幹細胞の働き | 寿命を迎えた細胞の代わりを作り出す
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幹細胞の働き | 寿命を迎えた細胞の代わりを作り出す
ひとつの細胞から始まるヒトの生命。
幹細胞は、あらゆる細胞のもと。そう聞いても、そのすごさにピンとこないかもしれません。確かに少し難しい話です。幹細胞について理解を深めてもらうために、まずは、私たちの身体の中で細胞がどのように働いているのかをご説明しましょう。
私たちヒトは、たったひとつの受精卵という細胞がもとになっています。このひとつの細胞がふたつに分かれ、ふたつが4つになり……、と分裂を続けてどんどん増え、それが皮膚や骨格、内臓などに変化して次第に身体が作られて、この世に生まれます。個体としての誕生は出産のときですが、受精卵ができたときから生命は始まっています。そして今ある私たちは、60兆個もの細胞の塊だと言えるのです。
それぞれの細胞には役割があり約270種類に分けられると考えられています。例えば、皮膚の一番外側にある細胞には、外からの異物の侵入を防いだり、内側の水分の蒸散を防ぐ役割が。筋肉や骨の細胞は、周りの組織と協力しながら、身体を動かす・支える仕組みを作る役割があり、神経の細胞は、痛みなどの感覚を脳に伝え、脳からの信号を必要な箇所に伝える役割があります。血液中にある赤血球や白血球も細胞です。赤血球は身体中に酸素を運ぶ役割があり、白血球には、侵入してきた菌やウイルスと戦う役割があります。細胞の役割は実にさまざま。
ここでは簡単な説明になってしまいましたが、身体中の細胞がどのように機能しているかを知ると、自分の身体のことながら、実によくできた精密機械のようだと驚かされるはずです。呼吸をするのも、ものを食べるのも、運動をするのも、ものを考えるのも。私たちのすべての活動は、細胞の働きによって支えられているのです。
細胞の主な働き
連携して修復する働く細胞たち。
ただ、こうした精密な働きをする細胞も、先にお伝えしたように寿命があり、その細胞ごとのサイクルで生まれ変わっています。アクシデントによって、寿命より早く死を迎えることもあります。
ケガや炎症、病気などが細胞の寿命を短くするアクシデント。それが起こったとき実に多くの細胞が働くことを、ケガを例にご説明しましょう。
まずケガをすると皮膚の一番外側の細胞が傷つき、菌などの異物の侵入を防げなくなります。それに加えて赤血球などの細胞を含む血液が流出します。それは身体にとっての一大事。その状態を一刻も早く収めるために、血小板という細胞が、破れた血管を修復します。いくつかの過程を経て血液と皮膚のバリア機能を守ることができると、次に白血球が傷口へ向かいます。そこから入り込んだ菌と戦って一大事を収めるのです。
そして今度は皮膚組織の出番。再生する細胞が傷口に集まって、元々の皮膚の状態へと戻すために働きます。炎症や病気も同じく、そこで起こっているトラブルを収めるために多くの細胞が働き、寿命を迎えます。
「トラブルが起こると多くの細胞が失われますから、そこで大切な幹細胞を使わなくてはならなくなってしまうのです。幹細胞は、寿命を迎えた働く細胞の代わりを作り出すために身を削っているのです」
私たちの身体を作る数々の大切な細胞。そのもとになる幹細胞は、いわばあらゆる細胞の上に立つリーダーのような存在だと言えます。次ページからは、幹細胞についてもう少し詳しくお伝えしていきます。