〝善玉、悪玉〟よりもそれぞれの〝機能〟が重要。
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〝善玉、悪玉〟よりもそれぞれの〝機能〟が重要。
美と健康に影響する腸内フローラのバランス。これまでそれは善玉菌や日和見菌、悪玉菌の比率だと言われてきましたが、その考え方は見直されているようです。
ビフィズス菌にはなまけものもいる!
ビフィズス菌は、いい菌だと思われていますよね? 確かによい機能を持つ菌はいるのですが、同じビフィズス菌でも種類が違うと、あまり働かない、“なまけもの”もいることもわかってきました」
ビフィズス菌は、お腹の調子を整える、いい菌の代表格。ただ、すべてがいい機能を持っているということではないようなのです。
「一般的にビフィズス菌と言われるものの中にも複数の種類があり、それぞれ働きが違うことがわかってきたのです」
これまで腸内細菌は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌にわけられてきましたが、それぞれを善、悪だと簡単には言い切れないこともわかってきたのだそうです。
「善玉菌と言われるものに、なまけものがいるように、悪玉菌とされてきたものの中にも、いい働きを持つ菌がいることもわかってきました。例えばクロストリジウム菌。米国のベンチャー企業では、それを使った腸疾患の治療薬の開発も進められています」
腸内フローラを健康作りに活かすためには、これまでの常識に漠然ととらわれるのではなく、きちんとした科学的エビデンスに基づいて、腸内細菌の機能を理解することが重要だそう。
肥満は腸内フローラが原因のひとつだった!?
便通改善に働くことは広く知られている腸内フローラですが、それをはるかに超えるレベルで人の身体にかかわっているとわかるデータがあります。腸内フローラのバランスが太りやすさに関係していることがわかる実験結果です(下の図・グラフを参照)。無菌状態のマウスに、肥満体型の人が持つ腸内フローラ、痩せ体型の人が持つ腸内フローラをそれぞれ移植し、約1か月間同じ食事を与えたところ、肥満体型の人の腸内フローラを移植したマウスは、脂肪をどんどん増やし、肥満になってしまったのです。なぜそうなるのか、まだすべては明らかにはなっていませんが、それだけ深く腸内フローラと宿主とが関係していることがわかります。
さらに、腸内フローラを使った治療法にも驚かされます。それは、なんと便中の細菌叢を移植するという「便細菌叢移植(便移植)」という方法。アメリカだけで年間3~4万人もの死者が出ている偽膜性大腸炎という病気で、この便移植が高い効果を発揮しているのです。
偽膜性大腸炎とは、大腸でクロストリジウム・ディフィシルという病原菌が異常増殖し、その毒素によって大腸炎が起こる病気。繁殖したこの菌には抗生物質が効きにくく、効果的な治療方法が見つからない中、登場したのが便移植。健康な人の便の懸濁液を、内視鏡を使って患者の腸内に移植する治療方法です。オランダの研究グループの報告によると偽膜性大腸炎の患者の、実に90%以上に効果があったそうです。健康な人の腸内フローラが薬にもなるとは、やはりその重要性を感じずにはいられません。健康と腸内フローラとを切り離して考えることはできないようです。
「腸内フローラは、善玉菌や悪玉菌、日和見菌の比率ということではなく、その〝多様性〟が大切だと考えられています。つまり、腸内細菌の種類が多いほうがいいということ。偽膜性大腸炎は、抗生物質の使用などによる多様性の低下が、発症要因のひとつ。多様性が大切なのは人間社会でも同じですね。いろいろな人がいて社会が成り立っています。得意とすることも苦手とすることも、人それぞれ。だから、困ったときに助け合うことができる。腸内にもいろいろな菌がいることで、結果的に人の健康を守っているのかもしれません」