帯状疱疹を発症する人が増えている。近年、ニュースなどでそう報じられています。そんな中、帯状疱疹ワクチンの定期接種がスタート。対象となる65歳以上の人には、案内が送られているはずです。 また、50歳以上の人を対象に、費用を助成する自治体もあります。接種する、しないは、もちろんあなたの選択。その選択のために、帯状疱疹のことを知っておきましょう。
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なぜ増えている?帯状疱疹の原因と背景。
水ぼうそうと同じウイルスが原因。
筆者が帯状疱疹という病気が気になり始めたのは数年前。「帯状疱疹が増えている」というニュース記事を読んだことがきっかけです。その記事にあった「発症しやすいのは50歳以上」「激しい痛みを伴うこともある」という部分に、怖いな、決して他人事ではないなと、50歳を超えた筆者は感じました。筆者が住む自治体では50歳以上が帯状疱疹ワクチンの任意接種の対象。接種したほうがいいんだろうとは思いつつ、周囲に接種した人がいないこともあって迷い続け、結局接種せぬまま今に至っています。
もしかしたら、あなたも同じように迷っているかもしれませんね。そんなあなたに、迷いをなくしてもらいたいと、本特集を企画しました。あなたが50歳を迎えていない場合も、いつか来るその日のための備えになるはずです。
お話をうかがったのは、藤田医科大学の定岡知彦先生。帯状疱疹のウイルスを研究する先生です。
「帯状疱疹の原因は、水ぼうそう(水痘)と同じウイルス。痛みを伴う水ぶくれを引き起こすヘルペスウイルスの一種で、水痘・帯状疱疹ウイルスと呼ばれています。多くの人が子どもの頃に初めて感染し、水ぼうそうを発症。治ったあともウイルスは長い間身体の中に潜み続けます。そして免疫力の低下などで再び目覚めて、帯状疱疹として発症するのです」
水ぼうそうワクチンが帯状疱疹増加の理由!?
帯状疱疹は、水ぼうそうにかかったことがある人なら誰でも発症する可能性があります。では、なぜ今増加しているのでしょうか?
「国内のある研究結果では、子どもへの水痘ワクチンの定期接種が開始された2014年を境に、大人の帯状疱疹の増え方が、子育て世代で加速したことが示されました。水ぼうそうを発症した子どものそばにいる大人は、そのウイルスの暴露を受けます。よくないことのように聞こえるかもしれませんが、それによって大人は、ウイルスへの抵抗力が上がるのです。これを免疫の【ブースター効果】といいます。ワクチン接種によって子どもの水ぼうそうの発症が抑えられると、大人がそのブースター効果を得られなくなるため、帯状疱疹の発症が増えたのではないか、と考えられていますが、結論には至っていません。新型コロナウイルスの感染拡大との関係についても、明らかになってはいないのです。また、日本よりも長い期間データをとり続けているアメリカでは、1950年代からつい最近まで、右肩上がりに増加が続いています。さらに、アメリカは日本より水痘ワクチンが10年以上早く導入されていますが、水痘ワクチン導入と帯状疱疹の増加は関連しないとの報告もあります」
つまり帯状疱疹は、長い時間をかけてじわじわと増えてきた病気。最近になって急増したわけではないのです。先生によると、むしろここ数年、アメリカでは帯状疱疹の発症率は下がってきているというデータもあるそうです。しかし、このまま減り続けていくという確証はないため、今後も注視していく必要があるとのこと。
「これまで撲滅されたウイルスは天然痘のみ。それ以降はありません。私たちはウイルスと闘いながら共存、共生しています。水痘・帯状疱疹ウイルスもそう。どうコントロールしていくか、考えておかなければなりません」
ウイルスは身体のどこに潜む?帯状疱疹が発症する仕組み。
発症は約30%の人。なぜ、発症してしまう?
帯状疱疹と水ぼうそうは同じウイルスであること。そしてそのウイルスとの接触で得られる、ブースター効果があること。先生のそのお話に、筆者は帯状疱疹について、ほとんどのことを知らなかったと気づかされました。さらに知るために、発症の仕組みについて、お聞きしました。
「水痘・帯状疱疹ウイルスを含むヘルペスウイルスは、一度感染すると生涯にわたり、身体のどこかに棲み続けるという特徴があります。インフルエンザなどほかの多くのウイルスは、免疫の力で感染が治まると、身体の中には残りません。では、身体のどこに潜伏しているのか。ヘルペスウイルスは9種類あり、それぞれ潜伏場所が違います。水痘・帯状疱疹ウイルスは【神経節】(下の図を参照)。幼少期に水ぼうそうを発症したあと、皮膚から知覚神経末端部に入り込み、神経線維を辿って脊髄に到着。そこにある神経細胞の集まり、神経節に、ウイルスは眠ったような状態で何十年も潜伏します」
筆者の友人・知人にも帯状疱疹を発症した人はいますが、数名です。発症する人、しない人は何が違うのでしょうか?
「全人類の95%くらいの人が水痘・帯状疱疹ウイルスに感染しているとして、そのうち約70%は一生、帯状疱疹を発症しないと考えられます。それは、神経節の中からウイルスが出てこようとしても、身体の中の異変を監視し、ウイルス感染への防御を担当する免疫細胞、特に【T細胞】や【NK細胞】の働きによってウイルスを抑えられているからです。T細胞の中でも、感染したウイルスを記憶している【メモリーT細胞】の働きは重要で、ウイルスを感知すると、戦闘能力の高い【エフェクターT細胞】として活性化・増殖し、ウイルス感染の拡大を防ぎます。NK細胞の攻撃方法は実に巧妙です。通常は感染した細胞ごと攻撃しますが、自力で再生できない神経細胞にはそうせず、ウイルス増殖に必要なウイルスたんぱく質を破壊することで、細胞を殺すことなくウイルスの再活性化を阻止しています。帯状疱疹を発症する約30%の人は、T細胞やNK細胞の能力が低下してしまった状態だと言えます」
ウイルスは、ここに潜伏。
加齢が大きな原因。ただ、若い人でも発症。
免疫力の低下、つまりT細胞やNK細胞の能力の低下は、加齢が大きな原因のひとつだそうです。
「初めての感染から時間が経つほど、水痘・帯状疱疹ウイルスの“目印”や、闘い方を記憶しているメモリーT細胞が減ってしまいます。さらに【キラーT細胞】やNK細胞の戦闘能力も低下します。加齢によって、それらの免疫細胞も老化してしまうのです」
ただ、帯状疱疹は、年齢を重ねた人だけが発症するわけではありません。
「若い人でも発症します。それは疲労やストレスが原因だと言えます。神経細胞にストレスがかかるとウイルスが活性化することがわかっていますが、なぜ帯状疱疹を発症するのかは、はっきりとわかっていません」
知っているようで知らなかった帯状疱疹。筆者は、T細胞も老化するということが驚きでした。私たちは加齢を止めることはできません。だからこそ、身体の中に棲むウイルスへの対処方法を知っておくべきなのだなと感じました。
発症に備える。帯状疱疹から身体を守るために。
接種する、しないもあなたの大切な選択。
迷い続けた筆者ですが、やはり、ワクチンを接種しておこうと思い始めています。ただ、それにはメリットだけでなく、やはりデメリットも……。ワクチンは弱毒化生ワクチンと、不活化ワクチンの2種類があり、世界的に主流になりつつある不活化ワクチンには、発熱などの副反応が比較的多く現れるようなのです。
「ワクチンは、健康になるためのものではありませんから、恩恵を感じにくいものだと言えます。接種するかどうかは、その人の選択。しかし、もし発症してしまったら。ひどい場合は、治まってから3か月以上痛みが続くことも、失明することもあります。帯状疱疹を発症するのは全体の約30%ですが、その中に入ってしまう可能性は誰にでもあります。どう考えるかは人それぞれ。最良の選択を考えましょう」
発症してしまった場合、それが帯状疱疹だと気づかない人も多いようです。帯状疱疹は早めの治療が大切。発症時の対処を知っておくことも、身体の守り方です。ワクチンを接種する人も、しない人も。帯状疱疹から大切な身体を守りましょう。
予防のためにストレスと日光を避ける。
「日々できる予防法は、ストレスを受けないようにすること。好きなことをする、好きなものを食べるなどの工夫を。さらに、日光をできるだけ避けることが有効かもしれません。水痘・帯状疱疹ウイルスの仲間である口唇ヘルペスウイルスは、紫外線によって再活性化されることがあるからです。ストレスがあるときは特に、日かげに入る、日傘や帽子を活用するなどしましょう」
早めの治療が大事だから。帯状疱疹の特徴を知っておく。
「皮膚に赤みが出るという点で蕁麻疹(じんましん)かと思う人がいるようですが、蕁麻疹はかゆみのみ。帯状疱疹はピリピリとした痛みがあります。そして、発疹が帯状に、身体の片側だけに現れるのが特徴です。最初は触ったときに違和感がある程度ですが、次第に発疹は水ぶくれを伴い広がっていきます。痛みがあれば帯状疱疹を疑って、早めに皮膚科など医療機関を受診しましょう。72時間以内に抗ウイルス薬で治療することが望ましいとされていますが、早ければ早いほうがいい。もちろん72時間を過ぎたとしても間に合わないということではありません」
失明などの合併症、痛みが残る後遺症につながることも。
「帯状疱疹が頭部や顔面に発症した場合は、失明や、一時的な顔面麻痺などの合併症を引き起こすこともあります。また、【帯状疱疹後神経痛(PHN)】という非常につらい後遺症につながる可能性もあります。帯状疱疹が治まっても3か月以上痛みが残るというものです。ウイルスが増えることで起こりますから、早く抑えることが大切です。もしPHNのような病態になったら、ペインクリニックに相談することで、痛みをコントロールできるようになるかもしれません」
帯状疱疹だけでなく、認知症予防効果も期待できる。
「イギリスの大規模調査で、弱毒化生ワクチンを接種した人は、しなかった人に比べ接種7年後の認知症発症率が20%減少したことがわかりました。さらに女性に効果が顕著に現れることもわかっています。アメリカでは、弱毒化生ワクチンと不活化ワクチンの認知症予防効果を比較する研究が行われ、不活化ワクチンのほうがさらに効果が高いという結果が出ています」
Markus Eyting, et al.Nature.2025 May;641(8062):438-446.
Maxime Taquet, et al.Nature Medicine. 2024 Jul; 30: 2777-2781
どう選ぶ?帯状疱疹ワクチンは2種類。
「弱毒化生ワクチンと、不活化ワクチンの2種類があります。弱毒化生ワクチンは水ぼうそうの予防にも使われる安全性の高いワクチン。水ぼうそうの予防には高い効果があるものの、帯状疱疹の発症予防効果はおよそ50%。持続期間は約5年とされています。対して不活化ワクチンは90%の発症予防効果があり、持続期間は約10年。現在の主流になっています。多くは数日で治まりますが、発熱や頭痛、筋肉痛、接種部分の腫れや痛みなどの副反応が現れることがあります。2回接種する必要があり、最初の摂種から6か月以内に2回目を完了しなければなりません。それぞれの特徴を踏まえて選択を」















