柑橘の香りが届く!脳の衰えた部分を活性化。
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柑橘の香りが届く!脳の衰えた部分を活性化。
他人事ではない認知症。現在効果的な治療法がない中、柑橘の精油が予防や症状の改善につながると期待されています。
香りのチカラは記憶や感情に影響。
2025年には、65歳以上の5人にひとりが罹患すると言われている認知症。年齢を重ねれば誰にでも起こりうる、身近な病気だと言えます。
「認知症は何らかの原因で、記憶に関係する脳の神経細胞が死んだり、その働きが損なわれたりすることで、記憶力や注意力、知的能力が低下した状態を指します。日本人の認知症の60%を占めるアルツハイマー型は、短期記憶を蓄える海馬や、好き嫌いなど感情の処理に関係する扁桃体などを含む大脳辺縁系に変性が起こります」
大脳辺縁系とは、古い脳と言われ、記憶や感情を担当するところ(下図を参照)。五感のうち、嗅覚からの刺激だけが直接この古い脳へ伝わります。他の感覚である視覚・聴覚・触覚・味覚からの刺激が古い脳に届くのは、知性を担当する新しい脳(大脳新皮質)を経てから。つまり嗅覚からの情報だけは、直接記憶や感情を動かすのです。
「例えばある香水の香りを嗅いだときに、それをつけていた人のことや、その人と過ごした場所やシチュエーション、周りの情景を思い出したという経験はありませんか? それは記憶を司る海馬が、その香りと、過去の記憶とのつき合わせをして、脳に格納されている“香りと結びついた出来事”を即座に引き出すからだと考えられています。また、香りは記憶だけでなく感情も動かすようです。かつての恋人がつけていた香水の香りを嗅いで切なくなってしまうのは、情動にかかわる扁桃体が香りによって活性化するからだと言えます」
香りは脳に働き、記憶や、感情に影響を与えるチカラがあるということなのです。
「アルツハイマー型認知症の患者は、初期の段階で嗅覚障害が現れることがわかっています。これは、嗅覚ではなく、香りの信号を受け取る脳が衰えているサイン。香りの刺激は、変性が起こっている大脳辺縁系へ直接届けることができますから、アロマセラピーで機能が衰えてきた脳の部分を活性化させ、認知機能を向上することができると考えられるのです。脳の神経細胞のほとんどは再生しませんが、海馬の細胞は神経細胞でありながら再生します。外部からの刺激、つまり香りの刺激を与え続ければ、脳の衰えた部分を活性化させ、認知機能を向上させる可能性が高いのです」
レモングラスの香りで脳の血流量が増加。
さまざまにある精油の中で、認知症の予防・改善に効果が期待されているのは、レモンやグレープフルーツなどの柑橘だと先生。
「特にレモングラス。レモングラスには交感神経(身体を活発に活動させるときに働く神経)に働きかける作用があり、活性化させると心臓の働きがよくなり、血管が収縮して脳に血液が素早く送り込まれます。それによって脳に必要な栄養が届けられますから、脳の機能が改善すると言えます」
認知症に使われる薬はいくつかありますが、特効薬と言えるものはまだありません。
「薬で発症を遅くすることはできます。対してアロマセラピーは、高度のアルツハイマー型でも認知機能が改善するというデータがあります(下記参照)。今後、アロマセラピーは認知症改善の有望な選択肢になりうるでしょう」
毎日2時間の芳香浴で
認知機能が改善!
鳥取大学の神保太樹博士(現星薬科大学兼任講師)と、浦上克哉教授が、アルツハイマー型17人を含む、28人の認知症の高齢者を対象にアロマセラピーの効果を調査。朝にローズマリーカンファーとスイートオレンジ、夜に真性ラベンダーとスイートオレンジの精油で、芳香浴をそれぞれ2時間行ったところ、対象者の抽象的思考が改善。また、芳香浴の実施を中止したところ、徐々に元の状態に戻ることがわかりました。この調査から、アロマセラピーは認知症の症状悪化を予防するだけでなく、さらに認知機能を改善させることが認められました。
※縦軸のTDASスコアとは、タッチパネル式認知症評価の点数のこと※テスト①〜④は、1週間TDASスコアテストを実施