"間違った清潔感"のために大切なものを摂れなくなっている?
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"間違った清潔感"のために大切なものを摂れなくなっている?
菌を避けるあまり逃していたあるもの。
菌を怖れ、過剰に清潔を意識するあまり、健康のために必要なものを摂れなくなっていることが近年わかってきました。稲川先生が研究されている"LPS(リポポリサッカライド)"もそのひとつです。
LPSとは土や空気中にいる菌の膜に存在する物質のこと。人間の体内の免疫細胞を活性化し、病気から身体を守る力=免疫力を高めることから"免疫ビタミン"とも呼ばれています。
「土や緑の多い場所で生活をすれば、LPSは自然に摂取できるんです。しかし衛生的過ぎともいえる環境に暮らし、過剰に衛生的にしようとする行動により、LPSが摂取できなくなってきている。このことは現代人の免疫力が下がってきている原因のひとつと考えられているんです」
免疫細胞を活性化するLPSの摂取量が減ると免疫力が下がり、その結果、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなったり、がんなどさまざまな病気を発症しやすくなってしまうことも最近の研究でわかってきています。菌を避ける行動全般によって、そんな弊害も出てくるのです。
LPSでバランスを整えアレルギーを改善!
さらにLPSの摂取不足は、アレルギー発症への関連があることもわかってきています。厚生労働省の調べによると、現在日本人の3人に1人が何らかのアレルギー疾患にかかっているというデータがあります。
2002年、ドイツ・ミュンヘン大学での研究で【アレルギー体質になるかならないかは、幼いときのLPS摂取量による】という研究論文が発表されました。
「田舎に住んでいる子どもと都会に住んでいる子どもを比較し、なぜ田舎の子どもの方がアトピー性皮膚炎やぜんそくになりにくいのか、その原因を調べたもので、結果、両者の間には幼いときに摂取したLPSの量に大きな差があることがわかったのです。自然豊かでさまざまな菌に触れることができる田舎では、その環境がLPSの摂取量を多くしていたと考えられます」
免疫細胞を活性化するLPSには、体内の偏った免疫バランスを正常に戻してくれる働きもあります(下図)。
体内の免疫のアンバランスさから引き起こされるアレルギー反応ですが、LPSはこのバランスを整え、アレルギー症状の改善や予防に役立つことがわかっています。田舎ではLPSがたくさん摂取できるから免疫システムが正常に働き、アレルギーになりにくい。反対に衛生面が整い過ぎた環境では、それができないからアレルギーが年々増加していると言えるでしょう。
現代病とも言われるアレルギー疾患の急増は、LPSの摂取量が減っていることとも深くかかわっています。このことからもやはり、菌に対する誤った認識により、自ら病気になりやすい環境を作り出してしまっていることがわかります。
「特に幼いときのLPSの摂取量は、アレルギーを発症するかどうかの重要なカギとなるので、小さなお子さんをお持ちの方は、過度に衛生的な生活を少し見直してみるといいかもしれません。赤ちゃんは周囲のものを手当たりしだいに舐めようとしますが、神経質にすべてを取り上げる必要はありません。いろいろなものを舐めることで、LPSはもちろん、さまざまな菌が体内に入り、免疫力も上がっていきます。哺乳瓶、おもちゃの除菌・滅菌は、し過ぎたりせず、適度に菌と触れる機会を残しておくといいでしょう」
LPSはもともと、注射することで敗血症という全身性の炎症反応を引き起こす原因物質として発見されました。血液中に入ると強力に全身の免疫を活性化し過ぎてしまうため、発熱や下痢、嘔吐などのショック症状を引き起こすということで、長年害のある物質だと認識されてきたのです。しかしその後の研究で、LPSは口や皮膚からは日常的に摂取されていて、まったく問題がないばかりか、健康維持のためには必要な成分であることが確認されました。