アニマル・セラピーの効果とは
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アニマル・セラピーの効果とは
動物の力で、治療をよりスムーズに。
「動物と一緒に過ごすとリラックスする、楽しい気分になるなど、心の動きや、それによる効果を医療に生かそうというのがアニマル・セラピーです。多くの利点があり、患者に合わせてその利点を使えるものだと考えています」
病院などの施設で動物を飼って世話をしたり、ボランティアやソーシャルワーカーが連れてきた動物と触れ合うなどの方法があります。
「動物と過ごすことで、さまざまな健康効果を得られますが、動物が持つ不思議な力で病気をすべて治してくれるということではありません。現在行われている治療にプラスして行うもの。一番いいとされている治療を、よりなめらかにするために行うものなんです。例えば、心に癒しを与え、健康に役立つとされている音楽やアロマなどに近いと言えるかもしれません」
研究でわかった、動物がもたらす効果。
動物と過ごすことで得られる効果は大きく分けて“生理的効果”“心理的効果”“社会的効果”の3つ。身体で起こる生理的な効果は、血圧に関する報告が多くあるのだとか。
「オーストラリアのベーカー心臓研究所が、心臓病の危険性があると診断された人を対象に行った調査では、動物を飼っていた人の血圧は、飼っていない人と比べて2%低く、コレステロール値も低いことがわかりました。散歩に行く、エサを買いに行く、など、行動する機会が多くなり運動量が増えるのが理由だと考えられます」
心理的な効果は、不安を減らして気力を高めることがわかるそうです。
「ドイツのオルブリック氏が、37か所の老人ホームで100人の入居者にセキセイインコを飼ってもらい、6週間後に飼っていない対象群と比較をする調査を行いました。結果、飼っていたグループは、飼っていないグループよりも、周りとのコミュニケーションが質・量ともに良好になり、孤独や退屈が減り、喜びが増え、ライフスタイルも変化して自身の病気を考え過ぎなくなったことなどがわかりました」
社会的な効果としては、動物が潤滑油となって、人とのつながりが広がるという報告も多くあるそうです。
「日本動物病院福祉協会が1705人に行ったアンケートで、犬と散歩をしていて話しかけられたことがある人が88%、動物を連れていることで友人や知人の輪が広がったという人が68%と高い数字を示しています」
3つの健康効果が、複合的に作用。
動物が存在することで、運動する機会や笑う機会、人と接する機会が増えて、生活が変化し、心と身体によい影響をもたらしてくれるということ。そのことからも、精神科医療やリハビリテーション医療、小児医療老年医療に特に効果があると考えられています。
「自閉症の子どもたちには、動物を飼い、世話をするプログラムが治療に役立っています。動物と触れ合うことで笑顔が増え、思いやりの気持ちが生まれて、それが成長につながるのです。認知症のお年寄りには、かつて飼っていた動物との記憶に触れたり、動物を連れて来たボランティアとのコミュニケーションをとることが刺激になっているようです。股関節に障害のある人にとっては、馬に乗ることが脚を開くリハビリテーションになります。器具を使う同様のリハビリテーションだと感じる痛みを、楽しさが忘れさせてくれるようです。また、ひとりだとおっくうになるウォーキングも、犬と一緒だと散歩として楽しんで続けられるようになる人が多くいます。そのようにアニマル・セラピーは、実に多くの利点があるのです。さまざまな症状の治療に役立つはずです」
現在、帝京科学大学がある上野原市からの依頼で、介護老人福祉施設でのアニマル・セラピーを実施している横山先生。医療の世界に動物が求められる理由を、こう話します。
「認知症や自閉症は、改善しにくいもの。今後、認知症患者の数が大きく増加すると予想されていますし、この状況を変えることが必要になってきています。人間の医療では補えないものを、動物の力で補えるのではと期待されているのでしょう。今後、アニマル・セラピーは、医療に潤いをもたらすものとして、もっと必要とされるようになると思います」
動物が人にもたらすのは、健康を向上させるきっかけ。傍らにいてくれるその小さな存在は、実は思っている以上に、私たちの生活を豊かにしてくれているのかもしれません。