年齢を重ねるごとに、だんだん変化していく身体。筋肉を維持する、健康を維持するために、バランスのよい食事は、とても重要になってきます。あなたは、その“バランスのよい食事”とは、どんなものだと考えていますか?糖質や脂質をできるだけ摂らないようにする。そんな風に考えていませんか?実は、それ、ちょっと違うんです。筋肉を維持したり、健康を維持するために、私たちは脂質をちゃんと摂るべきなのです。
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ケトン食とは?脂質も糖質も大切、重要なのはバランス
糖質、脂質は悪者?実は摂り方がある!
前号の特集『運動するのは、脳のため』を振り返ってみましょう。体型維持のために食事を減らすのではなく、きちんと食べて運動をすること。それが健康な脳と身体の維持につながるとお伝えしました。本特集では、健康維持を目指すあなたに、さらにプラスしてほしい食事の摂り方をお届けします。あなたは、糖質と脂質をどう摂っていますか? どちらもできるだけ控えるほうがいい。そう思っていませんか?
「糖質、脂質は太りやすいというイメージがあると思いますが、誤解が多いように感じています。そもそも、糖質、脂質は、たんぱく質とともに生命活動に欠かせない三大栄養素。摂り過ぎはよくありませんが、控え過ぎるのもよくありません。大切なのはバランスです。正しい摂り方を理解すれば、いつまでも若々しく健康な身体を保つことができるのです」
お話をうかがったのは、大阪大学の萩原圭祐先生。内科医であり、がん患者向けの【ケトン食】の研究も続けている先生です。
「ケトン食とは、身体が【ケトン体】を作りやすくなる食事のこと。ケトン体は糖質が不足した際に、脂肪を材料に肝臓で作られるエネルギー源です。大阪大学で、進行したがん患者さんを対象に、糖質の摂取を控え中鎖脂肪酸を中心に脂質を摂るケトン食を実践したところ、予想以上に良好な臨床結果が見られ、がん治療との併用で相乗効果が期待されるようになったのです」
MCTの摂取で、増加する ケトン体。
24人の健康な被験者に、中鎖脂肪酸(MCT)を含む栄養剤(ケトジェニックフォーミュラー)を、異なる用量で単回投与し、血中総ケトン量を経時的にモニタリング。結果、MCT含有量が多いほど、血中総ケトン量は速やかに、かつ高く増加した。このことから、MCT含有量の増加は、ヒトの体内でケトン体生成を効率的に促進する可能性を示唆した。
引用元:Nakamura K, Hagihara K, et al. Ketogenic effects of medium chain triglycerides containing formula and its correlation to breath acetone in healthy volunteers: a randomized, double-blinded, placebo-controlled, single dose-response study. Frontiers in Nutrition, 2023
ケトン体に重要な役割。バランスが健康のカギ。
ケトン食の歴史は古く、古代ギリシャ時代からその働きは応用されていました。1920年代には、てんかんの治療としてケトン食が発明され、現在も治療法のひとつとして活用されています。
「ケトン体には、てんかん発作の軽減、がん細胞の増殖の抑制のほか、体内時計を整える、腸内を健やかに保つ酪酸産生菌を増やす、全身の炎症を抑えるなど、さまざまなよい働きがあることがわかっています。ケトン食は病気の治療だけでなく、健康の維持にも重要な役割を果たすということ。がんなどの療法としてのケトン食は精密な栄養設計条件があり、一部の医療機関で専門の医師・栄養士による管理・指導のもとでしか行われていませんが、健康維持のためのケトン食〝プチケトン食〟は、そうではありません。低糖質高脂質。糖質を少し抑えて、その代わりにMCTオイルなどの良質な脂質を多めに摂ることで、ケトン体が作られやすい身体を目指せます」
私たちは、こんな食べものがいい、これは摂らないほうがいいと聞くと、極端に摂ったり、避けたりしてしまいがち。大切なのはバランスです。どう摂れば健康を維持できるのか、自分の身体の状態を踏まえて、そのバランスを考えていきましょう。
ケトン体は夜に作られる?眠ると元気になる理由
筋肉を維持するためにも、脂質の摂取が必要。
ご飯やパン、麺などを一切摂らないといった極端な糖質制限は、健康を損ねる可能性があります。
「糖質を控え過ぎると、足りなくなった糖を補うために【糖新生】という仕組みが働きます。筋肉からアミノ酸を分解し、それをもとに糖の一種であるグルコース(ブドウ糖)を作り出すのです(下の図を参照)。糖新生が続けば、次第に筋肉が細り、エネルギーを消費しにくい身体になります。糖質の摂り過ぎになる要因は、ご飯などの主食より、お菓子などの間食。控えるべきは間食なのです」
間食や食事でゆるやかに糖質を抑えるのが、ケトン体を作りやすい身体を目指す第一歩。
「特に50歳以上の人、空腹時血糖値が100㎎/㎗を超えている人、筋力が低下している人。代謝が低下していますから、これまでよりも、より糖質の摂り方に気をつけたほうがよいでしょう」
ケトン体は、糖質が不足したときに作られるもの。その際、糖新生が起きますが、最小限に抑えるために必要なのが脂質です。
「糖質が減ると、生命活動を維持するための仕組みとして、糖新生と同時に、糖質の代替エネルギーとしてケトン体を作り出す【ケトーシス】が起こります。身体に蓄えた脂肪から脂肪酸をとり出し、それを材料に肝臓内でケトン体が作られるのです。ただ、身体に蓄えた脂肪だけに頼るのは限界がありますし、糖新生が増えて、筋肉が細ることにもなります。だからこそ、食事からケトン体の材料になる脂質をしっかり摂る。脂質が十分であれば、安定的にケトン体が作られ、糖新生が落ちついて、筋肉を保ちながら身体が健康な状態に向かっていくのです」
〈3つのエネルギー回路〉
眠っている間に、ケトン体が身体を修復。
ケトン体が身体を健康な状態にする大きな理由は、身体を修復する働きです。
「活動量の多い日中は、糖がエネルギーとして使われていますが、夕方から夜にかけては活動が減り、夕食後、時間が経つにつれて糖が減っていきます。その時、自然に軽いケトーシスが起こり、ケトン体が全身の細胞に届けられます。そして細胞内にあるミトコンドリアという発電所のような器官でエネルギーに変換されます。それと同時に行われるのが、ケトン体によるミトコンドリアの修復作業。ミトコンドリアは常に働き続けていますから、酸化ストレスなどによって損傷しやすくなります。これは老化の原因になりますが、ケトン体の働きによって、十分にミトコンドリアを修復できれば、老化のスピードをゆるめることができ、若々しさや健康維持につながっていくのです」
さらにケトン体は、体内時計にも作用します。
「ケトン体の生成は、体内時計に夜が来たことを知らせるサインにもなります。この、昼から夜に切り替わったというサインがとても重要。副交感神経が優位になり、入眠がスムーズに。深い睡眠が増え、就寝中の細胞修復がしっかり行われるようになります」
起床時、疲れが残っている場合は、夜に糖質を多く摂っていることが原因かもしれません。
無理なく続けるケトン食のやり方|“楽しむ”も大切なバランス
偏りがないように注意を。よい脂質もとり入れて。
低糖質高脂質なケトン食。健康維持のためのとり入れ方は、そう難しくはありません。
「糖質を1日に50〜100g程度にして、脂質をしっかり摂る、〝プチケトン食〟を始めてみてください。ケトン体は夜に作られますから、特に夕食をプチケトン食にするのがよいでしょう。筋肉を細らせないために、たんぱく質を多く含む献立が理想です」
糖質量の目安がわかりづらい場合は、下にある〈糖質量の目安〉を参考に。果物はビタミンなどが摂れるメリットはありますが、糖質が高いので、摂る量には気をつけて。
「主菜、副菜には、脂質が多いものを。牛、豚のバラ肉を使った料理、タルタルソースをそえたフライ、サーロインステーキ、チーズを使った料理、魚料理などです。これらは【ケトン比】(下の〈ケトン比の高い食品〉を参照)の高いもの。糖質やたんぱく質に対してどれだけ脂質が摂れるかの目安で、高いほどケトン体を作りやすくなります。ケトン体は、食事で摂った脂質だけでなく、身体に蓄積された脂肪も使いますから、太りにくい身体になるとも言えます」
ただ、脂の多い肉やフライ、チーズなどの動物性脂肪ばかりに偏るのはよくありません。良質な脂質も組み合わせましょう。健康には、そのバランスも重要です。
「良質な脂質とは、魚油などのオメガ3、オリーブオイルなどのオメガ9、そしてMCTオイルなどです(下の〈脂肪酸(脂質)の種類〉を参照)。避けたい脂質はトランス脂肪酸。マーガリンや、お菓子などで使われるショートニングなどに含まれています。また、酸化した油にも注意が必要です。マーガリンはバターに替える、新鮮な油を使うなど、控えるようにしましょう」
〈糖質量の目安〉
- ご飯(精白米)/茶碗1杯・150g…53.7g
- 食パン/6枚切り1枚…25.3g
- うどん(ゆで)/1玉・250g…50.7g
- そば(ゆで)/1玉・150g…39.6g
- パスタ/乾麺100g…67.7g
- いちご/中サイズ1個約20g・3個…4.3g
- キウイフルーツ/中サイズ1個約90g・1個…9.8g
- ショートケーキ/いちご付1個(100g)…41.8g
- 大福(つぶあん)/ 1個(80g)…40.0g
- 醤油せんべい /1枚(10g)…8.3g
※糖質量は日本食品標準成分表(八訂・増補2023年)をもとに算出した目安量です。食品の種類や製品、熟度などにより数値は前後します
〈ケトン比の高い食品〉
- 魚類…サンマ、カツオ缶(油漬け)、鯖、まぐろ(とろ)刺身、ツナ缶(油漬け)
- 肉類(すべて脂身つき)…牛サーロイン、牛バラ、牛肩ロース、豚バラ
- 野菜類…アボカド
- 種実類…炒り胡麻、練り胡麻、カシューナッツ、アーモンド、ピスタチオ、クルミ
- 乳製品…マヨネーズ、クリームチーズ、プロセスチーズ、カマンベールチーズ
- 大豆製品…油揚げ
※日本食品標準成分表(八訂・増補2023年)から引用
〈脂肪酸(脂質)の種類〉
食事だけでなく、運動がケトン体に重要。
さらに、食事を和食中心にするほうがよいそうです。
「和食は食物繊維が豊富。食物繊維は、腸内細菌の餌になるもので、それを材料に腸内でさまざまなものが作られます。その中でも短鎖脂肪酸が重要。血糖値の乱高下で起こる異常な空腹感や、食欲低下を防ぐ働きがあります。これによって食欲の波が安定し、食後の糖の処理がスムーズになります。こうした代謝の安定は、ケトン体誘導のスイッチが入りやすい状態へのサポートになります」
ケトン体が作られやすい状態にするためには、食事のほか運動も必要なのだそうです。
「運動をすると、筋肉がエネルギーとして糖を使います。食後にウォーキングなどの運動をとり入れると、糖の処理が早く終わり、よりケトン体が作られやすくなります。また、筋肉量が多いほど、ケトン体の産生に切り替わりやすくなります。筋肉量の維持のため、運動習慣を持つことをおすすめします」
好きなものを諦めないといけない、というわけではありません。
「平日にプチケトン食を実践し、土日は外食やお菓子を楽しむ。そんな風にゆるやかにとり入れるといいと思います。楽しむことも、健康維持に大切な要素ですから」
健康のための継続にも、やはりバランスが大切なのです。
患者さんにおいしいケトン食を。
萩原先生が代表を務めるヘルスクリエイトと、おいしいプラス、ロート製薬の3社が共同開発した冷凍ケトン弁当が、4月から医療機関などで提供されます。サイエンスに基づいた食事を広めることで、人々のウェルビーイングに貢献します。















