骨粗しょう症、顎関節症…女性が噛めなくなるリスク
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骨粗しょう症、顎関節症…女性が噛めなくなるリスク
今は噛むことに問題はなくても、年齢を重ねるごとに、噛めなくなるリスクが高くなります。それは、“骨の量”の変化に関係があります。
骨粗しょう症で、顎の骨も小さくなる!
中村先生が顎の狭小化が見られると実感しているのは、小学1年生から20代後半まで、とのことでした。では30代以降は安心かというと、そうではなさそうです。特に女性は、別の理由で噛めなくなるリスクが高くなるのだそうです。
「その年代になると、子どもの頃に食べ方をしつけられている人が多いと思います。ただ、30代以降の女性は骨の変化に注意をしなければなりません」
一般的に骨は子どもの頃から増加を続け、20歳頃にその量はピークに。以降、増えることはなく、ゆるやかに減少していきます。これは男性も女性も同じですが、女性はもともと男性に比べて骨量が少ない上、女性ホルモンが減少する閉経後は急激に減少します。
「骨粗しょう症が女性に多いのはそのためです。骨粗しょう症というと、背骨や足の骨を思い浮かべるかもしれませんが、顎の骨ももちろん減少します(下のグラフを参照)。それによって、顎の狭小化や顎関節症につながっていくのです」
骨密度の低下は顎の骨にも!
骨密度の低下は顎の骨にも!
参考文献:玉井学,石井保雄:Journal of the Japanese Stomatological Society 45 (2),97-104 (1996)
Guyton AC:Textbook of Medical Physiology 8, 899-914, (1991)
※エストロゲン量のグラフは概念図 *下顎骨皮質骨骨塩量
21~69歳で、骨に異常はなく、重要な歯が残っている女性50名の下顎の骨塩量(骨の中のミネラル量)を調査。骨塩量によってわかるのは骨密度。30代をピークに下顎の骨密度が低下していくことがわかった。また、閉経によって女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が減少すると、骨量はさらに低下することも、わかっている。骨の新陳代謝のバランスが崩れるためだと考えられる。足や腰などの骨だけでなく、顎の骨も痩せてもろくなる可能性が高まると言える。
口を大きく開けられない、口を開けたときに痛みがある、口の開け閉めで顎から音がする、などが顎関節症に見られる症状。それ自体は病気ではありませんが、噛みにくくなることによって、さまざまな病気につながっていくことが問題なのです。
更年期の女性は、歯周病にも要注意。
女性ホルモンは骨だけでなく、歯周病にも関係しています。歯周病は、歯垢に含まれる細菌の感染で起こる炎症性疾患。知らないうちに進行して、ひどくなると歯ぐきを支える土台の骨が溶け出して、歯が抜けることも。女性が歯周病になりやすい時期は人生で3回あると言われています。1回目は初潮を迎えたとき。エストロゲンとプロゲステロンが多量に分泌され、歯肉の血液循環が促されて刺激に敏感になり炎症が起きやすくなります。2回目は妊娠時。エストロゲンが増加して歯肉が敏感に。そして3回目が更年期です。エストロゲンが減少することで、唾液の分泌が減少し、細菌が繁殖しやすくなるのです。
「更年期は、骨量の減少に加えて、唾液の量が減少することも歯周病になりやすい一因です。閉経後は特に、女性は噛めなくなるリスクが高くなるのです」
年齢を重ねても、噛める人は若々しい。
これを読んでいる今、姿勢が悪くなっていませんか?前傾姿勢になると顎の関節や周辺の筋肉に負担がかかる上、唾液が分泌されにくくなります。
「舌の先が下の歯の裏にあるようなら前傾姿勢になっている可能性があります。舌の先は上の歯の裏にあるのが正常な状態です。本を読むとき、スマートフォンやパソコンを見るときなど、前傾姿勢になりやすいので気をつけましょう。舌の先が下の歯の裏にある状態が続くと、フェイスラインがたるんできますよ」
噛むことはさまざまな健康効果がある上、見た目の若さを保つこともできます。女性は、噛めなくなるリスクが高いということを知っておくだけで、美と健康を守るための備えができると言えます。
「高齢者でも、歯があって噛めている人はやはり若々しい。咀嚼筋を動かすことで老化のスピードを緩めることができるのです。女性は特に噛むことの大切さを、忘れてはいけません」