生きている間、休むことなく続けている呼吸。あまり知られていないようですが、実は健康に大きく関係しています。今不調を感じているなら、呼吸の力を高めることで改善できるかもしれません。 当たり前にくり返される呼吸のこと、ちょっと見直してみませんか?
呼吸を浅くするのは、肺に残った余分な空気
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呼吸を浅くするのは、肺に残った余分な空気
生命維持だけでなく健康作りに不可欠。
生まれてから今まで、休むことなくずっとくり返している呼吸。一日だけで約2万回にもなるそうです。その数字の大きさに驚きませんか? それだけ私たちは、“呼吸に気づかない”ほど、ごく当たり前にくり返しているようです。
「呼吸と食べること。生命維持にはどちらも必要です。ただ、食事は数日摂れなくても命をつなげますが、呼吸はそうはいきません。数分止めただけで、命に危険が及びます。それほど大事な呼吸はまた、健康作りにも欠かせないものなのです」
と、東京有明医療大学の本間生夫先生。なぜ健康と呼吸は関係があるのでしょうか。それを理解するために、まず、呼吸の役割についてお聞きしました。
「身体を動かす源であるエネルギーを作り出しています。食事から摂った栄養素を、呼吸でとり込んだ酸素で燃焼させて、エネルギーを作り出しているのです。だから、生きるために食べものと呼吸が必要。呼吸は栄養と違って溜めておくことができませんから、常に呼吸を続けて酸素をとり込まないといけないのです」
エネルギーが作り出された結果、できるのが二酸化炭素。呼吸で吐き出すものなので、不要なものだと思われていますが、こちらも重要な役割を果たしています。
「血液中のpH(ピーエイチ。ドイツ語読みでペーハーとも)を調節する役目があります。pHのバランスは健康状態を左右します」
pHとは酸性、アルカリ性の度合いを数値化したもの。pHバランスといえば肌を思い浮かべる人も多いでしょう。肌のベストバランスは弱酸性。ほかにも胃液や唾液、涙、汗など、それぞれよいとされるバランスがあります。
「血液は、pH7.4の弱アルカリ性がベストバランスで、通常7.35~7.45という非常に狭い間で保とうとしています。この微細なバランスをコントロールしているひとつが二酸化炭素。血液中の二酸化炭素が多くなれば酸性に、少なくなればアルカリ性に傾きます。呼吸が上手くいかないと、二酸化炭素の調節システムも上手く働かず、ベストバランスである弱アルカリ性を保てなくなるのです。それによって、疲労感や脱力感といった不調、さらには免疫力の低下によってさまざまな病気が引き起こされる可能性があります」
呼吸機能の衰えで、肺に残る空気が増える。
呼吸を上手くできなくなる原因のひとつは、加齢による呼吸機能の低下です。
「呼吸は、肺の周囲にある肋間筋をはじめとする呼吸筋の収縮・弛緩で行われます。この呼吸筋もやはり加齢で衰えます。それによって起こるのが機能的残気量の増加。つまり、肺の中に空気が多く残ってしまうのです。少量は肺をつぶさないために必要なのですが、必要以上に多くなると、新しい空気をとり込むスペースが狭くなってしまいます。いったん空気を吸ってみてください。その状態からさらに空気を吸い込むのは苦しいはずです。肺に空気が多く残ると、新しい空気を入れにくくなるのです」
肺の機能的残気量が増えると、空気の出し入れに余裕がなくなり、浅くて速い呼吸になってしまいます。その結果、血液中の二酸化炭素が増え、pHバランスがくずれるのです。
生きるための基本的なこととして、何も考えずにくり返している呼吸。これを見直すことが健康作りにつながります。