オキシトシンが分泌されるシチュエーション
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オキシトシンが分泌されるシチュエーション
オキシトシンは種の保存のためにある!?
オキシトシンは、出産のときに大量に分泌されるホルモンだと前ページでお伝えしました。1906年、脳の中の下垂体で発見され、ギリシャ語で、早い(okys)出産(tokos)を意味するオキシトシン【oxytocin】と名づけられました。
「オキシトシンは、子宮の筋肉を収縮させて出産を促進する働きに加え、愛を育む作用もあります。お母さんは、生まれてきた赤ちゃんの世話をしなければなりません。そのために、赤ちゃんに対する愛着が必要なのです。出産した女性は、赤ちゃんに初めて対面した瞬間、言葉にならない感情がこみ上げたという体験があると言います。それはきっと、赤ちゃんを自分の分身、もっと言えば自分自身だと感じたからだと言えます。犬や猫などの動物も、同じように生まれた子どもを大事に育てますよね。そのように愛着が生まれる理由は、命を守り、種族を残していくため。あらゆる種の保存のためにオキシトシンがあると私は考えています」
出産時だけでなく、赤ちゃんの世話をするときにもオキシトシンは分泌されます。抱っこしたときの肌への刺激、授乳のときの乳首への刺激でもお母さんにオキシトシンが分泌されるのです。私たちは、はるか昔から、オキシトシンを通して命をつないできたと言えます。
子育て中にも分泌される
オキシトシン
オキシトシンは、出産時に大量に分泌されるほか、産後も授乳の際に分泌されます。赤ちゃんが乳首を吸う刺激によって、母乳を作り出すホルモン【プロラクチン】と、作られた母乳を押し出すためにオキシトシンの働きが活発になるのです。また赤ちゃんの肌に触れたり、においを嗅ぐことなどの刺激によってもオキシトシン分泌が促され、さまざまな形で母性が育まれます。
思いやりを受け取った人にも、オキシトシンは分泌される!
スキンシップや、人を思いやることなどで分泌されるオキシトシン。実は、自分だけでなく周りの人にも分泌されることがわかってきています。先にご紹介した先生のグループが行った実験で、毛づくろいをしたマウスにオキシトシンが分泌されたとお伝えしましたが、毛づくろいをされたマウスにもオキシトシンが分泌されていたのです。
「例えば、子どもが転んで痛がっているとき、お母さんが『痛いの痛いの、飛んでいけ!』と、背中をさすったりしますね。そのとき、お母さんと子どものどちらにも、オキシトシンが分泌されます。お母さんは、“痛みを取り除いてあげたい”という思いやりによって。子どもは、撫でられるという肌への刺激と、お母さんの愛情を感じることで分泌されるのです。通常、ホルモンは自分の身体の機能を維持するために分泌されるものですが、オキシトシンは、自分にも、相手にもよい影響をもたらす、珍しいホルモンなのです」
オキシトシンには、痛みを和らげる効果もあります。転んで泣いていた子どもが泣きやむのは、その力が理由です。
「オキシトシンには、とても多くの機能があり、痛みを抑えるのもそのひとつです。さらに、脳内麻薬と言われる神経伝達物質・エンドルフィンの分泌を促す効果もあり、それによっても痛みが抑制されます。子どもが泣きやむのは、まやかしではないのですよ」
人と交流し、思いやる、優しくする、共感する。それでオキシトシンが分泌されると、さらに交流を重ねるようになるそうです。「“仲間と睦(むつぶ)”ことは、ココロ穏やかに生きるためにも、健康のためにも欠かせないものです。動物が毛づくろいでお互いのケアをしたり、ハグをして仲間割れを防ぐことも同じ。人間でも、社会と疎遠になると死のリスクが高くなることもわかっています。オキシトシンは、健康で豊かに暮らすために、大切なものなのです」