耳は音を聞くことが大きな仕事。さらに、もうひとつ、動きを察知するという仕事も担っています。その仕事を担当しているひとつが、耳の中にある【耳石】という、小さな石。目には見えないほど小さな石ですが、地球上で生活する上で欠かせないもの。さらに、多くの人が悩まされるある不調や老化にも関係することがわかっています。耳にある、小さな石のこと。その存在を考えることが健康作りにもつながります。
バランス感覚の要。三半規管と耳石
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バランス感覚の要。三半規管と耳石
乗り物酔いは、三半規管の鋭さが理由
小学生のとき、自動車に乗ると、ひどい“乗り物酔い”を起こしていた筆者。あまりにつらいので、乗り物酔いを防ぐにはどうすればいいか、周囲の大人に聞くと「【三半規管】が弱いんだね」とかえってくることがたびたびありました。乗り物酔いに関係している、耳の中にある三半規管。その名前は、あなたも知っているかもしれませんね。でも……、三半規管とは何なのでしょう。なぜ、乗り物酔いと関係しているのでしょうか? 奈良県立医科大学の耳鼻咽喉科・頭頸部外科学の北原 糺先生に尋ねると、耳の中は、思っている以上に不思議な世界が広がっていることがわかりました。
「耳は音を聞くだけでなく、揺れなどの動きを探知する働きがあります。その働きを担っているひとつが、耳の奥、【内耳】と呼ばれるところにある、三半規管です。3つの半規管があるのでそう呼ばれていて、この3つがあるから3次元空間すべての回転を察知することができるのです(下の図を参照)。【前半規管】は見上げる、うつむくなどの回転、【後半規管】は首をかしげるなどの回転、【外側半規管】は振り向くなどの回転。3つの半規管はリンパ液という液体で満たされていて、その液体の動きによって、どんな風に回転しているのかを察知しているわけです」
乗り物酔いは、三半規管内のリンパ液が乗り物の振動によって、常に揺さぶられることで起こります。
「『三半規管が弱い』のではなく、本当は『三半規管が鋭い』と言うほうが正しいでしょう。いわば感じ過ぎてしまうのです」
地球で生きるために必要な【耳石】
耳の中には、回転を察知する三半規管に加えて、傾きを察知しているものがあります。
「それは【耳石】というものです。三半規管と、音を受け取る【蝸牛】の間にある、袋のようなものの中に入っています(下の図を参照)。袋の中には皿のようなものがあり、その上にひと粒5マイクロメートル(0.005ミリ)という、目には見えない小さな耳石が約10万個乗っていて、落ちないようにゼラチンで覆われています。三半規管が回転を察知するのに対して、耳石は傾きを察知します。皿は水平と垂直の向きがあり、引力に引っ張られることで傾きを察知しているのです。耳石は、引力がある地球で生きるために必要なものです」
三半規管と耳石が左右の耳にそれぞれあることで、身体がどのように動いているかがわかるようになっています。つまり、このふたつがあるから、私たちは身体のバランスをとることができているのです。どちらも大切なものですが、今回お伝えしたいのは、その存在があまり知られていない、耳石のこと。耳の中にあるこの小さな石は、実は健康と切り離せないものだからです。
身体のバランスをとる
三半規管と耳石
垂直と水平の皿、それぞれに乗った耳石が引力によって動き、その傾きで、垂直に立っているか、斜めに立っているか、逆立ちしているのかなどを察知しています