太りやすい、だけではない!咀嚼の質低下で起こるリスクとは?
読了時間:15分
太りやすい、だけではない!咀嚼の質低下で起こるリスクとは?
“噛めていない”とメタボになりやすい!
前から、ダイエット方法のひとつとして、数多く噛むことが挙げられています。噛む回数を増やし、時間をかけて食事をすれば、脳の満腹中枢が刺激され、食べ過ぎを防げるという考え方です。
「噛む回数が少ない人は、肥満の傾向にあることが私たちの調査でもわかっています。民間企業と共同開発した咀嚼回数計を使い、おにぎり1個(100g)の咀嚼回数を計測。咀嚼回数とBMIの関係を見ていくと、噛む回数が少ない人はBMIが高い、つまり肥満傾向にあるのです。脳の満腹中枢が関係しているかまではわかりませんが、早食いの人は大食いになるということは、別で行われたさまざまな研究によって、明らかになりつつあります」
噛まない人
(噛む回数が少ない人)は
肥満の傾向
さらに、噛み砕く力(噛む力)が低い人は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪の蓄積に、高血圧・脂質異常・高血糖が組み合わさった状態)になる確率が高いこともわかっています。これは先生が所属する新潟大学と、大阪大学、国立循環器病研究センターによる共同研究によるもの。噛む力の“ものさし”となる検査用のグミゼリーを、1780人の被験者に30回噛んでもらい、“噛めていない”から“よく噛めている”まで4つのグループにわけて評価。噛む能力とメタボの関係を見ていくと、噛む力の弱い人がメタボになりやすい傾向にあることがわかりました。
『噛む力と
メタボとの関連』
「興味深かったのは、“噛めていない”グループよりも、その一歩手前にある“やや噛めていない”グループのほうがメタボになっている割合が明らかに高い点です。これは、“噛めていない”グループの人は、それを自覚して、調理法の工夫などで噛めるようにし、バランスよく食べるよう心がけているのに対し、“やや噛めていない”グループの人は、噛めていないことを自覚していないことが多いため、あまり噛まなくてもよい食事に偏ってしまうことが理由だと考えられます」
噛みごたえのある野菜を避けるようになる!?
先生たちの研究グループは、さらに追跡調査を実施。
「噛む力が弱いことが、本当にメタボのリスクを高めるのか。それを調べるために、メタボになっていない50~70代の男女599人を約4.4年にわたって追跡調査をしました。調査期間中に88人がメタボと診断され、男性は“よく噛めている”グループよりも“噛めていない”グループのほうが、2.2倍もメタボになりやすいという結果になりました。また、高血圧では3.1倍、脂質異常で2.8倍、高血糖は2.7倍リスクが高いこともわかりました。やはり、噛みごたえのある野菜が食べにくくなり、米や菓子などあまり噛まなくてもよいものが多くなってしまうことが原因だと言えます」
女性については、この傾向は見られなかったということです。50代以降の女性のメタボはエストロゲンをはじめとするホルモンの変化による影響のほうが大きい可能性があるそうです。
さらに、噛めないことは窒息のリスクも高めます。
「食べものの誤嚥による窒息死数は、年間4000人台で推移しています。食べものを噛み砕けず喉に詰まってしまうこの事故は、ほぼ減っていないのです」
さまざまな健康リスクにつながっていく咀嚼の質の低下。それに気づかないこともまた、危険なのです。