お部屋を香りで満たしたり、マッサージを楽しんだり。アロマセラピーは、リラクゼーション目的のものとして知られていますが、それだけにとどまらないチカラがあることがわかってきました。医療の世界で応用されている、香りのチカラをお伝えします。
身体に届く香りのチカラ。
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身体に届く香りのチカラ。
フランスでは精油は薬。医療として長い歴史が。
ラベンダーやイランイランなどのフローラル系、レモンやベルガモットなどの柑橘系、サンダルウッドやティートゥリーなどの樹木系……。植物の香り成分を抽出して作られる、さまざまな精油(エッセンシャルオイル)。お部屋に香りを満たしたり、リラクゼーションサロンなどでマッサージを受けたり、精油を使ったアロマセラピーを楽しむ女性は多いでしょう。アロマセラピーは、美容やリラクゼーションに効果があるとして人気ですが、ここ十数年で、それだけにとどまらないチカラがあることがわかってきました。星薬科大学 特任教授の塩田清二教授にうかがうと、
「2000年代に入って、精油を医療で応用し、治療に役立てる“メディカル・アロマセラピー”が本格的になってきました。精油の効果に関する研究が進み、アロマセラピーの科学的根拠を示す学術的に充実した内容の論文が次々に発表されたことが、その背景になっています」
日本では、治療に役立てられるというイメージがあまりありませんが、フランスでは精油を薬剤として使う医療として、長い歴史があります。
「アロマとは、ギリシャ語で香りを意味し、セラピーとは治療を意味します。フランスの科学者、ルネ・モーリス・ガットフォセが、このふたつを合わせてアロマセラピーという言葉を作り出しました。彼がアロマセラピーの研究に熱心になったのは、実験中の爆発事故でやけどを負ったことがきっかけ。やけど部分にラベンダーの精油を塗布すると治癒が早くなることがわかり、ラベンダーの精油に抗炎症作用や皮膚の再生作用があるのではないかと、研究をスタートしたのです。その後、1930年代にフランスでの医療への応用が始まりました」
日本にアロマセラピーが広まったのは、1980年代。医療としてではなく、フランスからイギリスに渡って変化した、エステティックとしてのアロマセラピーが伝わってきたのです。そんな理由から、日本では美容やリラクゼーション目的のものとして認知されるようになりました。
「メディカル・アロマセラピーは、西洋医学では治りにくい・予防しにくい疾患や症状に対しての代替補完医療として導入されています。例えば婦人科では、更年期障害や月経困難症の症状がある女性に、西洋医学での治療とクラリセージの精油を使った足浴などを組み合わせています。クラリセージに含まれる、スクラレオールという成分が、女性ホルモンのエストロゲンに似た構造を持ち、これがホルモンバランスを整えるのです。ほかにはがん患者の不安感やうつ症状、疼痛などの改善、高血圧、脂質異常症など動脈硬化に関連する疾患、アレルギー疾患などの改善にも役立てられています」
現在も研究は進み、さまざまな疾患や症状の改善にアロマセラピーが役立つことが判明していると先生。中でも最も期待が寄せられているのが認知症の予防・改善。次ページではそれについて先生に詳しくうかがいます。
- 心療内科・精神科…
- うつ症状や不安、悩みの緩和
- 産科・婦人科…
- 月経前症候群(PMS)や更年期障害、不妊症などの改善をはじめ、出産時の痛みの緩和
- 皮膚科…
- アトピー性皮膚炎の改善
- 耳鼻科…
- 鼻炎症状の緩和
- 整形外科…
- 血行障害や肩こりの緩和