太りたくない。運動すべきだとはわかってる。でも、なかなか始められなくて……。忙しい日々を送っていると、運動の時間を確保するのは難しいものです。でも、食事量を控えるだけではダメ。運動もやはり、欠かせません。ずっと当たり前に言われていたことですが、なぜ必要なのか。その意外な理由がわかってきました。運動は、筋肉量を維持するためだけでなく脳を守るためにも必要だったのです。本特集で、あなたの運動への意識が変わるかもしれません。
企画・取材:市川奈央子/文:上田美香
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“筋肉をつける” だけじゃない!運動するのは、脳のため。
体重が増やせなくなる!痩せは、深刻な問題に
「女性が美しくあるための理想体重は、45キロ」。誰が言い始めたのか、昭和の時代はそんな言説が存在しました。高身長であっても同じ、45キロ設定というのはおかしな話。令和になった今では、みんなそんな言説を笑い飛ばしているのだろう。そう思っていたのですが、意外にもまだ45キロに囚われている女性は多いよう。痩せたいけど、運動をする時間はない。運動は苦手。そんな女性は、体重をコントロールするために食事量を減らすことを考えがちです。食べないダイエットはよくないと以前から言われ続けてきたことですが、なぜ危険なのか。その理由をあなたにお伝えすべく、本特集を企画しました。
お話をうかがったのは、順天堂大学 大学院医学研究科の田村好史先生。糖尿病の代謝学、運動療法がご専門で、最近、社会課題にもなっている女性の低体重、低栄養の研究もされています。
「痩せているほうがよい、と食事を控える人がいますが、それを続けると将来的に困ることになります。高齢になった時、食べても体重を増やせなくなるからです。かつて糖尿病治療は、体重管理のため食事制限が基本になっていましたが、現在、高齢者には体重を減らさないようしっかり食事を摂ってもらうことが多くなってきています。それでも多くの高齢者は、体重を増やせません。痩せると筋肉量が落ち、軽い運動さえ困難になって、さらに筋肉量が減少していくという悪循環に陥ります。痩せは本当に深刻な問題です。将来の身体機能の低下を避けるために、できれば早いうちに痩せを解消したほうがいい。体重を増やせるのは、50代までかと思います」
“痩せメタボ”の原因はある意外な脂肪。
高齢になると体重を増やすのが難しくなる。それは考えておかなければなりません。これから目指すべきは、必要以上に痩せないこと。そして、ずっと、思うように動かせる身体であるために、筋肉を維持しておくこと、です。
「メタボリックシンドローム(通称メタボ)は、誰もがよく知っています。内臓に脂肪が蓄積され、かつ高血圧・高血糖・脂質代謝異常のうち、ふたつ以上があてはまる状態を指します。そのことから太っている人がなるものだというイメージがあるかもしれませんが、普通体型や痩せ型の人でもメタボになることがあります。〝痩せメタボ〟などと呼ばれています。食事量、運動量が少ない人がなりやすいのが特徴。筋肉量が少ないためです。筋肉には糖と脂肪をとり込んで燃やすという役割がありますから、筋肉が少なければ、脂肪は蓄積されてしまうのです」
痩せているのに、脂肪が蓄積されているとは意外かもしれません。実は日本人をはじめとするアジア人は、いろいろな臓器に脂肪が蓄積されやすいのです。
「それは【異所性脂肪】というものです。消費しきれなかったエネルギーは、皮下脂肪や内臓脂肪として蓄積されますが、日本人は、欧米人に比べその容量が圧倒的に少ない。余ったエネルギーは行き場を失って、筋肉や、肝臓、心臓など、本来蓄積されにくい場所に蓄積されていきます。異所性脂肪が過剰に蓄積した筋肉を【脂肪筋】と言います。これが痩せメタボの原因のひとつ。筋肉の質を低下させるだけでなく、全身に悪影響を及ぼします。将来、要介護になる可能性も高くなります」
脂肪筋の改善は、ただ体重を減らすだけでなく、運動をして、筋肉を増やす・維持が必要。それをできるだけ早いうちから始めておくことが、人生100年時代の備えになるそうです。
CHECK|
脂肪筋になってない?思い当たれば可能性が……!
- 運動不足(ウォーキングや筋トレをほとんどしていない)
- 1日のうちで座っている時間が長い
- 脂肪分の高い食事や、甘いものが好き
- たんぱく質をあまり摂っていない(肉・魚・卵・大豆などの摂取量が少ない)
- 中性脂肪、血圧、血糖値のいずれかの数値が高め
- 肝機能の数値がやや高め
健やかな筋肉がカギ。脳を守って、動ける身体に。
脂肪筋によって、脳梗塞など重篤な疾患に。
脂肪筋は、なぜ全身に悪影響を及ぼすのでしょうか。
「筋肉に異所性脂肪が蓄積した脂肪筋は、毒性を発揮しインスリンの働きを妨げることが理由です。インスリンは、筋肉に糖をとり込むのを促すホルモンで、その働きが悪くなることで、筋肉が糖をとり込めなくなり、血液中に糖があふれた状態になります。これが糖尿病の始まりです。そして、糖によって血管が傷めつけられ、しなやかさを失って、動脈硬化が進みます。それによって脳梗塞や心筋梗塞という、重篤な疾患の発症につながっていきます」
脂肪筋はさまざまな疾患の原因に。特に、脳梗塞が高齢者にとっての問題になるそうです。
「脳梗塞によって、身体の動きをコントロールする脳の機能が損傷されてしまうためです。それによって筋肉への指令が伝わらなくなり、身体を思うように動かせなくなってしまいます。ひどい場合は半身に麻痺が残ることもあります。身体を動かせませんから、どんどん筋肉の衰えも進む。そうなると介護が必要になる場合もあります。運動機能を落とさず、少しでも長く自分の力で暮らせるように、筋肉を健やかに保ち、脳を守ることが必要だと言えます」
筋力の低下が関係。“隠れ脳梗塞”。
高齢者の25%以上で確認されている【無症候性ラクナ梗塞】。症状がないにもかかわらず、脳の細い血管が詰まり、脳に小さな梗塞が起きている状態を指す。“隠れ脳梗塞”とも呼ばれている。無症候性ラクナ梗塞と筋力には関連があり、歩く速度が遅い、つまずきやすいなど筋力が低下している人ほど、有病率が高いことがわかっている。
n=1,536
65歳以上の男女を対象に、足の筋力を低・中・高にわけ、それぞれ脳のMRI検査を実施
Someya Y, Tamura Y, et al. JCSM Clinical Reports. 2020;5:79-85. を改変
脳梗塞のリスクは30代から高まる!?
実は先生方の研究で、脳梗塞の原因は、動脈硬化だけではなさそうだとわかってきたそうです。
「メタボの人たちの脳を調べたところ、白質という部分に変性が起きていることがわかりました。白質とは、神経細胞同士をつなぐケーブル(神経線維)が多く集まる部分。脳の各部分に情報をすばやく伝達する働きがあります。痩せメタボの人たちは、そのケーブルが正常な状態と比べ、細くなるなどの変化が見られるのです。高齢のメタボの人では、細い上に、そのケーブルの中がスカスカな状態になっている。そうなった場合、運動機能も認知機能も悪くなるということがわかってきています。脳機能の低下の原因は、動脈硬化だけでなく白質の変性もあるのではないか、と考えられるようになってきました。実は30代のメタボの人でも白質の変性が起こっています。高齢になって突然起こるわけではなく、痩せメタボになったとき、つまり30代、40代からじわじわと脳梗塞のリスクが高まっているであろうことが、明らかになりつつあります」
脳と身体はつながっているからこそ、運動が長い人生の備えになるということ。もちろん、運動ができるだけの体力も大切。そのための食事も必要です。体重45キロの幻想を手放して、生涯にわたる健康的な美しさを目指しましょう。
痩せた女性は、閉経後、より糖尿病になりやすい。
閉経した痩せ型の女性は、閉経した普通体型の女性よりも、上昇した血糖値を正常範囲に戻す能力が低いことがわかった。これには、痩せ型の女性が、普通体型の女性に比べて筋肉量が少ないことが関係。さらに、脂肪に溜まった異所性脂肪が多いこともわかっている。痩せた女性は、より糖尿病になりやすいと言える。
n=30
閉経後1年以上が経過した50~65歳の女性を対象に、ブドウ糖を経口摂取した2時間後の耐糖能を調査
Someya Y, Tamura Y, et al. Journal of the Endocrine Society. 2018;2(3):279-289.を改変
今日が一番若いから。未来のために、できること。
脂肪筋になっていないか健診結果が参考に。
未来に向けたとり組みのために、まずは、適正体重を知ることから始めましょう。それには、BMIという、体重と身長をもとにした体格指数が目安になります(計算方法は下を参照)。
「中年期(40~64歳)であれば、BMI20~23がメタボになりにくいと考えています。高齢期(65歳~)は、23~25くらいでも許容されています」
脂肪筋は、今のところ調べる方法がないそうですが、健診結果が役に立つそうです。
「肝機能に、ALTという項目があります。この数値が高ければ、脂肪筋によってインスリンの働きが悪くなっていることがわかっています。日本人間ドック・予防医療学会では51U/L以上が異常とされていますが、30U/Lを超えると脂肪筋になっている可能性を考えたほうがいい。もっと言えば、20U/Lを超えたあたりから心配があると言っていいかもしれません。あとは、脂質代謝の中性脂肪。30~149 ㎎/dLが基準値ですが、空腹時で100㎎/dLを超えたあたりから可能性がある。そして、血圧。収縮期血圧(上)が130㎜Hg以上、拡張期血圧(下)が85㎜Hg以上。どちらもあてはまる、またはどちらか一方があてはまっている場合も、可能性があります(下の表を参照)」
最新の健診結果と照らし合わせて確認してみてください。どの項目もあてはまっていなかったとしても、さらに確認してほしいことがあります。
「これらの項目の過去数年分を見比べてほしいのです。どう変化しているかがとても重要。この数年で上がってきていたら、今後上がっていく可能性があります。総合判定がA判定だとそこで見るのをやめてしまう人もいますが、健康状態を考える大切な記録としてぜひ役立ててください」
CHECK| BMI計算式
身長160cm、体重55kgの場合、
55÷(1.60×1.60)=21.5(小数第2位四捨五入)
普通体重になります
BMIが23~25で以下のひとつでも当てはまっている場合、脂肪筋になっている可能性があります
-
肝機能
・ALT…30U/L以上 -
脂質代謝
・中性脂肪(空腹時)…100mg/dL以上 -
血圧
・収縮期(最高)…130mmHg以上
・拡張期(最低)…85mmHg以上
のいずれか、もしくは両方
数回の筋トレで、身体が動くようになる!
自分の身体の状態を確認できたら、しっかり食事を摂る、運動を始める準備を。
「食事は、筋肉の材料になるたんぱく質を摂るようにしてください。体重1キロあたり1グラムが摂取量の目安。体重が60キロなら60グラムが目安になります。運動は、中年期なら1日8000歩、高齢期であれば6000歩を目標に歩きましょう。それから筋トレを、できれば週に2~3回。やりやすいものをとり入れてください(下の筋トレの記事のまとめを参考に)。普段運動をしていない人は、筋肉が力の出し方を忘れていることが多く、最初はうまくできないかもしれませんが、トレーニングで筋肉に刺激が入れば、次第にできるようになっていきます。2、3回のトレーニングから身体を動かしやすくなるはずです。これは脳などの神経の働きがよくなるからだと考えられています」
今からでも間に合うの? と、心配になるかもしれません。大丈夫、あなたは今日が一番若い。これからのために、できることを始めましょう。
下記特集記事で、筋トレの方法を紹介しています。
CHECK|
食事でも中性脂肪対策。オリジナル素材『メタップ®』。
機能性素材の研究開発会社、エムジーファーマが開発した素材『メタップ®』。食事で摂った脂肪の吸収を抑える、吸収された脂肪の代謝を促すというふたつの働きがあり、特定保健用食品(トクホ)にも活用されています。近年、異所性脂肪の減少が期待できることもわかってきました。『メタップ®』配合の食品を、これからの健康作りに役立てて。
※エムジーファーマは、ロート製薬のグループ企業です















