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知っトク!?健康スキル

“忘れる”は脳の健康な働き!?脳科学が解き明かす記憶の仕組み(3/4)

掲載号 vol.60

嫌な記憶は残りやすい。“覚える努力”を、しないこと。

くり返し思い出す。それで記憶が定着する。

エピソード記憶のような不要な記憶を捨て、大切な記憶を蓄積する。ここまでで、脳が持つその仕組みをおわかりいただけたかと思います。では、どのように大切な記憶を保管しているのでしょうか。先生にお聞きしました。

「日々の出来事から得られる情報は、海馬にある新しいニューロンによって記憶として形作られます。しかし、そのほとんどが数十秒から数十分しか維持できずに消去されていきます。ただ、エピソード記憶であっても、何度も何度もくり返し思い出したものは、“重要な記憶”として認知されます。そして海馬から大脳皮質にある記憶の保管庫へと移されるのです(下の図を参照)」

重要な記憶は、保管庫に移される。
重要な記憶は、保管庫に移される。

エピソード記憶は、まず海馬に保存されます。ほとんどを忘れていきますが、くり返し思い出した記憶は“重要な記憶”として認識され、大脳皮質にある保管庫に移されます。

脳は忘れるようにできているからこそ、大切なことは早めにくり返し思い出すようにすればよいそうです(下の図を参照)。試験勉強なども同様に、授業などで一度覚えたことをできるだけ早く、くり返し復習すると忘れにくくなります。

「新しい記憶のほとんどを忘れていくものの、“嫌な記憶”ほど忘れられないという人もいるでしょう。その理由は、何度も何度もくり返し思い出してしまうからです。例えば、誰かに失礼なことを言われたとき、『なんでそう言われてしまったのか』と何度も考えてしまうのではないでしょうか。これは嫌な記憶を復習しているようなものです。さらに、嫌な記憶は、忘れにくい情動記憶にあたることも理由です。先ほどお伝えしたように、情動に関係する記憶はしっかり残るようになっています。嫌な体験は、怒りや悲しみを伴うものです。『ムカつく!』とか『私が悪いの?』など、さまざまな情動を伴います」

記憶は、時間が経つほどに
忘れやすくなる
記憶は、時間が経つほどに忘れやすくなる

上にあるのは、時間が経つほど記憶が失われやすくなることを表した、【エビングハウスの忘却曲線】。初期に急速に記憶が薄れていくので、早めに思い出す(復習する)ようにすると、記憶が定着しやすくなります。

忘れるために、落ち込む時間を!

忘れたいのに、嫌な記憶は忘れられない。筆者もそうで、嫌な記憶はいくつも残っています。

「嫌な記憶は、脳が生存のために重要だと認識する部分はありますが、それはやはりストレスになります。嫌な記憶を残さないためには、意外にもしっかりと落ち込む時間が必要です。落ち込んで何もせずに、ぼーっとすることが記憶を残しにくくするのです。これには、脳の二大システムである【集中系】と【分散系】のうち、分散系の働きが関係しています。集中系は課題や目的に向かって集中して作業をするときに活性化するネットワーク。分散系はその逆で、何もしないときに活性化します。落ち込んでいるときは、この分散系が活性化。記憶を作るための新生ニューロンを減少させ、嫌な記憶を残りにくくします

落ち込むというのは情動ではないの? と思いましたが、それは情動とは別ものだそうです。

「嫌だと感じた出来事そのものを思い出してしまうと効果がありませんから、落ち込むという気持ちに浸り、ぼーっとする時間を持ちましょう。記憶を残りにくくしたら、次はその記憶を消していく行動を。ワクワクするようなチャレンジが効果的です。新しい知識を得たり、新しい経験をすると、海馬に働きかけ新しいニューロンの増加を促します。新しい記憶をどんどんとり込むことが、嫌な記憶の消去につながります

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