食べることは、身体のためにも、心のためにも、欠かせないもの。何を、どう食べるか。栄養や楽しみ方を日々考えていることでしょう。では、食べるために必要な、“口の健康”について考えていますか?毎日繰り返している咀嚼(噛むこと)と嚥下(飲み込むこと)ですが、将来、それらを当たり前にできなくなってしまう可能性もあります。食事はこれからも毎日、一生続けていくこと。これからもずっと、楽しんで食べるために、どのように咀嚼と嚥下の力を維持していけばいいのか。今回は、咀嚼と嚥下の2編の大特集でお伝えしていきます。
健康にとって咀嚼の重要さは、睡眠と同じ!?
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健康にとって咀嚼の重要さは、睡眠と同じ!?
なぜ大切なのか?科学的な証明が可能に
早いもので、2022年もあと1か月で終わり。もうすぐ新しい年がやってきます。この時期は、家族や友人、職場の仲間など、人と食事をする機会が多くなりますね。好きなものを食べられる喜びを、改めて感じることも多いのではないでしょうか。本誌編集部は以前から、今号で“噛むこと(咀嚼)”の大切さをお伝えする特集を検討していました。ただ、咀嚼については37号でも特集を実施。それ以上の情報をお伝えすべくリサーチを続けていくと、その後もさまざまな研究が進んでいることがわかったのです。
「咀嚼が健康にとって重要であるということは、今、少しずつわかり始めたところ。『健康のために咀嚼が大事だなんて、大学の先生に言われなくても知っている』と思う人もいるでしょう。確かに昔からよく噛んで食べようと言われてきましたが、なぜそれがよいのかを科学的に証明することが難しかったのです。今はその状況が変わり、次第に咀嚼と健康の関係がわかってきました」
お話をうかがったのは、新潟大学の小野高裕先生。先生は、民間企業と共同で、咀嚼能力を計るアイテムを開発。これによって咀嚼の研究が大きく進みました。
睡眠と同じく咀嚼にも“質”がある!
咀嚼と健康の関係が注目されるようになったのには、生活習慣病の増加があります。健康意識は高まる一方なのに、なぜ生活習慣病が増加するのか?その原因のひとつとして、咀嚼が考えられるようになりました。
「咀嚼は、睡眠と似ていると私は考えます。それは“質”が重要という点です。睡眠はただ長く眠ればいいわけではない、ということは皆さんご存知だと思います。例えば、【睡眠時無呼吸症候群】。眠っている間に何度も呼吸が止まるもので、熟睡することができません。つまり睡眠の質が悪化しているわけです。日中眠気に襲われるほか、高血圧などの生活習慣病につながっていきます。咀嚼にもまた、質があります。咀嚼は無意識にやっているものですから、意外に自分の咀嚼の質をわかっていない人が多くいます。咀嚼も、睡眠も一生続けていくもの。やはり良質なものであるほうがいい。自分の咀嚼能力を知り、質を向上させること。それが、医者に頼り過ぎない未来へつながっていくかもしれません」