「笑う門には福来たる」。昔からあるこのことわざは、どうやら、本当のことのようです。笑いには、健康につながる力があることがわかってきたのです。健やかなココロと身体のためにとり入れている、よい食事と運動。それと同じように、これからは笑いも大切だと言えます。
病気予防の新習慣これからは食事・運動、そして笑い。
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病気予防の新習慣これからは食事・運動、そして笑い。
リウマチや、がんそして糖尿病にも。
笑うとスッキリした、という経験はきっと誰にでもあるでしょう。そのとき、笑いにはココロの中のモヤモヤを晴らす力がある、とも感じたのではないでしょうか。多くの人が“いいもの”だと感じている笑い。なんとなく、経験上でしか説明できなかったことが、最近医学の世界で、きちんと根拠をもって“いいもの”であるとわかってきました。長年笑いの研究を続ける、福島県立医科大学の大平哲也先生にうかがいました。
「最初に笑いと健康の関係が注目されたのは、アメリカのジャーナリスト、ノーマン・カズンズさんがある医学雑誌に発表した1976年の記事です。彼は49歳のとき、原因不明のリウマチ性疾患である難病・強直性脊椎炎(きょうちょくせいせきついえん)にかかり、診断後数週間で半身不随になってしまいました。元通り歩ける確率は500分の1だと言われる中、『ポジティブな感情が、身体によい影響を与えるのでは?』と考え、気持ちを明るくするために笑いを治療としてとり入れたのです。そして、バラエティ番組などを見て10分笑えば、2時間は痛みがなく眠れると気づき、その生活を続けたところ、次第に歩けるようになり、なんと職場復帰までも果たしたのです」
筑波大学の村上和雄名誉教授が行った実験。2型糖尿病患者19人を対象に、退屈な講義と大笑いできる漫才をそれぞれ40分聞いてもらい、食後2時間の血糖値を比較。漫才のほうが、食後血糖値の上昇の値が低いという結果に。
500分の1の奇蹟を起こしたと言える笑い。世界的に注目され、日本でも1990年代に研究が盛んに行われるようになりました。
「主に笑いと免疫の関係を研究したものです。免疫バランスのくずれによって起こるリウマチやアレルギーのある患者に、落語やコメディ映画を見せたところ、好ましい変化が見られたのです。さらには、がんにもよい作用があると考えられるようになりました。笑いは、がん細胞を撃退する免疫細胞・NK(ナチュラルキラー)細胞を活性化することが、さまざまな研究で報告されています」
2000年頃から、免疫力を高めるだけでなく、糖尿病の改善につながることもわかってきました。
「糖尿病患者に漫才を鑑賞してもらうと、血糖値に変化が見られました(上のグラフ参照)。その結果を受け、私たちは笑いと糖尿病の関係を5000人の方で検討したところ、笑っていない人ほど糖尿病が多いことがわかったのです。さらに、その5000人中の糖尿病ではない人を5年間追跡調査すると、笑わない人から糖尿病を発症することもわかりました」
「笑う門には福来たる」。よく笑う人の家には幸福がやってくるというこのことわざは、どうやら本当のようです。これからは、病気予防に笑いが欠かせないものになる、と言えそうです。