミングが重要です。
「食道が開いている0.8秒に間に合わなければ、呼吸のために気管が開き、そこへ飲食物が入ってしまいます。これが誤嚥です。舌は食道が開く短い時間にタイミングを合わせるという、とても重要な役割を担っています。舌の力が弱まればそのタイミングにズレが出て、誤嚥や窒息が起こってしまうわけです」
飲み込みが間に合わないと
誤嚥の危険が!
食べものの通り道である食道と、空気の通り道である気管は、2本のホースが隣り合うように並んでいます。食べものと空気が正しい通り道へ送られるように、それぞれの入り口が開いたり、閉じたりしています。食べものを食道に送り込むときは、食道の入り口が開き、気管は閉じています。ごっくんと食べものを飲み込む瞬間、呼吸は止まっていますが、約0.8秒で呼吸が再開するため、気管が開いてしまいます。飲み込みのタイミングが合わないと、食べものが気管に入る危険があるのです。
50歳を過ぎたら、食べ方にも工夫を
食事中、ちょっとむせるようになった、と感じていませんか?それは、舌の力が衰えているサインだと考えられます。タイミングが合わなくなって、飲食物が気管に入りかけているのかもしれません。気管は飲食物が入ってはいけない場所。異物を押し出そうとしてむせているのです。
「水をごくごく飲む、お酒を飲まれる方ならビールをごくごく飲んで、プハーー、旨い! なんてやったことがあるでしょう。あれは、実はとても難しいこと。飲みものを大量に注ぎ込みながら、喉を開閉し次々に食道へ送るのは、タイミングの合わせ役である舌がきちんと動くからできること。舌の衰えをそのままにしていると、豪快に飲むという楽しみもあきらめないといけなくなります」
舌が衰えはじめるのは50歳くらいからだそうです。
「そんなことを一般の方に向けた講座でお話しすると、多くの方が『確かに、その頃からむせるようになった』とうなずきます。今は人生100年と言われますが、そもそも人間の身体は50年ほどしかもたないようにできています。人間の身体が進化したのではなく、医療や食の変化によって寿命が延びているのです。だからこそ、50歳を過ぎたら身体をどう大切にするか工夫が大切。舌ももちろんそうです。どう工夫するかによって好きなものを食べられる期間をどれくらい延ばせるかが決まってくると言えます」