食べるために必要な、噛むことの「咀嚼編」に続く特集、飲み込むことの「嚥下編」。嚥下の仕組みやその機能を維持するためにできることとは?これからもずっと、食事を楽しむために先生にお話をお聞きしました。
嚥下に不可欠。食事は舌がなければ楽しめない
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嚥下に不可欠。食事は舌がなければ楽しめない
“歯を失う=死”は、変化したものの……
食べたいものを、あきらめることなくずっと食べられるように。そのために咀嚼の質が大切であることを、ここまでお伝えしてきました。ただ、噛めるだけでは不十分。実は舌を衰えさせない、ということも重要なのです。
ここからのお話は、日本歯科大学 口腔リハビリテーション多摩クリニック院長の菊谷 武先生にうかがいます。クリニックでの治療に当たりながら、老年歯科学の研究を続けている先生です。
「かつて人間が、動物や植物をそのまま食べていた時代は、歯を失うことは死を意味していました。生の肉や木の実は、嚙み砕かないことには食べられません。歯を失うことで食べられずに命を落としていたのです。人間が歯を失っても生きられるようになったのは、ひとつには調理があります。人類が火を使えるようになったのが大きな変化のきっかけ。煮炊きで柔らかく調理できるようになり、現代ではさらにそれが多様化。歯に問題があっても食べられるようになりました。ただ、それでも、問題なく食べられるか?というとそうではありません。実は、舌がとても重要。舌がなければ“食事を楽しむ”ことができないのです」
舌にはさまざまな
役割が!
食べものの中に砂粒や髪が混ざっているととても不快なものですが、それを発見し口から出すために選りわけているのが舌。噛むことのサポートや飲み込むことのほかに、身体の中に異物を入れないように、どんな小さなものでも感知するセンサーの役割を果たしているのです。また、言葉を話すためにも舌は欠かせません。肺から喉、声帯へと呼気を送り出して作られた音を、唇と舌で、言葉に加工しているのです。安全に食べるためにも、コミュニケーションのためにも、さまざまな働きをする舌。閻魔大王が、嘘をついた罰として舌を抜くというのは、人間にとってそれほど大切なものだからかもしれません。
舌がなければ飲み込めない!
食べるとき、実は舌はさまざまに動き回っています。
「まずは舌が食べものを口の中へとり込み、次に味や温度、しっとりしているのかパサパサしているのかなど、その食べものの状態を感知。さらに左右の奥歯へ食べものを行き来させるなど咀嚼のサポートをします。加えて、柔らかい食べものであれば、上あごに押しあててすりつぶすということもしています。細かくなったら、飲み込むための準備として食べものをまとめ、そして喉へ送り込んでいます」。
食べるための、舌の働き
噛み砕くためにまず食べものを奥歯へ運び、左右に移動させる。さらに、ばらばらになった食べものを唾液と合わせてまとめていく。
まとめられた食べものは舌の中央に置かれる。舌の先を上あごに押しあてながら勢いよく喉の奥に送り込む。
舌の根元を、喉の後ろの壁に押しつけることでねじ込む力が生まれ、食べものを喉から食道へ押し込む。