幹細胞ができること | 再生医療にも活躍
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幹細胞ができること | 再生医療にも活躍
別の細胞にもなれる幹細胞の能力。
幹細胞にも、実はさまざまな種類があります。
「幹細胞の一般的な定義は、自分自身と同じものを作り出す能力を持っていること(自己複製能)。そして、自分とは違う細胞になる能力を持っていること(多分化能)。このふたつの能力を持つ細胞を幹細胞といいます。生命の始まりである受精卵も幹細胞。ノーベル賞受賞で有名になったiPS細胞も、それ以前に開発されたES細胞も幹細胞です」
ヒトの身体を会社に例えて、幹細胞の能力をご説明しましょう。自分の身体を会社だと考えてください。創業者は受精卵です。受精卵は会社(身体)を大きくするために従業員(細胞)を増やしていき、彼らは皮膚、骨や筋肉、血液、肝臓などそれぞれの持ち場で、仕事を得ます。一度決まった仕事は変えることはできず、任期満了(寿命)まで同じ仕事を続けます。彼らが働く各グループのリーダーが幹細胞。持ち場で働く細胞とは大きく違い、自分の分身を作ること(自己複製能)、退職したり、トラブルによっていなくなったりした現場の従業員の代わりを作ること(多分化能)ができます(下の図を参照)。リーダーは部下が会社からいなくなったときに備えて、自分の分身を増やしておき、いざというときに、代わりの部下を作るのです。ただ、それができる回数は限られているため、トラブルによって退職者が多くなると、リーダー自身も、それだけ早く死を迎えることになるのです。
体性幹細胞ができること
幹細胞を使った再生医療への希望も。
今、私たちの身体にある幹細胞は、“体性幹細胞”というもの。大切に使いたいというのは、この体性幹細胞のことです。
「生まれ持ってきたものがなくなると私たちは死を迎えます。ですが、逆に体性幹細胞がなくならなければ、細胞を作り続けることができ、理論上、永遠に死なないことになります。体性幹細胞がなくなることは避けられないのが現実ですが、今、体性幹細胞から作った細胞や臓器の一部を使った医療は行われ始めています。それが再生医療と呼ばれるものです」
ES細胞やiPS細胞が注目された理由は、失われた組織や臓器を再生できる可能性が期待されているからです。例えば肝臓が機能しなくなったとき、今は移植しか方法がありませんが、それらの幹細胞から肝臓を新たに作れるのではないかと考えられているのです。また、iPS細胞から作った目の角膜の細胞を移植する治療は、早ければ今年、臨床試験が始まるとも言われています。
ES細胞、iPS細胞を使った医療を受けられるまでには、まだ時間がかかりそうですが、体性幹細胞を使った再生医療は、すでに実用化され始めています。
「いつか体性幹細胞から作った働く細胞を、いつでも投与できるようになるかもしれません。そうなれば、身体にある体性幹細胞の消費を抑えることができますから、理論的には、寿命をいくらでも延ばすことが可能になるかもしれません」
将来的には、治療が困難とされた病気も再生医療によって治せる可能性があります。が、現状はとても高額なこともあり、すべての人が受けられるものとは言えません。今私たちができることは、自分が持っている大切な体性幹細胞を減らさないことなのです。