使うのではなく、休ませる。忘れるからこそ、考えられる脳に。
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使うのではなく、休ませる。忘れるからこそ、考えられる脳に。
忘れることで人間は進化していく!
不要な記憶を消去し、新しい情報を記憶としてとり込む。実はこの、新しい記憶を得ることが、私たち人間の豊かさにつながっているそうです。
「新しい記憶を得ることで、考える力を育めるからです。“考える”とは、記憶があるからできること。保存してあるさまざまな記憶と新しい記憶を組み合わせて、新たな視点、解釈を見いだすことができるのです。また、“考える”は、“忘れる”を促す効果もあります。このことから、あまり考えない人ほどエピソード記憶が溜まっていきやすいとも言えます。ただそれは、さまざまな記憶と結びついたものではありません。もの忘れはしないかもしれませんが、記憶をもとに、新しいことを生み出していくのは難しいでしょう」
人工知能(AI)が、人間の知能を超えるのではないかという声もありますが、先生は、そう考えていないのだそうです。
「AIは、膨大な情報をすべて記録できます。その点では、人間はまったく及びませんが、AIが大量のデータをもとに下した判断は、非常に画一的なものです。人間は、それぞれの経験からさまざまな情報を得ています。その中から厳選された記憶を結びつけて考え、生み出したものは実に多様。これにAIが勝てることはないと、私は考えています。忘れることは、自分の頭で考え人間として進化していくために重要なのです」
鍛えるだけでなく、きちんと休ませる。
筆者は今まで、忘れないために、脳を鍛えるべくたくさん使うほうがいいと考えていました。しかし、それは違うのだそうです。
「脳の使い過ぎはよくありません。疲れたら休ませることが大切です。ただ、やはり適度に使わなければいけませんから、先ほどお話しした集中系と分散系をバランスよく使いましょう。それには、疲れたり飽きたりしたら、違うことをするのが有効です。それもまた、脳を休ませることになります」
睡眠もとても重要だそうです。
「睡眠中は記憶を整理、定着させる作業が行われていますし、記憶に関係するたんぱく質の合成、不要になったたんぱく質の排出も行われています。睡眠不足になると、劣化したたんぱく質が溜まり、記憶の形成が上手くいかなくなってしまいます。加えて、劣化したたんぱく質が蓄積していくと、アルツハイマー型認知症のリスクも高まります。健康な脳を維持するために、睡眠をおろそかにしてはいけません」
運動や、音楽・アートの鑑賞も脳の機能維持につながるそうです(下を参照)。
「年齢を重ねると、エピソード記憶は減っていきますが、【意味記憶】は増えていきます(1ページの図を参照)。これは、簡単に言えば知識。不要な記憶を減らしたぶん、豊富な経験から多くの知識を蓄えているのです」
忘れることができるから、知識が増え、自分の頭で考えることができる。私たちはさらに成長していけるということ!これから年齢を重ねることが、ちょっと楽しみになりませんか?
集中系と分散系をバランスよく使う。
どちらか一方を使い続けると、脳が疲弊してしまいます。休ませるために、切り換えをしましょう。
睡眠をとる。
睡眠はとても重要。睡眠の質にこだわらず、眠る時間を確保しましょう。脳は、情報の80%を視覚から得ていますから、目を閉じるだけでも情報の遮断になり、脳を休めることができます。ベッドでは、スマホを見るのをやめましょう。
運動をする。
筋肉が伸縮することで分泌されるさまざまな成長因子が、脳を保護しています。ほかに海馬や、脳の喜びの回路を活性化する作用もあります。激しい運動ではなく、気持ちよくできる範囲で行いましょう。
音楽・アートを鑑賞する。
好きな音楽は、運動と同じく脳の喜びの回路を活性化させたり、脳の血流を増やす作用があります。アートは、脳に蓄積されたさまざまな記憶を活性化させ、それぞれを結びつけます。思わぬ創造性へとつながる可能性があります。