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知っトク!?健康スキル

20代がピーク!?若い人でも脳(前頭前野)が衰える、ある習慣

掲載号 vol.46

年齢を重ねると、もの忘れが多くなったと感じるもの。人の名前を思い出せなかったり、何をしようとして立ち上がったのかわからなくなったり。実は、それ、加齢だけが原因ではないようです。便利なものがあふれる今、誰もがやっている、“ある習慣”が脳を衰えさせる原因のひとつなのだとか。その習慣を続けていると、物忘れの回数が増えるだけでなく集中力や、やる気まで失ってしまう可能性まであるのです。

記事内容

読了時間:15分

目次

20代がピーク!?若い人でも脳(前頭前野)が衰える、ある習慣

加齢だけじゃない!?便利さが脳を衰えさせる?

「ほら、あれよ、あれ。……うーん、何だったっけ……?」。会話の途中で、人やものの名前が思い出せなくなった。何かをするために立ち上がったのに、「何をしようとしたんだっけ?」と、やるつもりだったことがわからなくなった。そんな経験、あるのでは?自分自身だけでなく、周囲の人からもよく聞くエピソードかもしれません。今はまだ「年齢を重ねると仕方ないこと!」と笑って流してしまえるかもしれませんが、そのままでは思わぬ事態を招く可能性があります。

一瞬記憶が引き出せなくなるもの忘れには、脳の【前頭前野】という部分が関係しています。

「前頭前野は【記憶】することがひとつの仕事。ワーキングメモリ(作業記憶)といい、一時的に情報を記憶し、処理をし、不要なものは削除するということをしています。例えば会話は、このワーキングメモリが働いているからできること。相手の話を聞いて内容を一時的に【記憶】し、その話の意図を読み取るという【処理】をし、話の展開によって前の情報を【削除】することで、スムーズな会話が成り立つのです。もの忘れは、前頭前野がその一連の仕事をうまくできなくなって起こると考えられます」

お話をお聞きしたのは、東北大学の川島隆太先生。日本での脳機能開発研究の第一人者で、大ヒットした“脳トレゲーム”を監修したことでも知られる先生です。

人間らしくあるために、前頭前野は大切な場所。

前頭前野の機能が低下して起こるのは、実はもの忘れだけではありません。記憶のほかにさまざまな仕事を担っているからです。

「前頭前野は、ほかに【考える】【判断する】、そして【集中する】【やる気を出す】などの働きも担っています。前頭前野の機能が低下すると、もの忘れが増えるほか、集中できなくなる、やる気が起きにくくなるということも現れます。前頭前野の働きは、人間の生活に必要なものばかり。人間が人間らしくあるために、とても重要なのです」

人間らしさのカギを握る前頭前野の働き

前頭前野の位置を示すイラスト(大脳の前方が赤く強調されている)
  • 記憶する
  • 考える
  • 集中する
  • やる気を出す
  • 応用する
  • アイデアを出す
  • 判断する
  • 行動や感情をコントロールする
  • コミュニケーションをとる

例えば、ドラマや映画を見たり、旅行をするなどどこかへ出かけたり、新しいことにチャレンジしようという気持ちも起きなくなることもあります。楽しみの多い、充実した毎日を送るためには前頭前野を衰えさせないことが大切なのです。

意外なことに、脳の衰えは、中年期以降ではなく、もっと早くから始まっているそうです。

「前頭前野の【記憶する】【考える】【集中する】【判断する】などの知的な能力は【認知機能】と呼ばれています。この認知機能は、20代をピークに徐々に衰えていきます。加齢は脳を衰えさせる要因ではありますが、普段何気なくやっている行動も前頭前野の機能を低下させる可能性があるとわかってきました。それはデジタル機器の使用。スマートフォンやパソコン、タブレットなどの使用はやはり考える必要があります」

スマートフォンを使っているとき、集中力、記憶力が低下する!?

次々に興味が移ることで集中力が保てなくなる!

スマートフォンやパソコン、タブレット。それらデジタル機器は仕事の効率を上げるだけでなく、仲間とのコミュニケーションや、動画や音楽などの視聴、ショッピングなども楽しめて、もはやなくてはならないものになっています。便利さと楽しさから、何をするわけでもなく、ふとスマートフォンに手が伸びてしまうということもあるでしょう。しかし、その“ついつい触ってしまう”という習慣は、脳の機能を低下させるリスクがあるとわかってきています。大きな問題のひとつが、“集中力の低下”です。

「パソコンが普及し始めた頃から集中力の低下は指摘されていましたが、スマートフォンが登場してそれが顕著に現れるようになりました。理由は、スマートフォンは特に【スイッチング】が起こりやすいからだと言えます。スイッチングとは、“切り替える”という意味。例えば、動画を視聴しているときに、メールやSNSのメッセージを受け取ったという通知が入ると、すぐにそちらを確認すると思います。今までやっていたことをやめて、別のことに行動が切り替わる。これが【スイッチング】です。若い世代を見ていると、ゲームや動画、SNSなどアプリを次々に切り替えるのが当たり前になっています。短時間で興味がさまざまなものに移るのは大問題。ひとつのことに集中できない状態が続いてしまうからです。私たちの研究で、30秒しか集中力がもたない人が増えていることがわかってきました」

スマートフォンはスイッチングが起こりやすい

さまざまなアプリがあり、さらにそれぞれのアプリからの通知も多いため【スイッチング】(切り替え)が起こりやすくなるスマートフォン。ひとつのことに集中できない状態が増えやすくなります。

スマホの通知でSNS・ニュース・メールなどに意識が切り替わるイメージ(スイッチングの図解)

スマートフォンで調べても脳が働くわけではない!

そしてもうひとつ、デジタル機器にばかり頼ると、“記憶が定着しない”リスクも見えてきました。

「単語の意味をスマートフォンと国語辞書で調べ、のちに調べた単語をいくつ思い出せるかテストしたところ、国語辞書では約4〜5割思い出せたのに対して、スマートフォンでは、ほぼ思い出すことができないという結果になりました。その差は、手間をかけたかどうか。国語辞書は、知りたい言葉がどこにあるのかページをめくって探すという手間がかかります。それが重要なのです」

手間をかける、とは、脳を働かせるということ。手間をかけて得た“手がかり”を結びつけることで、情報が脳に定着するのだそうです。スマートフォンはボタンを押せば結果が表示されます。私たちは、ボタンを押しているだけで、脳を働かせたことにはなっていません。

「スマートフォン、辞書で言葉の意味を調べたときのそれぞれの前頭前野の活動を見てみると、スマートフォンで調べた場合、ほとんど活動をしていないことがわかります。例えるなら、脳が寝たきりのような状態。身体を動かすことがなくなると筋肉が衰えるように、脳も長時間働かないことで、やはり衰えてしまうのです」

スマートフォンで言葉の意味を調べると前頭前野はほとんど活動しない!

スマホで調べたときは前頭前野の活動が低いことを示す比較グラフ(スマホ検索と辞書検索)

脳が働いている状態とは!?脳を働かせる方法とは!?

脳が働けば神経細胞が増加!

筋肉と同じく、使わなければ衰えてしまう脳。生まれたときからデジタル機器がある世代では、低年齢から脳を使っていない、つまり働かせていない状態が増加しているのだそうです。

「スマートフォンやパソコンなどデジタル機器を使う習慣が多い子どもは、脳が発達しにくいことがわかっています。私たち東北大学の研究として、仙台市内に住む5〜18歳の子ども224人の脳の発達の様子を3年間にわたって調査したところ、インターネット利用の多い子どもは大脳灰白質(だいのうかいはくしつ)の発達に遅れがあることが認められました」

大脳灰白質とは脳全体をつなぐ神経細胞が集まる場所。発達に遅れがあるというのは、この体積の増加があまり見られなかったということです。

神経細胞が詰まっている、大脳灰白質

大脳灰白質とは、大脳を覆う皮質のことで、ここに多くの神経細胞が存在しています。神経細胞同士は神経線維でつながり、さまざまな情報がこのネットワークに電気信号として流れます。神経線維が増えることで情報伝達がスムーズになります

大脳灰白質と神経細胞・神経線維の関係を示す図解(前頭前野の位置も表示)

「神経細胞は、神経細胞体とそこから伸びるひものような神経線維からなり、数多くの神経細胞とつながり合っています。私たちが考えたり、記憶をしたり、行動をしたりするとき、この神経細胞のネットワークに情報が電気信号として流れます。これが、脳が働いている状態。脳は働かせなければ衰えますが、働かせれば働かせるほど発達します。神経線維の1本1本が長くなり、枝分かれをしてどんどん増えていくのです。脳の体積が増えるのは、神経線維が増えたことを示しています。それによって脳の神経細胞のネットワークがより情報を送りやすくなり、機能が高まるわけです」

悪いのはスマホではなく、脳を働かせる時間の減少。

加齢によって、少しずつ脳の神経細胞が減り、脳の体積も減っていきますが、神経線維は何歳からでも増やすことができ、脳の機能を高めることもできます。脳には、年齢に関係なく変化する力があります。だからこそ、デジタル機器とのつき合いかたを考えるべきなのです。デジタル機器そのものが悪ではなく、脳を働かせる習慣が少なくなっていることが問題なのです。

「学習によって、何歳からでも脳の体積が増やせることがわかっています。それには【処理速度】と【記憶容量】がカギになります。脳の前頭前野が活性化していると情報を処理する速度が速く、記憶を留めておける容量が大きいことがわかってきました。以前から“読み・書き・計算”がよいことはわかっていましたが、それらを行うときに【処理速度】と【記憶容量】を意識することで、前頭前野がより活性化することがわかったのです。一日に10分程度でいいので、毎日トレーニングを続けてください。もちろん、スマホは別の部屋に置くなどして、集中して行いましょう」

前頭前野を働かせるトレーニング

 情報の処理速度を上げる

文章を早く【音読】する

新聞や小説などをできるだけ早く【音読】しましょう。記事や物語の内容を理解する必要はなく、文字を記号として処理し、声に出してできるだけスピードを上げて読むことが大切です。

1ケタの計算をする

計算ドリルなどを使って、できるだけ早く計算問題を解いていきましょう。難しい計算でなく、1ケタの簡単なものであることが重要。正解する必要もありません。短時間で次々に解いていくことが大切。

 記憶容量を増やす

文字を書く

ペンと紙を使って文字を書いてみましょう。手紙や日記は、記憶を引き出しながら書くことになりますし、漢字などを思い出しながら書くことができます。メモをとるときもできれば手書きで。

読書をする

本をじっくり読むことも効果的。読書は、内容を理解するために登場人物や要点などを記憶し、その記憶を使って次の文章を読み進めるものなので、非常によい脳のトレーニングになります。

便利な世の中だからこそ、”便利ではないこと“をする。

料理は面倒!?だからこそ脳が働く

読み・書き・計算のほかにも、生活に取り入れられる脳を鍛える方法はあります。ただ、それらは、少し手間がかかると感じることかもしれません。

「私たちの生活には、デジタル機器のほかにも便利なものがあふれています。それらは生活を豊かにする一方で、脳を働かせる時間を奪っているとも言えます。わかりやすくするために身体のことで考えてみてください。現代はさまざまな交通手段があり、駅などの施設にはエレベーターやエスカレーターもあって移動はとても便利です。しかし、それによって身体を動かす機会は減ってしまいました。ですから、ジムに通うなどして新たに運動習慣を持つ人も増えたわけです。それと同じように、便利なものがあふれているからこそ、手間をかけるという習慣を持つことが脳を衰えさせないために大切なのです」

例えば、料理。今はどこでも手軽に食事を買うことができる上、デリバリーサービスも充実していますから、料理をする時間が減っているかもしれません。

「調理は、【記憶容量】を増やす、強烈なトレーニングになります。献立を考えるところから盛りつけまで、さまざまな工程があります。限られた時間の中で料理を仕上げるためのプランを立て、その工程をこなしていくわけです。その間、かなり脳を働かせています」

コミュニケーションは対面に意味がある。

そして昨年から普及した、オンラインミーティング。会議も授業も、そして飲み会でさえも家にいながらできるようになりましたが、脳を働かせるためには、実際に会うことが重要だそうです。

「人と会話をするとき、言葉や表情から相手がどんな気持ちでいるのかと想像して話しますね。そのとき、実は前頭前野のある領域が活発に働き、お互いの脳の波長が同期することがわかっています。それがオンラインでは起こりません。オンライン“コミュニケーション”と呼ばれてはいますが、我々の脳はそれをコミュニケーションだと認めていない、ということです」

便利なものに頼り過ぎないこと。それが今を生きる私たちに必要なことだと言えます。

毎日できる!便利ではないことで脳を鍛える

人と会う

遠くにいる人とでもオンラインで簡単に会話ができますが、やはり直接会うことは脳のためにも重要。会話を円滑に進めるために考えたり、相手の気持ちを察することで前頭前野だけでなく脳のさまざまな部分を働かせています。対面して行う囲碁は前頭前野が働くのに対し、コンピューターの囲碁ゲームでは前頭前野があまり働きません。できれば人に会う、人とかかわる趣味を持つなどしましょう。

掃除もよい!

自動で部屋をキレイにしてくれるロボット掃除機。とても便利なものですが、掃除も昔ながらの方法でやると脳が働きます。自ら掃除機を動かし、雑巾がけをすることは、空間を把握したり、段取りを考えたり、工夫をしたりと常に脳を働かせているのです。面倒だと感じる掃除ですが、脳のトレーニングになると考えれば得した気分になるかも!?

料理をする

脳科学の世界で、前頭前野が鍛えられることが広く知られている調理。東北大学の研究で、1日30分の調理作業を約3か月続けた結果、前頭前野の機能が向上していることがわかりました。同時に、思考力と総合的作業力の高まりも認められました。同じ料理を作り続けるのではなく、新しい料理に挑戦すると、より脳を働かせることになります。便利な調理グッズに頼り過ぎないことも大切です。

調理作業を続けたグループで認知機能テスト得点が向上したことを示すグラフ(実験開始前と3か月後)

もちろん健康によいことは、脳にもよい

「もちろん、食事、運動、睡眠も大切。多くの人が実践しているとは思いますが、それは脳の健康にも必要なことです。当たり前のことが脳にもよい、と、最先端の科学で証明されているのですよ」

脳にもよい健康習慣の例(食べ過ぎを防ぐ・運動をする・きちんと眠る)
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この先生に聞きました!

川島隆太 先生

川島隆太 先生

かわしま りゅうた

東北大学加齢医学研究所
所長

東北大学医学部卒業。同大学大学院医学研究科修了。スウェーデン王国・カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学加齢医学研究所助手などを経て、2014 年より、現職。17年より東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター センター長兼任。『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)など著書多数

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