『発酵食品』のおいしさと、身体にいい理由
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『発酵食品』のおいしさと、身体にいい理由
食品を保存しようとしたことから、偶然に生まれた発酵食品。
遥か昔に誕生し現在も私たちの生活にあるのは、そのおいしさが一番の理由のようです。
微生物から見れば発酵も腐敗も同じ!
発酵食品の代表格・納豆。多くの家庭で常備されている、とても身近な食品です。その発祥は、平安時代後期の武将・源 義家が、不足した馬の飼料を農民に求めたことがきっかけだと言われています(諸説あります)。農民たちは飼料として煮た大豆を俵に詰めて差し出しましたが、よく冷まさないうちに詰めたため、数日後に煮豆が変化。独特のにおいを発し、糸を引く状態になったのです。
「それを最初に食べた人は、勇気があるなと思います。納豆は稲わらの中にいた納豆菌の働きによって大豆が変化してできるものですが、においがあって糸を引いた状態を、腐敗だと恐れず食べたことはすごいですよね。発酵と腐敗は、実は同じメカニズム。微生物から見れば、動植物のタンパク質や糖を分解・変化させるということには変わりがないのです。発酵と腐敗は何が違うのか? それは人間にとって有益かどうか、おいしいと感じるかどうかの違いなんです」
人に害があれば腐敗、人にとっていいものであれば発酵。源 義家に差し出された俵の中の煮豆は、おいしいと評判になり、農民にも広がったと言われています。
栄養・健康と同等に大切な、おいしさ。
「発酵食品の起源は、明確にわからないほど、古くからあるとされています。そもそもは、魚や肉、野菜などを保存する工夫から生まれたと考えられます。命をつなぐ大切な食糧を傷めないように、塩を加えるなどの保存法を編み出し、その過程で、偶然発酵が発見されたようです。例えば、塩分濃度が低い場合は細菌や酵母が働いて、野菜の漬物ができる。濃度が高い場合は細菌の育成が抑えられ、塩辛などのような、元の食材にはないうま味を持ったものができます。最初は腐敗との見分けができず、食べて腹痛を起こすこともあったでしょう。それが長い時間をかけ、失敗作は淘汰されながら、現在まで発展を続けてきたのだと言えます」
発酵食品は世界中でさまざまに発展。ヨーグルトの原型は、およそ6千年前に中央アジアの遊牧民が発見したとされています。搾っておいたヤギや羊の乳が、容器の中で変化しているのに気づいたのだそうです。ヤギや羊など偶蹄反芻動物の乳房や乳首には乳酸菌が多数生息。それが絞った乳の中に入り込み、発酵が起こったのです。
「発酵食品は世界中の食卓を豊かにしました。遥か昔から、今日まで食べ続けられてきた理由は、やはりそのおいしさにあると思います。ぶどうよりもワインのほうが、煮た大豆よりも納豆のほうがおいしい。そのように食べる喜びがあるからこそ、発酵食品は世界中で愛されているのだと思います」
発酵食品がいいと言われる理由は、食卓を豊かにする、そのおいしさだということなのです。
「食品が人にもたらす機能は、5つあると私は考えています。まずは生きるために空腹を満たすこと。その次は身体を作るための栄養を与えること。3つ目は、身体を整える生理活性物質を、4つ目はおいしさを与えること。最後が健康づくりに役立つこと、です。発酵食品が持つのは、4つ目の機能。栄養や健康と同等に、おいしさも、食品が持つ重要な役割なのです」
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- お腹を満たす
- 生命をつなぐために、空腹を満たすこと。栄養などはなくても、とにかくお腹を満たせること。
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- 栄養を摂れる
- 身体を作るための三大栄養素(糖質、脂質、タンパク質)を摂れること。
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- 生理活性物質を摂れる
- ビタミンやミネラル、酵素など、身体の調子を整えることができる成分を摂れること。
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- おいしさが感じられる
- 風味だけでなく、香りや見た目なども含めて、幸せな気持ちになれること。
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- 健康づくりに役立つ
- 免疫力を上げる働きがある、がんになりにくくなるなど、健康につながる機能が備わっていること。
おいしさも重要。確かに、納豆やヨーグルトなどは、健康づくりのためにとは思いながらも、やはりおいしさがあるから毎日のように食べているのだと私たち編集部メンバーは気づきました。
「おいしさに加え、いくつかの発酵食品には健康づくりに役立つという5つ目の機能があるとわかってきました。納豆やヨーグルト、ぬか漬け、味噌、甘酒などがそうです。ただ、“身体にいい”理由はそれぞれ違うのですよ」
ひと口に“発酵しているから身体にいい”のではないそうです。