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知っトク!?健康スキル

スキンケアは老若男女に必要。健康を支える「皮膚」という臓器の話

掲載号 vol.63

あなたは、“皮膚の老化”と聞いて、どんなことを思い浮かべますか?シミやしわ、たるみ。そう考えたのではないでしょうか。もちろん、それも皮膚の老化です。でも、人生100年時代と言われる今、その先にあることも考えておかなければなりません。皮膚の老化とは何なのか、なぜスキンケアが必要なのか。ロートで研究開発職に就く、きむしゅんが、九州大学で皮膚の再生や老化を研究する佐田亜衣子先生にインタビューしました。

記事内容

読了時間:分

目次

人生100年時代に備える!あなたを守る臓器、皮膚。

皮膚は、身体の外側で命を守る、大切な臓器。

きむしゅん「私はロートで、スキンケア製品の研究開発にとり組んでいます。今、スキンケア製品にはさまざまなものがあり【幹細胞】に注目したものも登場しています。開発者として、スキンケアにおける幹細胞についてより深く考えていきたいと思っています。佐田先生は、皮膚再生や老化のメカニズムを解明すべく、幹細胞研究を行っておられますね。なぜ、幹細胞に着目されたのですか?」

佐田先生(以下、先生)「幹細胞には、さまざまなものがあります。よく知られているiPS細胞や、ES細胞は身体のどの細胞も生み出せる万能細胞。私が研究しているのは、その組織を作ることに特化した【組織幹細胞】で、皮膚の表皮組織を作る【表皮幹細胞】です。皮膚は、目で見ることのできる数少ない臓器のひとつ。老化を観察しやすい臓器です。身体の一番外側で、さまざまなストレスにさらされていますから、ほかの臓器に比べて老化が早く進んでもおかしくないはずなんですが、皮膚は私たちの一生を通じてなくなることはありません。とても長生きなんですよね。なぜ老化しやすい環境にありながら、長生きなのか。それを解明すれば、皮膚の老化のメカニズムはもちろん、人間の老化のメカニズムもわかるのではないか、と考えました」

きむしゅん「皮膚は臓器。その言葉がとても印象的です」

先生「そうかもしれませんね。皮膚を臓器だと捉えていない研究者もいますから。でも、皮膚は多機能な臓器。体温調節や痛みなどの感知、皮脂を分泌し乾燥を防ぐなどさまざまな役割を果たしています。その中で、身体の中を守る働き、つまり【バリア機能】が皮膚の最も重要な役割だと言えます。紫外線や化学物質、細菌など刺激や異物から、身体を真っ先に守っています」

きむしゅん「例えば重度のやけどを負って、脳や胃や筋肉が無事であったとしても、皮膚が大きく失われると命にもかかわります。皮膚は命を守る臓器であるとも言えますよね」

先生「皮膚が失われた身体は、いわば“むき出し”のような状態。必要な水分が蒸発し、生命維持が難しくなることもあります」

〝スキンフレイル〟は、日常生活に大きく影響。

きむしゅん「皮膚は生きるために必要なものであるにもかかわらず、そのような重要な役割を担っていることは、あまり知られていないように思います」

先生「皆さん、老化による顔のシミやしわ、たるみのほうが気になりますよね。それも、もちろんわかります。が、顔に限らず身体の皮膚の機能を低下させないよう、大事にしてほしいのです。今は人が100年生きると言われている時代。長く生きるからこそ起こってくるさまざまな皮膚の問題があります。そもそも皮膚は再生能力が高く、傷を負っても治るのですが、老化するとやはり治りにくくなります。さらに、ひどく乾燥して強いかゆみが起こったり、厚みがなくなるので、ちょっとした刺激で出血する、痣が長く残るということもあります。皮膚のバリア機能が低下すると、感染症にかかりやすくなるとも考えられます」

きむしゅん「脳や心臓の老化は怖いと、多くの人が知っています。でも、皮膚の老化はそうではありませんよね。ほかの臓器と同様、皮膚の老化も、不便や不快感から日常生活に大きな影響を与えるものだと、多くの人に知ってもらいたいと思っています。最近は皮膚の虚弱状態を示す【スキンフレイル】という言葉が使われるようになってきました」

先生「ほかの臓器は、老化自体が“加齢性の疾患”だと考えられることもあります。皮膚はスキンエイジングという言葉で表現されることもあるので、美容寄りの印象があるのかもしれません。でも、皮膚もほかの臓器と同じように、疾患になる手前、機能が低下した状態になります。スキンフレイルを予防するという意識を持っておいてもらえたらと思います。表皮幹細胞は枯渇することはありませんが、やはり老化はします。表皮幹細胞を見ていると、50〜60代で変化してくることがわかるんですよ。そこから機能低下が始まっていると言えるでしょう。人生100年時代を健康に、楽しんで生きていくために、皮膚の機能維持は欠かせないと考えています」

From 佐田先生:長く生きるからこそ皮膚の問題が起こってくる、というメッセージ(研究者イラスト)

意外に知られていない!?ターンオーバーの本来の役割。

環境が過酷だからこそ、常に新しく作り替える。

きむしゅん「“健康な皮膚の維持”は、美しさや若々しさを保つことだという考えが多い今、【ターンオーバー】も、美容目的で必要だと理解されているように思います」

先生「そうかもしれませんね。ピーリングでターンオーバーを活性化させて美しい皮膚を作る、といった美容法もあります。確かに間違いではないのですが、本来ターンオーバーとは、バリア機能のために、皮膚の角質層をとり替える仕組みのこと。皮膚は過酷な環境にありますから、常に新しく作り替える必要があるのです。表皮幹細胞は、表皮と真皮の間にある基底膜に存在していて、そこで【表皮細胞】を作っています。その表皮細胞が表面に向かって徐々に移動していき、新しい皮膚となります。そして、さまざまなストレスを受け古くなった皮膚は最終的に垢となってはがれ落ちます。常に繰り返される、この周期や工程が一定なのが正常な状態。それによって、健康な皮膚が作られるわけです。その周期が長くなったり、短くなったりすることも“ターンオーバーの乱れ”ですし、新しい表皮細胞を生み出さなくなるという、工程の変化も“乱れ”です。それがシミやしわ、たるみの原因にもなるんですが、身体を守る力が低下することのほうが問題だと思っています」

きむしゅん水分を保った厚みのある表皮を安定して生み出せるのが、正常なターンオーバー。その中で最も重要なのは、表皮幹細胞が、新たな表皮細胞を生み出すという工程ですね」

先生「そうです。表皮幹細胞自身がきちんと働くことに加え、表皮幹細胞が存在している、基底膜の状態も非常に重要です。表皮幹細胞の衰えは、細胞自身の中で起こることもありますが、表皮幹細胞を支えている環境も関係していることがわかっています」

きむしゅん「基底膜は、表皮幹細胞が立っている場所。足場ともいうべき場所です。表皮幹細胞を衰えさせないために、基底膜の状態を整えることも大事ですね」

新しい皮膚を作るため、繰り返されるターンオーバー。

基底膜の上に存在する表皮幹細胞が、新しい表皮細胞を作る。それが形を変えながら徐々に上層へと移動し、最終的には垢となってはがれ落ちる。

皮膚の断面図(角質層・表皮・真皮)とターンオーバーの流れ。基底層/基底膜/表皮幹細胞の位置を示す図

表皮幹細胞の分裂速度は、 加齢によって偏っていく。

若齢皮膚には、表皮幹細胞の分裂が活発なものと遅いものがバランスよく存在しているが、加齢によって次第に分裂が遅いものに偏っていく。分裂が活発なもの、遅いものそれぞれが機能を持つことで、健康な皮膚を維持していると考えられる。

若齢皮膚と老齢皮膚の比較図。加齢により表皮幹細胞の分裂速度が「活発なもの」から「遅いもの」へ偏っていくことを示す

Raja E, Changarathil G, Oinam L, Ngo YX, Tsunezumi J, Ishii R, Sasaki T, Imanaka-Yoshida K, Yanagisawa H*, Sada A*: The extracellular matrix fibulin 7 maintains epidermal stem cell heterogeneity during skin aging. EMBO Rep. 23(12): e55478, 2022. を改変 ※表皮幹細胞に着目した図

健康な皮膚の条件は幹細胞のバランス!?

きむしゅん「先生は、ご研究の中で、表皮幹細胞には、ほかの多くの幹細胞にない特徴があることを発見しておられますね」

先生「はい。組織幹細胞の多くは、新たに細胞を生み出すための細胞分裂の頻度が多くなると、機能が衰えていくと考えられています。しかし、表皮幹細胞においては分裂の頻度が低いものだけでなく、活発に分裂する細胞も同じように長期的に働くことがわかりました。分裂の頻度が高くても機能が衰えにくいのです。さらに、20〜30代の若年層では分裂が活発なものと遅いものがバランスよく存在しているのに対して、50〜60代では、遅いものだけになっていくこともわかっています」

むしゅん「そこから、どんなことを推察されているのですか?」

先生「分裂の早いもの、遅いもの、それぞれが機能のすみ分けをしているのではないかと想像しています。傷ができた時や、外側から紫外線などのストレス刺激が入った時などで、それぞれの反応が違うのです。加齢によって、分裂が遅いものだけになっていくことを考えると、分裂が早いもの、遅いものの機能があることで、健康な皮膚を維持しているのではないかと考えています」

きむしゅん「健康な皮膚には、分裂が早い細胞、遅い細胞ともに必要である可能性がある。そう考えると生物の生きる知恵を感じます。人それぞれのストレスや老化を考えた、100歳でも健康な肌の維持が叶う、新しい技術の誕生に期待が膨らみます」

From 佐田先生:バリア機能のために皮膚の角質層を取り替える「ターンオーバー」の仕組み、という説明(研究者イラスト)

100年を健やかに生きる。健康を作る、全身のスキンケア。

スキンケアが必要なのは若い女性だけじゃない。

きむしゅん「50代、60代の女性から『もう私にはスキンケアなんて必要ない』という声を聞くことがあります。恐らく、美しい肌を目指す年齢ではないという意味だと思います。そういった声を聞くたび、健康な皮膚を維持するために続けてほしいのになと思います」

先生「スキンケアが必要なのは、若い女性だけではないですよね。100年を健やかに生きることを目指すために、すべての年齢、性別でスキンケアは必要です。顔だけではなく全身の。最近はスキンケアをとり入れる男性も多くなってきましたが、男らしくないということから、スキンケアを否定する男性はまだまだ多いように感じます。ゴルフやランニングなど、屋外でスポーツを楽しむ時には特に、日焼け止めを塗ってほしいなと思うことがあります」

きむしゅん「ちなみに私は、真夏でも長袖を着用します。紫外線ストレスから皮膚を守る意味で」 先生「紫外線カットはしてほしいスキンケアのひとつですね。表皮幹細胞の負担を軽減することになります。そして、保湿も大事」

きむしゅん「高齢の方が保湿剤を4週間ほど使い続けると、肌が潤い、粉吹きや小じわ、キメの状態が改善したという報告もあります。市販の手頃な価格帯の保湿剤であっても改善が見られたそうです。ご本人の実感だけでなく、ご家族の気持ちにもよい影響を与えることができたという事例もあり、心と身体、両方の健康の基本に保湿があると感じています」

先生「皮膚は目に見えるものですから、改善を実感できますよね」

きむしゅん「かつて私が、実験用に使うヒトの皮膚モデルを開発していた時のこと。その皮膚モデルにビタミンCを枯渇させるということをやってみると、ターンオーバーが異常になり、Ⅳ型コラーゲンなど基底膜の成分の大幅な減少も起きました。大きな変化だったのでビタミンCはかなり重要だなと感じました」

先生「具体的にどういった成分やケアが有効か、まだまだ詳しい研究が必要ですが、少なくとも紫外線は幹細胞にも、基底膜にも悪影響を及ぼすことがわかっています。紫外線カットはやはり欠かせない、とは言えますね」

ビタミンCで、基底膜成分が増加。

ビタミンCを枯渇させた皮膚モデルと、ビタミンCを塗布した皮膚モデルを比較。枯渇させたものは、基底膜成分であるⅣ型コラーゲン(緑色の部分)がほとんどないのに対し、塗布したものは増加が見られる。ビタミンCは重要だと言える。

ビタミンCを枯渇させた皮膚モデルと、ビタミンCを塗布した皮膚モデルの比較画像(角質層・表皮・真皮の表示つき)

Kimura, S., Tsuchiya, A., Ogawa, M. et al. Tissue-scale tensional homeostasis in skin regulates structure and physiological function. Commun Biol 3, 637 (2020).

From 佐田先生:研究が進めば100年間健康な皮膚を実現できる可能性がある、というメッセージ(研究者イラスト) From きむしゅん:100年を支える未来のスキンケアを作りたい、というメッセージ(人物イラスト)

インタビューしたのは
このロート社員

きむしゅん

きむしゅんのイラスト

2010年ロート製薬入社。スキンケア素材の研究開発、処方開発を担当後、理化学研究所へ出向し、人工皮膚を開発。18年より、スキンケア基盤技術研究と素材開発を担当

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この先生に聞きました!

佐田 亜衣子 先生

佐田 亜衣子 先生

さだ・あいこ

九州大学
生体防御医学研究所
皮膚再生老化学分野 教授

静岡大学 理学部卒業。総合研究大学院大学 生命科学研究科博士課程修了。米国コーネル大学 博士研究員、筑波大学 生存ダイナミクス研究センター 助教、熊本大学 国際先端医学研究機構 特任准教授などを経て、2023年より現職

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