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知っトク!?健康スキル

この力が健康につながる!女性は、鼻が利くんです。

掲載号 vol.41

鼻が利くとは、「わずかな兆候から、役に立つ事がらを見つけ出す能力があること」(広辞苑より)。昔から、嘘や変化を見抜く力が鋭い、というような意味で「女性は鼻が利く」と言われています。実は、これ、本当の話。女性は、男性よりもにおいを嗅ぎわける力が高いのです。しかも、この力は、ココロと身体の健康にもつながるのだとか。健康作りの味方になる、嗅覚。その力を保つ方法とは?

記事内容

読了時間:5分

目次

この力が健康につながる!女性は、鼻が利くんです。

におわなくなった!?女性はその変化に敏感。

身体のさまざまな機能は加齢とともに、衰える。悲しい気持ちになりますが、残念ながらこれは事実。特集1でお伝えした聴覚もそう。同様に、嗅覚も衰えやすくなるのですが……。もう聞きたくない! と、思わないで! 実は女性は、男性に比べて、嗅覚を保つ力が高いことがわかっているのです。

嗅覚障害のスペシャリストである、東京大学の近藤健二先生にお話をお聞きしました。

「これは何のにおいか? を嗅ぎわけるテストを行ったところ、男性に比べて、女性のほうがよかったというデータがあります(下のグラフを参照)。男女ともに年齢による変化はありますが、若い人も年配の人も、どの年代でも女性のほうがにおいを嗅ぎわける力が高いのです。私が患者さんを診ていても、そう実感します。『においがわからなくなった』と受診される方はほとんどが女性。ただ、検査をしても、多くの方はそれほど嗅覚の力が悪くなっていません。きっと、ごくわずかな変化に気づいて心配で病院に来られるのでしょう。一方、男性は「何の異常もない。においを嗅ぎわけられる」とおっしゃる方でも、検査をすると悪くなっていることが少なくありません。やはり嗅覚の力には、男女の差はあると感じています」

女性は、男性より嗅ぎわける力が高い!

男女別・年代別に見たにおいの同定率。すべての年代で女性のほうが男性より嗅ぎ分ける力が高い

20~80代の男女を対象に、何のにおいかを嗅ぎわける力(同定力)をテストした結果。同定力は、年齢を重ねるごとに下がっていきますが、どの年代でも、女性は男性に比べてその力が高いことがわかります。

参考文献:綾部ら,Aroma research 6(4), 368-371, 2005

“女性は鼻が利く”という言葉が使われるようになったのは、もしかしたら、昔から女性のほうがにおいを嗅ぎわける力が高いことを感覚的にわかっていたからなのかもしれません。

なぜ、女性のほうが嗅ぎわける力が高いのでしょうか? はっきり理由はわからないそうですが、女性のほうが、香りに接する機会が多いからではないかと考えられているそうです。

「香水やスキンケアアイテムなどの化粧品を使ったり、料理をしたり、香りに触れる機会が女性のほうが多いですよね。それによって嗅覚が鍛えられているように思います」

確かに、入浴時だけでも、シャンプーやボディソープ、入浴剤など、好みの香りのものを使う女性は多いはず。また、掃除や洗濯の洗剤にも、よい香りのものが多くあります。

においがわからないとどんなことが起きる?

「視力や聴力を失うと、生活にどんな変化が起こるかは想像しやすいと思います。でも、においを感じられなくなるとどうなるか? 嗅覚に問題がない人には想像しづらいものです。私が診ている患者さんの中には、『家族に相談しても理解してもらえないのが一番困る』と話す人もいます」 

においがわからなくなることで何が困るのか、想像しやすくするために、簡単な実験をしてみましょう。

「コーヒーと紅茶、アップルジュースとグレープフルーツジュースなど、違う飲み物を用意してください。目隠しをして、鼻をぎゅっとつまみながら、それぞれを飲み比べてみてください。きっと、どちらを飲んでいるのかわからないと思います。この実験でわかるのは、嗅覚が衰えると味がわからなくなる、ということ。食事が楽しくなくなる、というのが、まず、においを感じられなくなって困ることのひとつなのです」

“鼻が利かなくなる”と、健康の源である、食に悪影響。そのほかにも、ココロと身体への影響は、まだあるそうです。

おいしさや風味は、実は嗅覚で感じている!

味覚センサーだけではおいしさはわからない!

風邪をひいたり、花粉症の症状として鼻づまりが現れたとき「食べものの味がしない」と感じたことはあるはず。それは、先ほどの鼻をつまんで飲みものの味を比較する実験と同じことが起きています。

「食べものや飲みもののおいしさや風味を感じているのは、味覚ではなく、実は嗅覚が大きく関係しています。口の中に広がった食べものや飲みものの香り成分は、いったん喉の入り口に溜まりますが、鼻から息を出した瞬間に、一気に喉から鼻の内部に流れ込みます。ヒトは鼻から吸い込んだにおいだけでなく、口の中にある食べものや飲みものの香り成分も感じています。私たちは、それをおいしさだと感じているのです。もちろん、舌の上にある味覚のセンサー(味蕾)の働きも重要ですが、においがわからない状態で味がわかる食品は、砂糖や塩など種類はわずか。嗅覚が失われて味覚だけになると、甘い・塩辛いはわかっても、おいしさや風味はわからなくなってしまうのです」

嗅覚障害のある女性は、サルコペニア(筋肉量が減少し、筋力・身体機能が低下した状態)になりやすいというデータもあります。

「食事を楽しめないことをきっかけに低栄養になり、筋肉量も減って、運動をしたり外出したりという機会も減っていきます」

嗅覚に変化が現れた人の、最も多い悩みは食事に関係すること。食べることだけでなく、作ることにも不安を感じ、ストレスが蓄積していくそうです。

「自分が食を楽しめなくなることに加え、家族の料理を作るとき、味つけに自信が持てなくなったという声もよく聞きます。料理に使う食材が傷んでいるかどうか、においがわからないために、確認しづらくなります。また、煙やガスのにおいにも気づかなくなるため、危険にさらされるリスクがストレスになるのです」

調理や香料関係の仕事に就いている場合は、続けられるかどうかの深刻な問題にもつながります。

においの刺激は感情や記憶との関係が。

いい香りを嗅いだとき、心が晴れやかになったり、落ち着いたりという経験はありませんか? それは香りの情報が、直接感情と結びついているからです。

「においの情報は、脳の大脳辺縁系(古い脳)へ直接流れます。ここは感情を司る扁桃体がある場所(下の図を参照)。アロマテラピーで、リラックスなどの効果が得られるのは、香りの情報が感情に結びつくからだと考えられています。においの刺激はココロの健康にとても重要。それがなくなると、感情のコントロールが障害される可能性があります。うつの傾向にある、嗅覚障害の患者さんは少なくありません」

においは、感情や記憶を刺激する。

においの情報が扁桃体(感情)や海馬(記憶)などの古い脳に直接伝わる仕組みを示した図

においは、感情を司る扁桃体や、記憶を司る海馬がある大脳辺縁系(古い脳)に、直接伝わります

においは記憶とも密接な関係があります。古い脳には記憶を司る海馬もあり、そこに届いた嗅覚情報と過去の記憶をつき合わせて、脳に格納された記憶が引き出されると言われています。

「マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸して食べると、幼少の頃の記憶が蘇る、というシーンがあります。においによって過去の記憶が呼び覚まされる現象は、この小説から【プルースト現象】と呼ばれているのですよ」

嗅覚に障害があると、宝物のような記憶を呼び起こす働きも低下するということ。嗅覚の低下は、楽しさや喜びが失われるということなのかもしれません。

ココロと身体の健康、そして豊かな生活のために。

日々使うことが嗅覚障害の予防に!

ココロと身体の健康のために、嗅覚は、心強い味方になってくれると言えそうです。

「嗅覚をすこやかに保つということは、今と将来の生活を楽しくするために、とても重要なことだと思います。嗅覚が悪くなっても、特効薬はありません。ただ、においを脳に伝える嗅神経は増やすことができます」

マウスを使った実験で、においの刺激によって嗅神経が増えることがわかったそうです。

「マウスの鼻を片方だけ開き、もう片方をふさぐと、ふさいだほうの鼻は、におい刺激が入らないため嗅神経の数が減ります。しかし、そこからふさいでいた鼻を開くと、嗅神経は増えることがわかりました。目や耳の神経の数は、生まれたときから減っていくだけなので大切に使わなければなりませんが、嗅神経は、においを嗅ぐ、つまり、使うことで増やすことができるのです」

料理をはじめとする家事、メイク、肌や髪のケア……。女性には多くある香りに触れる機会。これまで当たり前にやっていたことに加えて、においを意識する習慣をプラスすれば、より嗅覚をすこやかに保てると言えます。

「嗅覚障害の患者さんは、治療として、においを嗅ぎわけるトレーニングをしています。同じように、優れた嗅覚と感覚を持つ調香師(香水などの香りを作り出す職業)もトレーニングをしています。つまり、治療だけでなく鋭敏にすることにも役立っているのです」

先生が治療のために指導しているトレーニングの方法をお聞きしました。

「例えば、りんごのにおいを嗅ぐ前に、りんごがどんなにおいだったかを思い出してもらいます。次にりんごのにおいを嗅いで、記憶の中の香りと同じかどうかの確認をしてもらいます。先ほどご説明したように、においの刺激は、記憶や感情と関係する古い脳へ届きますから、鼻から嗅ぐにおいと、記憶の中にあるにおいとを統合させることが重要。同じかどうかの確認が、“においを意識して嗅ぐ”ということになります」

禁煙、運動。健康につながる習慣を。

嗅覚を衰えさせないためにできることはほかにもあります。

「ひとつは、慢性副鼻腔炎(鼻づまりや膿のような鼻水が出るなどの症状が現れる病気)を予防すること、きちんと治療することです。嗅覚障害の患者の約4割は、慢性副鼻腔炎が原因。風邪が流行する時期、花粉が飛散する時期はマスクをつけ、鼻への異物の侵入を防ぐことも予防になります」

喫煙の習慣がある人は禁煙を。

「嗅神経は、唯一身体の表面に出ている神経。鼻の中とはいえ、外界と接している“身体の外側”。嗅神経はむき出しの状態です。喫煙によってタバコの煙が直接当たると、嗅神経がダメージを受け傷んでしまいます。タバコは人間が身体に入れる最も強い酸化ストレス物質。慢性副鼻腔炎のリスクにもなります。嗅神経は再生しますが、限りはあります。喫煙で数を減らすことは避けるべきです」

適度な運動も、やはり効果的。

「動脈硬化も嗅覚障害のリスクとされていますから、血流をよくするための運動は、効果があると言えます」

いつも通り、香りを楽しみ、時にはそれを意識すること。そして、健康のためのいい習慣を持つこと。女性だけでなく、男性にも効果が期待できる予防法です。豊かな生活のためにできることをプラスしてみませんか?

嗅覚をすこやかに保つ!

香りを楽しむことで嗅覚は鍛えられる。
料理やメイク、入浴時など、香りを楽しむことを続けましょう。
嗅覚を衰えさせるリスクを放置しない!
慢性副鼻腔炎は嗅覚低下のリスク。きちんと治療&予防を!
身体にいいことは嗅覚にもいい。
動脈硬化予防が、嗅覚障害予防に!適度な運動が効果的。
嗅神経は再生する。ただ、やはり大切に。
タバコの煙は、嗅神経に大きなダメージが。禁煙しましょう!
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この先生に聞きました!

近藤健二 先生

近藤健二 先生

こんどう けんじ

東京大学 
大学院医学系研究科
耳鼻咽喉科学 准教授

京大学医学部医学科卒業、亀田総合病院などでの研修後、2001年より東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手。 04~05年、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校耳鼻咽喉科博士研究員。東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科医局長・講師を経て16年より現職。鼻科学、嗅覚医学、顔面神経疾患が専門

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