朝食は、健康を支えるとても大切なもの。一方で、忙しさなどから欠食しがちになってしまうものでもあります。欠食するとさまざまな悪影響がありますが、女性特有の不調や、〝妊娠力〟に関係することもわかってきました。娘さんや、お孫さん、あなたの周囲の若い女性に朝食の大切さを、ぜひ伝えてください。
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「朝食を摂る人は妊娠する力が高いことがわかりました」
先生は、朝食欠食が若い女性の生殖機能に及ぼす影響について研究されています。朝食を摂らないことは、女性の生殖機能に影響があるそうですね。
「そうなのです。それには私たちの身体に備わっている【体内時計】が関係します。体内時計は脳にある親時計と、全身にある子時計が連動して動いているのですが、朝食を摂らないことでそれが上手く働かなくなってしまうのです。体内時計の周期は、約25時間。地球の24時間の周期と約1時間のズレがあるわけです。それをリセットすることが健康を保つ上で非常に重要。体内時計をリセットするために必要なのは光、そして、もうひとつが朝食です。朝食を摂らない生活を続けると、体内時計のズレがリセットされず、さまざまな臓器、神経、ホルモン機能に影響を及ぼします。特に子宮は、その影響を受けやすいのです」
体内時計が乱れると、子宮にどのような問題が起こるのでしょうか。
「流産や死産の可能性が高くなると言えます。マウスを使った研究で、朝食だけを与えたマウス、夕食だけを与えたマウスの子宮の細胞を調べたところ、夕食だけを与えたマウスの子宮の時計遺伝子にあきらかな異常が見られました。時計遺伝子とは、体内時計の働きに深くかかわる遺伝子で、体内時計が正しく働いている子宮の細胞には【Bmal1】という時計遺伝子が現れます。朝食だけを与えたマウスには規則的にBmal1が現れていたのに対して、夕食だけを与えたマウスは、子宮におけるBmal1のリズムがズレてしまうことがわかりました。また、子宮でBmal1が発現しないマウスは妊娠しても、流産、死産してしまうという結果が得られました」
その結果は、とても驚きです。
「ヒトの女性でも、検証しています。妊娠しても何度も自然流産してしまう【習慣流産】の人の子宮の細胞を調べると、通常より時計遺伝子Bmal1の発現が低下していることがわかっています。そしてそれは、子宮内の免疫環境にも影響を及ぼします。人は、体内に侵入したウイルスや細菌、がん細胞などの異物を攻撃して身体を守る免疫システムを持っていますが、Bmal1の発現が低下するとそれがエラーを起こし、胎児を異物だと認識して攻撃するようになります。加えて、胎盤が上手く作られないこともあって、結果、流産につながってしまうのです」
最近は不妊に悩む女性も多くいます。体内時計のズレは女性の妊娠する力にも影響があるのでしょうか?
「妊娠のしやすさは年齢に関係するほか、朝食を毎日摂っていたかどうかも、関係しています。朝食を摂る人のほうが妊娠しやすく、不妊治療も効果が出やすいのです。朝食を摂る人は、摂らない人に比べて不妊治療による妊娠の確率が約3倍高いというデータもあります」
若い頃は朝食を摂っていなかったけれど、その後、朝食を摂るようになった場合はどうなのでしょう。
「朝食を摂る生活の継続で、月経困難症がよくなるケースは多く見られます。ただ、年齢を重ねて朝食を摂るようになったとしても、若年期の朝食欠食による子宮への影響が、完全に回復するとは言い切れません。体内時計がリセットされず、ズレたままだと、卵子の発育をサポートする細胞の働きに悪影響があるなど、妊娠期の子宮機能にさまざまな問題が起こってきます。朝食を摂ることは、とても大切なのです」
朝食が、出産を望む女性にとってどれほど大切か、よくわかりました。
「体内時計をリセットする働きは、昼食や夕食にはありません。朝食にだけあるものです。ダイエットや、朝の慌ただしさから若い女性は朝食を抜いてしまうことが多いようです。トースト1枚でもいいので、起床してから1時間以内に朝食を摂ることを、どうか心がけてほしいと思います」
健康作りに朝食は欠かせないものだということはよく知られていますが、女性の生殖機能に関係することはあまり知られていません。ぜひ、これを読んでくださったあなたから、周囲の若い女性に伝えていただければと思います。